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第5弾 踊り明かそう

In all dream(みんな夢の中)

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 それから夜10時も近くなると、

「も~、無理~」

「足、痛ぁい~」

「ぐへ~」

「ギブアップ」

 スーザンとチェルシー、ヘンリーとハワード、先住民キャスト達もヨロヨロと戻ってきた。

「だらしないわね~。わたしなんてまだまだ。若いコとは鍛え方が違うんだから」

 マダムは余裕綽々でグビッとミネラルウォーターを飲む。

「俺もな」

 ロバートはシャンパンをグビッと飲んだ。

 1曲終わるごとに5分間のインターバルがあるのだ。


「も、ルル、動けない」

「――(コクコク)」

 ルルとバッキーの太田は壁に背を凭れ、ぬいぐるみのように足を床に投げ出してグロッキーしている。


 続々と脱落者が出て、まだ踊っているのは10組20人だけになった。

 1人1人が踊った曲数の勝負なのでパートナーは曲ごとに替えられる。

 今のところトップはバミー、バーバラの2人とマッチョの男性ダンサー3人だった。

 マダムとロバートは出遅れて参加したので5位以内にも届かないが、たんに日頃のストレス解消と体力自慢で踊っているのだ。

「……」

 マダムとロバートの目がバチッと合う。

「ラスト2時間、いけそうか?」

 ロバートがマダムに手を差し出す。

「勿論よ」

 その手をマダムが取る。

 ~~♪

 次の曲が始まった。

 マダムは優雅にカーテシー(左足を引いて膝をちょっと曲げるお辞儀)して、ようやく2人は一緒に踊リ始めた。


「マダム、やっとロバートさんと踊ってる。――そうだっ」

 ミーナはいつもお世話になっているマダムへのお礼にダンスシーンをビデオに収めてあげようとテーブルに小走りした。

「ごが~」

 ロッキーも仲間の保安官キャスト3人もとっくに酔い潰れて高イビキだ。

(――あら、なんだ。ビデオ、ずっと回ってたのね?)

 ロッキーはビデオカメラをホールの中央へ向けて固定して回しっぱなしで飲んでいたのだ。

(うん、ちゃんと良いアングルになってる。さすがパパ)

 ミーナは一安心して椅子に戻った。


 ~~♪

「……」

 ジョーはムズムズと貧乏ゆすりのように足を動かしている。

「ジョーさんも踊りたくなったんっしょ?(モグポリ)」

 メラリーは右手にソーセージ、左手に野菜スティックを持ち、同時に美味しく食べる方法を編み出していた。

「べ、べつにダンスがしてぇ訳じゃねぇけどよ。手持ち無沙汰で退屈だしよ。身体、動かしてねぇと落ち着かねぇ性分だしよ」

 ジョーは今にも暴れたそうにウズウズしている。

「無理してじっとしてなくていーのに」

 メラリーは少しも退屈していない。

 楽団の演奏でみながクルクルと踊っている様を眺めながらの食事はなかなかオツな気分だ。

「よ、よしっ。メラリー、腹ごなしだ。来いっ」

 ジョーは椅子から勢い良く立ち上がり、メラリーの腕をガシッと掴んだ。

「えっ?なに?ま、まさか??」

 メラリーはさらわれるようにジョーに引っ張られていった。

 
「――あ、あれ?」

 クララはハッと目醒めた。

 上体を横に倒して隣の椅子の座面にホッペタをくっ付けて寝ている格好だった。

「――わたし、いつの間に椅子に戻ったの?――それとも、テラスへ行ったのは――夢――?」

 夢うつつでぼんやりと呟く。

「もぉ、クララ、記憶がないほど酔っちゃったの?さっきフラフラでアランに抱えられて戻ってきたんじゃない」

 ミーナが呆れ顔する。

「ええ~?」

 まったく覚えてなかった。

「クララったら椅子に座るなり、横にコテッと倒れて爆睡だったのよ」

「やだ~」

 クララはみっともない姿をジョーに見られてしまったかと慌ててキョロキョロして、

「――あれ?ジョーさんは?」

 壁際の椅子にジョーがいないことに気付いた。

「ああ、ジョーさんなら――」

 ミーナがテラスを指差した。

「――ん?」

 クララはずっと先のテラスに目を凝らす。

 身体をピタッと寄せ合うジョーとメラリーの姿が見えた。

 
「な、何で?何で、あの2人がダンスを?」

 唖然とするクララ。

「やあね。クララ、寝惚けてるの?よく見てよ」

「――え?」

 クララは寝惚けまなこをゴシゴシとこすった。

 
「んん~~っ、押し出し~~っ」

「無理だろ。うりゃ、上手投げっ」

「わっ、ズルイ。体格差が有り過ぎっ」

「ケケケ、相撲は無差別級だろ~」

 ジョーとメラリーは相撲を取っているのだ。

 
「――お相撲――」

 クララはクタッと脱力した。

「あら?ローストビーフ、まだ残ってるっ。メラリーちゃんがいない隙にっ」

 ミーナは紙袋からガサゴソと大きなタッパーを取り出し、

「ふふっ、タッパー持参よ。ドレスと美容院で散財しちゃったもの。少しでも節約しなきゃ。あ、チーズとソーセージも」

 せっせと料理を詰め始めた。


「はっけよい、のーこた、のーこった」

 テラスではジョーとメラリーがトムとフレディも巻き込んでまだ相撲を取っている。


(わたしも、お相撲、取りたい)

 クララはグスンと鼻を鳴らした。


 やがて、夜11時も過ぎると、

「クー」

「ス~」

「ガガ~」

 楽団とダンス以外のキャスト達は椅子や床で寝息を立て始めた。


 ~~♪

 ホールの中央では10組のペアが踊り続けている。

 いや、ペアは何故か11組いた。

 いつの間に現れたのかダイダイ色のタキシードとダイダイ色のドレスのペアが踊っている。

 ダイダイ星人の夫妻だ。

 ついに、たい平師匠カラーのドレスが揃った。

 笑点の大喜利コンプリート。

 だが、

「ぐかぁ」

「くぴ~」

 ジョーもメラリーも爆睡でダイダイ星人の姿を見ることはなかった。


「え~、イブの夜も残すところ、あと5分となりました~」

  燕尾服にシルクハットの太ったオッサン司会者がステージに上がってきた。

 よく見たらロデオ大会と同じ司会者だ。

「さあ、皆さ~ん、クリスマスまでカウントダウンで~す。前へ集まって下さ~い。皆さ~ん?」

 呼べど叫べど誰も起きやしない。

「……」

  苦虫を噛み潰したような顔の司会者。

「カウントダウンしますよ~っ」

 司会者は仕方なくクラッカーをまとめて何個も手に持った。

「5、4、3、2、1――」

 クラッカーの紐を力任せに引っ張る。

「メッリークリスマ~~~ス!!」

 パンッ!
 パンッ!
 パンッ!
 パンッ!

「んあ?」

 寝惚けたジョーは思わずホルスターから拳銃を抜き、早撃ち。

 ガン!

「ひゃっ」

 司会者のシルクハットが吹っ飛ぶ。

「Hit――」

 寝惚けたメラリーは命中の旗のつもりでフォークを天井に突き上げた。

           

 第6弾につづく。
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