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第4弾 聖なる夜に

O Holy Night(聖なる夜)

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 日が暮れてメインストリートのクリスマス・イルミネーションがチカチカと輝き出した。

 ~~♪

 楽団の演奏も賑やかなクリスマスソングからおごそかな讃美歌に変わる。

 タウンは一転してカップル向けのムーディーな雰囲気に溢れてきた。

 子供連れのゲストは続々と帰り支度を始める頃合いだ。


「風船はいかがですか~?」

 風船は帰りしなが一番よく売れるので風船の売り子の横には6人くらいのゲストの列が出来ている。

 ジャックはウルフを連れて列の最後尾に並んだ。

「ウルフ、風船、好きな色をお姉さんに言って、これを渡すんだぞ」

 ジャックは風船代の500円玉をウルフの小さな手のひらの上に置く。

「うんっ」

 ウルフはしっかと500円玉を握り締めた。

「ちょっと、パァー、トイレ行ってくるから。順番が来ても一人で買えるな?」

 ジャックはトイレの案内板を指差した。

「うんっ」

 ウルフは自信満々に頷く。

「じゃな――」

 ジャックは名残惜しげにウルフのクーンスキンキャップの頭を撫で撫でした。

 そして、

「……」

 何かに急かされるように身をひるがえし、トイレの方向へ走っていった。

 だが、

 トイレの前を素通りし、遠回りしてエントランスへと方向転換してしまう。


 エントランスは帰りの家族連れのゲストでごった返している。

 ゲートを出たジャックは後ろ髪を引かれるようにタウンを振り返った。

「――ウルフ――、元気でな――」

 涙目を隠してテンガロンハットをグイッと目深に被り、ゲートにクルッと背を向け、

「――あばよ――」

 ジャックは足早にタウンを去っていった。


 一方、
 
「何色にしましょう?」

「あかーっ」

 ウルフはやっと風船の順番が来て、元気いっぱいに答えた。

 風船はバッキーの絵柄だ。

「はい」

 売り子が風船の糸の束から赤い風船を抜き取り、屈んで糸の先端に付いている輪っかをウルフの手首に通してくれる。

 チビッコには目の高さまで屈んで風船を渡すのが風船売りのマニュアルだ。

 輪っかはラバー製のWesternTownのロゴ入りでラバーバンドとしても使える優れもの。

 タウンの風船はうっかり手を離しても輪っかの重みで飛ばないようにちゃんと配慮してあるのだ。

「50セントです」

「はいっ」

 ウルフは得意げに500円玉を売り子に手渡した。

「ありがとう」

 売り子はベルトに付いたバッグに500円玉を仕舞った。

 はじめてのおつかい。

「えへへ♪」

 ウルフはちゃんと風船を買えた満足感でニンマリしながら赤い風船を持ってジャックが戻ってくるのを待った。

「パァー、おっきいほうしてるのかな?」

 あまりに遅いのでトイレまで見に行くことにした。

 案内板の矢印のほうへ走っていくと丸太小屋のようなデザインのトイレがある。

 出入り口の横に立って個室から出てくるヒトをみんな見たがジャックの姿はない。

「……」

 にわかに不安に駆られてメインストリートの元の場所に走っていく。

「パァーッ」

 キョロキョロしながら大声でジャックを呼んだ。


「――あ、迷子?」

 クララは完売したポップコーンのワゴンを片付けていた。

「メインストリートに迷子です。アライグマの尻尾の帽子の男のコです」

 ケータイで保安官オフィスへ連絡する。


「パァーッ」

 ウルフはジャックを探して走っていく。

 右手に赤い風船、左手に初日に買って貰ったポップコーンのブリキ缶を提げて。


「あ、待って、待って」

 クララは焦ってワゴンを手早く片付ける。


「パァーッ」

 ウルフは広場まで走ってきて、

 ドテッ。

 クリスマスツリーの前で転んだ。

「――っ」

 痛いのを我慢して怒ったような顔でクリスマスツリーを睨む。

 イルミネーションがみるみる滲んでピンボケの写真のように景色がボヤける。

「――う、うぇっ」

 とうとうこらえきれずに泣き出した。

 通りすがりのカップルが駆け寄ってウルフの上体を起こす。

 メインストリートからクララが、エントランスからは保安官キャストが走ってくる。

 ~~♪

 楽団の演奏は『O Holy Night』だった。

 Fall on your knees
ひざまずき祈りを捧げよう)

 O hear the angel voices
(天使の声が聴こえる)

 O night divine
(聖なる夜)

 O night when Christ was born
(キリスト様がお産まれになった夜)


「うわあああああああんっ」

 広場にはウルフの泣き声が響き渡っていた。
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