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第4弾 聖なる夜に
Jack of spades(スペードのジャック)
しおりを挟むビュート(岩山)の楽屋。
「――お疲れ様~。明日もこの調子でお願いね。マリーちゃん」
ゴードンは満足げな笑顔でマダムに梅干し番茶を差し出した。
「ええ。でも、さすがに全身ゴッキゴキよ。鈍ってたのね~」
マダムはグッタリと椅子に凭れて、トムに肩、フレディに足を揉ませている。
まだ3時からパレードがあるのでコスチュームのままだ。
「マダム、今日のショウはプレミアムものっすよ」
「脚線美にうっとりっすよ」
トムとフレディは甲斐甲斐しくマダムの肩と足を揉み揉みする。
「――(ウンウン)」
バッキーの太田は声を出せないのでトムとフレディに同意して頷いた。
そこへ、
「バッキー♪」
ウルフが楽屋へトコトコと入ってきた。
「――あら?ボク、ここは関係者以外は立ち入り禁止よ。ママは?」
ゴードンがキョロキョロして親を探す。
キャラクターの後ろにくっ付いて楽屋まで入ってきてしまうチビッコはよくいるので、このコもその類いだろうと思った。
「ママはもうかえってこないんだって」
ウルフは無邪気に答える。
「――え、え?何を言ってるの?このコ」
まさか捨て子かと困惑するゴードン。
「迷子かしら?」
マダムはキャラクタートリオと顔を見合わせる。
「……?」
「……?」
「……?」
揃って首を傾げるバッキー、バミー、バーバラ。
「しっぽ~」
ウルフはバッキーの尻尾を掴んで引っ張った。
「――(ジタバタ)」
バッキーの太田はお返しにウルフのクーンスキンキャップの尻尾を引っ張る。
スポッ。
サイズが大きいらしくクーンスキンキャップが簡単に脱げて床に落ちてしまった。
「――(あたふた)」
バッキーの太田はヘッドの鼻先が突き出ているために自分の足元が見えない。
「おいおい――」
ロバートがクーンスキンキャップを拾って、
「――っ」
キャップの内側を見てハッとした。
クーンスキンキャップはタウンのウェスタンウェア・ショップでも売っているので珍しくもないが、
洗濯表示のタグに黄色い油性マジックで『Taiga』と書いてある。
これはロバート自身が息子のタイガーのクーンスキンキャップに書いたものだ。
タイガーが4、5歳の頃だった。
「……」
ウルフの顔を見て表情を変えるロバート。
「――あっ、パァー」
出入り口に見返るウルフ。
「……」
男が出入り口に立っている。
「パァー?――あ、パパなのね」
保護者がいたことにホッとするゴードン。
「――お、お前――」
ロバートが男を見るなり不快げに眉根を寄せた。
「ロバートさん、ゴートンさん、ご無沙汰しています」
男はテンガロンハットを取り、ペコリと頭を下げた。
「――あっ、あなた、ジャックちゃん?」
ゴードンは驚いて男の顔をまじまじと見て、
「な、なんか、貧相に老け込んで、くたびれちゃったけど、ジャックちゃんだわ。ま、まあ、あなた、いったい、どのツラ下げてロバートちゃんの前にのこのこと――っ」
やにわに怒りが込み上げてきたようにヒステリックに声を荒げる。
だが、
「――あ、あら――」
目を丸くしているウルフを見て、ゴードンは気まずそうに言葉を呑み込んだ。
「今さら顔を出せた義理じゃないのは分かっています。――だ、だけど――っ」
ジャックは楽屋の中へバッと駆け込み、
「明日のガンマン・ジョーの代役、俺にやらせてくれませんかっ?」
強い眼差しでゴードンに詰め寄った。
「――な、何ですって?」
ゴードンはピクピクと頬を引き攣らせた。
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