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第5弾 踊り明かそう

in a trance(うっとり)

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「もう9時過ぎね」

「カレンもウルフくんも寝ちゃったわ」

 クララとミーナは振り子の揺れる大きな柱時計を見た。

「すぴ~」
「く~」

 カレンとウルフは踊り疲れて長椅子でぐっすりだ。

「ねえ?パパ、踊らない?」

 ミーナは今度こそとロッキーのいるテーブルのほうへ見返る。

「うははっ」

 ロッキーは仲間の保安官キャスト3人とご機嫌で酒盛りしている。

「あ~、飲んじゃってる~」

 ミーナは諦め顔して吐息した。

「も、いいわ。わたしは子供達、見てるだけで満足」

 カレンとウルフの寝顔を見つめるミーナ。

(わたしだって、見てるだけよ)

 クララはジョーの座っているほうへチラと目を向けた。


「メ~ラリ~、たまには肉以外も食えよ。野菜が足りねぇだろ?――ほら、あ~ん」

 ジョーは野菜スティックのキュウリをメラリーの口に押し付けている。

 退屈になってちょっかいを出したいらしい。

「キュウリなんかカッパの食べ物じゃん~。(ポリポリ)」

 メラリーはイヤイヤそうにキュウリを食べる。

「ほら、ニンジン」

 続けて野菜スティックのニンジンをメラリーの口に押し付ける。

「んん~、生のニンジンなんか馬の食べ物じゃん~」

 メラリーはニンジンは固く拒否してブンブンと首を振る。

「野菜は肉の3倍、食えって。このっ」

 ジョーはメラリーの首に腕を回してロックし、しつこくニンジンを口に押し込もうとする。

「く~、ダイヤみたいに指、噛んでやる~」

「あ、コイツ、ニンジン食うまで、肉、食わせねぇ」

 組んずほぐれつ揉み合うジョーとメラリー。


(ふ、ふんだ、なによ。楽しそうに)

 クララはじゃれ合うジョーとメラリーを見ているうちに無性にムシャクシャしてきた。

「えい、飲んじゃえ」

 テーブルからシャンパンを取ってヤケ酒にグビグビとあおる。

「あら、クララ、お酒、飲めたっけ?あ~あ、わたしはパパが飲んじゃったし、帰りの車、運転しなきゃだから我慢だわ~」

 ミーナはつまらなそうにジンジャーエールをグビリと飲む。


「メ~ラリ~」

「しつこいっ」

 ジョーはメラリーにニンジンを押し付けてはイヤがられて噛まれたり蹴られたりして嬉しそうだ。

「ジョーさん、ドMだから」

「だな」

 トムとフレディは椅子にぐったり横たわったまま呟いた。


(ふ、ふんだ)

 ムシャクシャと飲んでいるうちにクララは頭がカッカとのぼせてきてしまった。

「あ~、熱い。ちょっと風に当たってくる~」

 クララは手で顔を扇ぎながら酔い醒ましにテラスへ向かった。


 ガラス張りの扉を出ると冷たい風が火照った頬に気持ち良い。

(わあ~、すごい星~。綺麗~)

 そもそもド田舎なので冬の澄みきった夜空は星が降るようだ。

(――ん?)

 夜空から視線を下げるとテラスの手すりに並んだカップルの後ろ姿が見えた。

 見覚えのあるライラック色のドレス、白地に紫色のラインの楽団のコスチュームはアニタとケントだ。

 クララは何の気なしに声を掛けようとテラスへ1歩、踏み出す。

 ところが、

 アニタとケントはやにわに身体の向きを変えてKissをしたではないか。

(ああっ?)

 クララは思いっ切り顔を歪めた。

 綺麗な星空の下でKiss。

 クララが夢に描いたシチュエーションをアニタはまたしても実体験している。

(くうぅ)

 まるでアニタに自分の夢を横取りされているかのような逆恨みの感情が沸き起こる。

 クララはクルッと踵を返し、テラスを出た。

(――あ、あれ、やだ。わたし酔ってるの~?)

 気が高ぶって酔いが回ったのかフラフラして真っ直ぐに歩けない。

「あ――っ」

 足がもつれて泳ぐように両手で宙を掻く。

「あ~~」

 このまま床に転倒はまぬがれまいと思ったが、真横から素早く伸びてきた腕にフワリと身体を抱えられた。

「大丈夫?」

 自分の身体を抱えている相手を見上げると、ものすごいハンサムだ。

(――あ、アラン)

 騎兵隊キャストのアランだった。

 みなが「アラ~ン」「アラ~ン」と騒いでいたのでアランのことは間接的には知っている。

「あ、ありがとう」

 アランの両腕に抱き抱えられている体勢にクララの胸はドキドキと高鳴った。

「危なっかしいから椅子まで送るよ」

 アランはニッコリしてクララの脇に腕を回したまま歩き出した。

 若い男子とこんなに長々と身体を密着させるのは生まれて初めてだ。

 酔っているせいなのか少しも抵抗感がない。

 なによりアランは背が185㎝と高く、ものすごいハンサムなのだ。

(ああ、なんか、素敵――)

 クララはうっとりと夢見心地でアランを見つめていた。
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