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第5弾 踊り明かそう
a strange face(見慣れない顔)
しおりを挟む一方、
キャスト食堂にはショウのキャスト達がゾロゾロと昼食に来ていた。
「――あ、ダンス大会だって」
1人の女のコがロビーの掲示板の前で足を止めた。
「わぁ、いいな~」
もう1人の女のコも並んで掲示板の前に立つ。
掲示板に貼られたポスターはクリスマスイブの夜にタウンで催されるダンス大会の告知だ。
その他のポスターは託児所のクリスマス会、バザー、ロデオ大会とバックステージのイベントは盛り沢山だった。
「――あ、でも、無理」
「どして?」
「だって、ドレス無いし」
「あ、そっか。コスチュームでの参加オッケーだけど、わたし達、ドレスじゃないし」
無念そうに2人で吐息する。
2人はタウンの霜降りグレーのジャージの上下で、手にはお弁当包みを提げている。
ショウのキャストでは派手な厚化粧のフレンチカンカンの踊り子に比べると目立たないが、2人はすっぴんでも可愛い顔立ちをしていた。
そこへ、
「おはようございます~」
太田がやってきて親しげに2人に声を掛けた。
「あ、バッキー、おはよう」
「おはよう」
2人も親しげに笑顔で挨拶を返す。
「2人とも、お弁当なんですね?」
太田は2人の持っているお弁当包みに気付いた。
「う~ん、節約生活だよ」
「わたし達、ひと月の食費1万円予算なんだ。じゃね」
2人はキャスト食堂へは入らずにいつもお弁当を食べている休憩スペースへ向かった。
キャスト食堂でお弁当を食べてもいいのだが、みなが美味しそうな日替わり定食を食べているのを見るのはツライのだ。
「おいおい、バッキー、なんか親しげじゃん?あのコ達、見慣れねえ顔だけど、誰?」
ジョーが背後から太田を追及した。
「誰って、毎日、同じショウに出ているのに。バミーとバーバラですよ」
太田はさも当然という顔で答える。
「えっ?バミーとバーバラの中身?」
ジョーは意外そうに目をパチクリさせた。
バミーとバーバラということは、あの2人は初回からずっと登場していたのだ。
「クッキー、クッキー~♪」
メラリーが上機嫌でやってきた。
「あ、メラリー、真っ先に控え室から出ていったくせに今頃、来やがってよ」
3人揃ったところでジョー、メラリー、太田はキャスト食堂へ入った。
「バミーとバーバラは俺がバッキーに採用された時から一緒にダンスのレッスンに付き合ってくれた優しい良いコ達なんですよ」
テーブルに着くと太田はバミーとバーバラの中身の女のコ達について話した。
2人はフレンチカンカンの踊り子のオーディションに落ちて、キャラクターダンサーをしながら次のオーディションを目指しているのだという。
「へええ、着ぐるみは声出し厳禁だから話したことねぇもんな。なんだよ。あんな可愛いコ達が中身って知ってんなら早く教えてくれりゃいいのによ」
「イヤですよ。誰がスケコマシのジョーさんになど。あのコ達は安いギャラで頑張ってる健気なコ達なんですよ」
ショウは雨キャンがあるので安いギャラのキャストがさらに貧乏になるのは必至なのだ。
「たしか着ぐるみの中身ってキャストの中で一番ギャラが安いんだっけ?」
メラリーは何の気なしに訊ねてから日替わり定食の薩摩揚げにガブリと齧り付いた。
「んぅ~、外はカリカリ、中はモチモチ、美味しい~」
手作りの揚げたて薩摩揚げに大根おろし、生姜、醤油の組み合わせが絶品である。
「んぅ~、ご飯が進む、進む~」
メラリーは大盛りご飯をモリモリと掻き込む。
「ええと、話を戻しますが――」
太田はメラリーの薩摩揚げの感想はスルーして、ギャラの質問に答える。
「そうなんです。フレンチカンカンの踊り子はまあまあ結構なギャラなのに、キャラクターは重たい暑苦しい中で踊って安いギャラ。不公平ですよっ」
太田も騎兵隊キャストのオーディションに受かるまでの腰掛けとはいえキャラクターの安いギャラには不満タラタラだった。
「そーいや、バッキーはキャラクターの他に何のバイトしてんの?」
ジョーが何の気なしに訊ねる。
「えへん、短時間で高収入の家庭教師です。実は学習塾で講師をしていた頃の教え子の親御さんにどうしても口説かれまして」
太田は「よくぞ訊いてくれました」という鼻高々な表情で答えた。
教え子は3人いて、それぞれが地元の大きな温泉旅館、ホテルの子供だった。
折り目正しく言葉遣いが丁寧な太田は教え子の親からの評判がすこぶる良かったのだ。
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