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第5弾 踊り明かそう

Will you dance with me?(踊っていただけますか?)

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「あら~、みんな早いのね~」

 マダムとタマラが会場へ入ってきた。

 マダムは白い肌とミルクティー色の髪によく映える濃いグリーンのドレスだ。

「お、グリーンっ」

「司会の歌丸師匠カラーまで揃ったっ」

 ジョーとメラリーは相変わらずドレスの感想は笑点繋がりでしか出ないらしい。


「さすが大人の女~って感じ」

「う、うん。いつもの数倍、色っぽい」

「やっぱり敵わないなぁ」

 ミーナ、クララ、アニタは年増のマダムから発散される大人の色気を前に身がすくむほどだった。


「まさかマリーちゃん、わたしにまでドレスを貸してくれるなんて思ってもみなかったわ~」

 タマラはベージュのシックなドレスを着ている。

「ドレスを選んでたらタマラさんにピッタリのドレスがあったのよ。思ったとおり似合ったでしょ?」

 マダムは自分のコーディネートに満足げにタマラを眺める。

 スラリと背の高いスレンダーなタマラはドレスを着るとエレガントな風格を醸し出している。

「まあね」

 タマラも自画自賛で胸を張った。


「アニタ、お待たせ」

 ようやく楽団の交替時間で休憩になったケントが走ってきた。

「あぁ、やっとよぉ」

 アニタは顔をほころばせて立ち上がり、ケントに向かって走っていく。

 ~~♪

 2人は熱く見つめ合いながらラブラブな雰囲気で踊り出した。

 クララが空想で描くカップルをいつでもアニタは実体験している。

(ちえ~、いいなぁ)

 クララは羨ましげに吐息した。


「――あっ?ロバートさんとウルフくんが来たわ」

 ミーナが待ち兼ねたように声を弾ませた。

 黒いタキシードのロバートがライトグレーのスーツのウルフを連れて会場に入ってくる。

「あ、あら、素敵ね~。ウルフ~」

 マダムは目をキラキラさせる。

「この間、ひと月遅れで七五三の写真、撮ったばかりだからよ、そん時のスーツ。タイガーのお下がりだけど、タイだけはウルフの好きな赤いのを買ったんだよな?」

 ロバートがウルフの頭をグリグリする。

「えへへ」

 ウルフは赤いリボンタイを引っ張ってみせた。

「あら、うちのカレンも七五三のドレスなんです。ちょうどいいタイミングだったんですね~。――カレ~ン?ウルフくん、来たわよ~」

 ミーナは片隅の長椅子でロッキーとデザートを食べているカレンを手招きする。

「お、それじゃ」

 ロッキーはいそいそとビデオカメラを取り出した。

「ウルフくん、おどろっ」

「うんっ」

 ウルフのライトグレーのスーツにカレンのローズピンクのドレスの色合いもピッタリだ。

(いいなぁ)

 クララは5歳と3歳のカップルにも羨ましげに吐息した。


「ロバートさん、タイガーは?」

 ジョーは野菜スティックのニンジンをパリポリ齧りながら訊ねた。

「ああ、もう昨日から冬休みだからお祖母ちゃんちに泊まりに行ってるよ」

 ロバートはシャンパンをグビグビとあおる。

「……」

 マダムは期待でドキドキしていた。

 ロバートは酒が入ればダンスくらいはノリノリで踊り出すのだ。

 そこへ、

「ロバートさ~ん、踊っていただけます~?」

「わたし達と順番に~」

 フレンチカンカンの踊り子5人がキャッキャと駆け寄ってきた。

「――っ」

 マダムの目がみるみる吊り上がる。

「喜んで」

 ロバートはニッコリと踊り子の手を取ってホールの中央へ向かった。

 ~~♪

 ショウのパフォーマーだけにロバートは熟練の身のこなしで軽やかなステップだ。

「お~、かっけー。こなれてる感じ」

「ロバートさん、ダンスなんてするんだ」

 ジョーとメラリーは目をパチクリと瞬く。  

「ほほっ、ダンスくらいお茶の子さいさいよ。わたしもロバートちゃんも若い頃は本場アメリカでウェスタン・ショウの修業してたんだから。アメリカじゃ毎週末がパーティーよ」

 ゴードンも黒いタキシードでやってきた。

「あ、そーいや、ゴードンさん、アメリカ生活、長いんすよね?」

「ええ、埼玉生まれのテキサス育ちよ。でも、バイリンガルとか思い込みはやめてね。アメリカ人にもまっったく通じないのがテキサス訛りなのよっっ」

 ゴードンは鼻息荒く言ってから、

「お相手、願えますか?」

 澄まし顔でタマラに手を差し出した。

「ええ、勿論」

 タマラはにこやかにゴードンの手を取る。  

 ~~♪

 2人はなかなか良いムードで踊り始めた。


(――あ、あれ?タマラさんってロバートさんのこと好きなんじゃないの?やだ。わたしの勘違い?)

 クララは不可解そうにタマラの表情を窺う。

 嬉々として踊っている笑顔を見るとタマラはゴードンのことが好きなようにも見える。

(あれぇ?)

 クララは自分に恋愛経験がゼロなのでヒトの恋愛感情もよく分からないのかと首を捻った。
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