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第5弾 踊り明かそう
I must do a lesson(レッスンしなければならない)
しおりを挟むショウもパレードもいつの間にやら終了して早めの夕食時。
「4時半から始めるってから一番乗りしようぜ」
「おう」
トムとフレディはビーフカレーを胃袋に流し込んで席を立った。
「何かあんの?」
メラリーがレバニラ定食をモリモリ食べながら訊ねる。
「ダンサーのヒト達が初心者の男子限定でダンス教えてくれるんだってよ」
「もうイブまで間がないじゃん。ダンスの特訓さ」
トムとフレディは足早にダンスの稽古場へ向かった。
「へえ、初心者の男子だけなら下手でも恥ずかしくないかも~?」
メラリーもダンスなど未経験だ。
「あ、踊れるの俺だけですか?」
太田はバッキーの着ぐるみで踊っているのでダンスはそれなりに踊れるのだ。
「そっか。バッキーは意外にも踊れるんじゃん」
ジョーはトムとフレディまでダンスを特訓するというのに自分だけ踊れないのは恥のような気がしてきた。
「踊らない」と「踊れない」とでは大違いだ。
ダンス大会には「踊れるけど踊らない」というスタンスで挑みたい。
「ちょっと後で覗いてみようぜ」
3人は夕食後にダンスの稽古場へ行ってみることにした。
ダンスの稽古場は楽団の音楽室と託児所と廊下を挟んで向かい側にあった。
楽団の奏でる楽器の音と、ダンサーのステップを踏む靴音と、チビッコのはしゃぐ声で賑やかな一帯だ。
「失礼しま~す」
トムとフレディが稽古場に入ると、
壁一面の鏡を背にレオタード姿の男性ダンサー6人が立っていた。
「あ、あの、女性のダンサーは?」
トムとフレディはキョロキョロする。
「いねえけど?レッスンで女のコとさんざん踊りまくったら、当日、盛り上がんねえっしょ?」
タウンの男性ダンサーはカウボーイやインディアンに扮してワイルドに踊るので、みなマッチョだった。
「あ、それもそうっすね」
「すね」
てっきり女性ダンサーが相手してくれると思っていたトムとフレディはマッチョな男性ダンサーにたじたじとする。
「俺等が女性パート踊るから」
男性ダンサー2人がトムとフレディの前に立ち、手を取る。
「さっ、始めっ」
~~♪
軽やかなワルツが流れ始めた。
ベッタリとトムとフレディに身体を寄せる男性ダンサー。
「……」
トムとフレディは動揺の表情だが、無料でダンスを教えてくれるのだから文句は言えない。
「ギョゲ?」
ダンスの稽古場を覗き込んだジョー、メラリー、太田は思わず変な声を上げた。
~~♪
トムとフレディが男性ダンサーと大真面目な顔でワルツを踊っている。
巨漢のトムと地味ぃなフレディでは世にも滑稽な光景だが、あまりの真剣さが涙ぐましく笑うに笑えない。
「俺、マダムにダンス習う」
「俺も」
「それがいいですよ」
3人はそそくさとその場を立ち去った。
その3人と入れ違いに、
「じゃ、お言葉に甘えて、カレンのことお願いします~」
ミーナが託児所から廊下へ出てきた。
「ええ、ゆっくりと素敵なドレス選んでね」
マダムはミーナが時間を気にせずドレスを選べるようにカレンを見てくれるのだ。
「はい。ありがとうございます」
ミーナはペコリとして、クララが待っている女子更衣室へ急いだ。
一方、
ジョー、メラリー、太田はモニュメント・バレーへやってきた。
「――あ、マーティ」
前方を騎兵隊キャストのマーティが馬屋へ向かって歩いていた。
「へえ?ロデオ大会のために練習?」
マーティは太田のやる気に感心した。
「やっぱり、ロデオの練習なら気性の荒いダイヤに乗るのが一番ですからね」
太田は張り切っている。
ロデオ大会で根性を見せれば騎兵隊キャストのオーディションで有利になるのではと算段していた。
「あれ?ヘンリー、ハワード」
馬屋の前では騎兵隊キャストのヘンリーとハワードが暴れる馬のダイヤに四苦八苦していた。
「お前等、何してんだよ?」
ジョーが見咎める。
「あ、あ、ジョーさんっ」
ヘンリーとハワードはジョーを見て(マズイ)という顔をした。
「――ええ?じゃ、2人もロデオの練習にダイヤに乗ろうと?」
太田でも考え付くことなど騎兵隊キャストはとっくにやっていた。
「ああ、前回、俺等も出たんだよ。ロデオ大会」
「へええ」
前回というのは3年前だった。
ダンス大会とロデオ大会は毎年ではなく不定期に行われる気まぐれ開催である。
3年前のジョーはスケコマシに忙しくタウンのイベントなど目に入らなかったし、メラリーと太田はキャストになる前だった。
「俺、今年は不参加。結婚して初めてのクリスマスイブだし、エマちゃんとマットと家族でまったり過ごしたいから」
マーティはニマニマする。
「ちえっ、そうかよ」
ジョーはマーティのノロケには邪険だ。
「マーティは前回5位入賞だったのにな。俺は8位だったんだけど、前回の自己記録は更新したい」
「俺は10位。自信あったんだけど、やっぱし、ウェスタン牧場のカウボーイが上位を独占でさ。そん中でも看板スタァの『カウボーイ・ビリー』がダントツ優勝だったし」
「カウボーイ・ビリー?」
「そんなスタァがウェスタン牧場にいたんだ?」
ジョー、メラリー、太田は初耳という顔をする。
「ああ。まあまあイケメンでさ。カウボーイのショウで投げ縄を見せたり、女のコ達にキャアキャア騒がれてんだよ」
「ふぅん」
ジョーはたちまちカウボーイ・ビリーをライバル視した。
「タウンから看板スタァのジョーさんがエントリーするとなったら負ける訳にはいかないですねっ」
太田は興奮気味に拳を握り締める。
「えっ?ジョーさん、出るんすか?やめておいたほうが」
「俺等だってタウンの看板スタァが牧場のスタァに惨敗するとこ見たくないっすよ」
ヘンリーとハワードは顔を曇らせる。
「な、なに、惨敗って決め付けてんだよっ。誰が負けるかよっ」
ジョーはいきり立った。
「でも、俺等はダイヤが暴れてロデオの練習が出来るけど」
「ダイヤは普段、乗ってるジョーさんには馴れてるからロデオの練習にならないっすよ」
ヘンリーとハワードは馬のダイヤを見やる。
さっきまで暴れていたダイヤがジョーの横ではすっかり落ち着いている。
「ああっ、そかっ」
ジョーはうっかりしていた。
荒馬を乗りこなす自信はあったが、それは荒馬がジョーには大人しくなるからだ。
馬が暴れなくてはロデオにならないではないか。
「ジョーさん。そしたら、ロデオ大会は練習なしでぶっつけ本番っすねっ?」
「ジョーさんなら大丈夫ですよっ」
メラリーと太田は楽観的に応援する。
「むむぅ」
ジョーは今さら引っ込みが付かないが、前途多難に眉間に皺を寄せた。
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