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第4弾 聖なる夜に
The Limit(限界)
しおりを挟むその昼過ぎ。
ウェスタン・ショウの開演前。
ビュート(岩山)の中の楽屋ではガンマンキャストとキャラクタートリオがいつものようにまったりと待機していた。
ところが、
「――う、うう、ぐぐっ」
やにわにバッキーの太田が身体をくの字に折り曲げて呻き声を上げた。
「……?」
「……?」
バミーとバーバラが心配そうに首を傾げる。
「ちょっと、バッキー?バックステージといえどもキャラクターが声を出すのは厳禁でしょっ」
ゴードンがピシッと注意する。
だが、
「――も、もう、限界ですっ。脱がして下さいっっ」
太田は地団駄を踏みながらバッキーのヘッドの中で絶叫した。
「だ、大丈夫かっ?」
ただならぬ様子にバッキーのクリスマスバージョンのサンタコートを脱がし、背中のファスナーを下ろすジョー。
「えいっ」
メラリーは力任せにバッキーの手を引っ張ってボディを脱がす。
本来はキャラクター担当のスタッフしか脱ぎ着をさせてはいけない決まりだが、そんなことは言っていられないのっきぴならない状況だ。
「うううっ」
太田は身悶えしながらバッキーのボディから足を引っこ抜き、Tシャツと短パン姿で楽屋のトイレへ突進していった。
「――ルルちゃんのコロッケ、相当な破壊力だぜ」
ジョーは恐ろしげに太田の背を見送る。
「よ、良かった。飲み込まないで」
ホッと胸を撫で下ろすマダム。
「あ、あんなものを俺に?」
さらにビビるメラリー。
「5分前で~す」
裏方のスタッフが告げる。
「ああっ、もう5分前っ?」
ゴードンはジタバタと焦った。
ウェスタン・ショウのオープニングはバッキー、バミー、バーバラのキャラクタートリオのダンスなのだ。
今のシーズンはクリスマスソングで踊るバージョンになっている。
「ど、どうすんの?だ、誰かバッキーの代わりにっ」
ゴードンは太田が脱ぎ捨てたバッキーのボディを手に右往左往し、
「こ、この際っ、わたしが――っ」
ボディを着ようと片足を突っ込み、両手を突っ込んだ。
「ゴードンさん。バッキー、ヘッド被ったままトイレに行っちゃいましたよ」
「だな」
トムとフレディが悠長に伝える。
「な、なんですって?」
ドデンッ。
ゴードンはボディに足がつっかえて転倒した。
そもそも185cmのゴードンに適正身長170㎝のバッキーのボディが着られるはずもないのだ。
そうこうして、
『ウェスタン・ショウへようこそ~』
賑々しくウェスタン・ショウが始まった。
~~♪
ジングルベルに合わせて踊るバッキー、バミー、バーバラ。
「――はあぁ、やむを得ず開演を10分遅らせて、どうにかバッキーを出せたわ」
ゴードンはグッタリと吐息する。
「そーいや、ジョーさんやロバートさんが急病とかになった時はどうするんすか?」
メラリーは今さらながらの疑問を持った。
「そしたら、どっちかの病欠バージョンに差し替えよ。音声も録ってあるしね」
ジョーもロバートもやたらに頑丈なので、まだ一度も病欠バージョンを演ったことはないのだとゴードンはちょっと残念そうだ。
おそらく病欠バージョンの筋書きにも凝ったのだろう。
「俺等の腕前じゃ代役は無理か」
「だな」
トムとフレディはジョーやロバートの病欠バージョンでも通常どおりの出番しかなくトホホである。
ガン!
ガン!
野外ステージではガンファイトが始まった。
ガン!
ガン!
騎乗から的撃ちするジョーとロバート。
『Hit!Hit!』
実況アナウンス。
「やったぁっ」
観客席の最前列ではウルフが興奮して夢中で見ている。
「……」
男はジョーとロバートの射撃を食い入るように真剣な表情で見ていた。
『これをもちましてウェスタン・ショウを終了致します。お忘れ物のないようお気を付けてお帰り下さい。本日はご来場をいただきましてまことに有り難うございました』
三々五々とゲートを出ていくゲストの人波。
「ね~?ガンマン・ジョーとパァー、どっちがつよい?」
ウルフが興奮冷めやらぬ様子で訊ねる。
「パァーに決まってんだろぉ?(ウルフの頭をグリグリ)もっと早く撃てるからな。ガガガガンってな」
「ガガガガ?」
「違う。ガガガガンッ」
「ガガガガンッ」
男とウルフは鉄砲を撃つ真似をして、はしゃぎながらゲートを出ていった。
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