91 / 297
第4弾 聖なる夜に
The final stage(最後のステージ)
しおりを挟むガン!
ガン!
ガンファイトが始まった。
先攻はロバートだ。
『Hit!Hit!』
実況アナウンス。
パッ、
命中の旗を上げるメラリー。
続いてジャックが撃つ。
ガン!
ガン!
『Miss!Miss!』
パッ、
失中の旗を上げるメラリー。
「……」
ジャックは悔しげに歯噛みした。
「あら、しょっぱなから連続で失中?やっぱり騎乗撃ちはブランクあったら無理だわね」
ゴードンは致し方なしと嘆息する。
ガチ勝負が人気のガンファイトなのだ。
たんに八百長で勝ち負けを決めるほうが難しいのでガチ勝負にしたのだが、ロバートとジョーの実力はほぼ互角で常に接戦だった。
ジャックも5年前まではジョーに負けず劣らずの腕前だったのだが、
やはり5年のブランクは埋めようがなかった。
「今日はロバートが楽勝だったりして」
マダムはなんだか嬉しげだ。
「たまには良いかしら?」
ゴードンはなるようになれと笑った。
ガンファイト決着。
『Victory of Robert!』
本当にロバートが大差で楽勝してしまう。
「やたっ。パーフェクトだもん。相手がジョーさんだって引き分けか勝ちだったよっ」
タイガーは上機嫌で拍手する。
「すっげー」
「タイガーの父さん、かっけー」
ユウキとヒロキも絶賛して拍手した。
「……」
ウルフは「こんなはずじゃない」という憮然とした顔をしている。
クライマックス。
17個の色とりどりの風船が空に舞い上がる。
ガン!
ガン!
ガン!
ガン!
ステージから撃ちまくるジャック。
1個、2個、3個と撃ち損ねた風船が空遠くへ飛んでいく。
結局、騎乗撃ちでなくても8個も外してしまった。
「……」
ジャックは諦めが付いたように苦笑いした。
「あ~あ、ジョーさんなら全部、ヒットすんのにさ」
タイガーは大袈裟に吐息する。
「代役のヒトだもん」
「仕方ないよね」
ユウキとヒロキは温厚なフォローだ。
「……」
ウルフはしょんぼりとうなだれた。
ショウが終わった。
「――ごめんな。ウルフ。格好良いとこ見せらんなかったな」
ジャックは面目なさげにウルフに謝った。
今までウルフには自分がウェスタン・ショウのガンマンだった自慢ばかりしていたのだ。
「……」
ウルフは力無く首を横に振る。
「――ウルフ――」
ジャックの目に涙が滲んだ。
キャスト控え室。
「……」
グリーティングとパレードは無事にやり切ったジョーは椅子にグッタリしていた。
「ジョーさ~ん、マダムの梅干し番茶。バッキーもこれで一発で治ったって」
梅干し番茶を持って室内に入ってくるメラリーとバッキーの太田。
「俺、全っ然、悪意じゃないっすから。ジョーさんの怪我が心配だっただけだから。ジョーさん、止めても聞いてくんないから。グスングスン」
メラリーは得意の嘘泣きをしてみせる。
「分かってる、分かってる」
ジョーはメラリーの嘘泣きにコロッと騙される。
「良かった。ジョーさん、怒ってなくて」
メラリーは背後からジョーの肩にしがみ付き、ベタベタして機嫌を取る。
「――メラリーちゃん、ルルちゃんのコロッケをジョーさんに食べさせた時、ちょっと、いや、だいぶ、楽しそうでしたけど」
バッキーの太田は室内に3人だけなのを良いことにヘッドを少し持ち上げてボソリと呟いた。
「――むむ――」
メラリーはバッキーの太田を睨み付ける。
「まだコスチューム着てる~?タイガーと友達が一緒に写真、撮りたいって」
廊下からマダムが呼んでいる。
「は~い」
メラリーは鏡の前でウィッグを直し、ジョーはガンベルトを着けてハットを被った。
「――(あたふた)」
太田はバッキーのヘッドを被り直す。
野外ステージのゲート前。
「ホンットに申し訳ない。ウェスタン・ショウの看板スタァの俺のガンファイト見せらんなくて」
ジョーは自分の絵看板の前でユウキとヒロキにペコリと頭を下げた。
「いいえ、生の舞台にハプニングは付き物ですから」
「僕等にも経験ありますから」
分かった風な口を利くユウキとヒロキ。
それもそのはず、
「ああ、ユウキとヒロキんちは大衆芸能の一座なんだ。2人は看板役者なんだ」
タイガーは誇らしげな顔をした。
「僕等、3歳から舞台に立ってます」
「今日もここの温泉旅館の宴会場で6時半から舞台です」
ユウキとヒロキはニッコリする。
3歳からということは芸歴7年。
「な、なんだよ。俺より芸歴、長いじゃん」
おみそれしましたのジョーだった。
「はい。チーズ♪」
カシャッ。
ゴードンがシャッターを押す。
タイガーとユウキとヒロキを中央に囲んでショウのキャスト達とキャラクタートリオがポーズを取る。
「今度、タイガーの父さんと4人で撮ろう」
ユウキとヒロキがタイガーとロバートと並ぶ。
「はい。バター♪」
カシャッ。
ピースでニコニコ顔のタイガーにユウキとヒロキ。
ロバートも悪役ガンマンのコスチュームで目尻を下げて満面の笑みだ。
「あれ、お父さんの顔になっちゃった」
「締まりねえな。ロバートさんも」
メラリーとジョーは顔を見合わせて笑う。
冬の空はもう日暮れが近かった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
4
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる