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第3弾 虹の向こうへ
The moon is full.(月が満ちた)
しおりを挟む「――ダンさんの話ではね、エマちゃん、お腹の赤ちゃんが育ち過ぎた重みで胎盤が剥がれてしまって出血して、帝王切開するそうなの」
ゴードンがダンからの電話の内容をみなに伝える。
エマが肥えたらお腹の赤ん坊まで肥えるのは必至で過剰な体重増加にはこんなリスクがあったのだ。
みなはマーティからのエマの無事出産の報せを待つことにした。
モニュメント・バレーで野営をする騎兵隊キャスト3人、先住民キャスト3人、太田、ジョーとメラリー、ゴートン。
騎兵隊には付き物の歩哨犬アイリッシュセッターも2匹がゴロゴロと焚き火の側でくつろいでいる。
「――けど、何で野営しながら待つんすか?」
メラリーは解せない顔でパチパチと燃える焚き火のオレンジ色の炎を見つめた。
「分かってねえなっ。こういう時は野営なんだよっ」
ジョーはさも当然という顔で焚き火に小枝をくべる。
「暗いし~。寒いし~」
メラリーはサドルブランケットを頭から被った。
まだ初秋とはいえ吹きっさらしのモニュメント・バレーは夜風が冷たい。
「はい、メラリーちゃん」
太田が焚き火の中からアルミホイルに包んだ焼き芋を取り出してメラリーに渡す。
「あちち、ふうふう、はふっ、美味し~」
メラリーはホクホクの焼き芋に「焚き火サイコー」とコロッと機嫌を直した。
深夜0時を過ぎて日付も変わった頃、
「――実を言うとさ」
先住民キャストがボソリと口を開いた。
「俺等、みんな、エマちゃんが憧れの存在だったんだ。俺等、10年前のタウンのオープンからいるし、エマちゃんがまだ高校生だった頃から知ってんだよ」
「騎兵隊キャストも先住民キャストもダンさんに乗馬の指導、受けたんだけど、練習中にエマちゃんがよく差し入れを持って来てくれて、俺等のマドンナだったんだ」
「それをマーティの奴が横取り、――いや、横取りじゃねえんだけど、俺等よりずっと後から入ってきやがったくせによ」
先住民キャストはずっとモヤモヤしていた胸の内を吐露した。
「ふうん、そうだったんだ」
「マーティも俺等も騎兵隊に入ったのはオープンの3年後くらいだもんな」
騎兵隊キャストはイケメン揃いなだけに30歳前後で結婚を機に辞める隊員が多くオープンからの隊員は残っていないのだ。
「マーティの奴、知らなかったとはいえ自分が確執の原因だったんじゃん」
ジョーはやれやれとコーヒーをグビリと飲んで夜空を見上げた。
満月が輝いている。
「クレゴナアイ」
ハタと思い付いたように呟いて先住民キャスト3人が立ち上がった。
クレゴナアイとはアパッチの言葉で満月。
「――え?何でアパッチ?アイツ等、スー族じゃねえの?」
ジョーは怪訝な顔をする。
ワイルド・ウェスト・ショウの元祖のシッティング・ブルはスー族(のちにダコダ族)で、レッドストンの派手な羽根飾りもスー族のものである。
「ああ、レッドストンちゃんはスー族。あの3人はアパッチ族よ。タウンの先住民キャストは1つの部族に偏らずに色んな部族を取り入れたの」
ゴードンがケロッと説明した。
ともあれ、
やおら焚き火の周りでブルマン、ブラッツ、グリリバが満月に祈り始めた。
「ガンジュレ、クレゴナアイ。ガンジュレ、チルジルド、シチジ。ガンジュレ、インザユ、イジャナレ。(安らかなれ、満月よ。安らかなれ、夜よ、薄明よ。安らかなれ、我を死なせることなかれ)」
本来はアパッチの女が戦の前に満月に祈るらしい。
プルル~ン♪
ゴードンのケータイの着メロが鳴った。
「――もしもしっ?マーティちゃん?産まれた?男のコ?まっ、4170グラム?」
「やたっ」
「未来の騎兵隊キャストの誕生だぜ」
「親子二代、いや、三代ですねっ」
歓喜に湧く一同。
「今からもう騎兵隊キャストって決め付けなくても」
メラリーはふわわと欠伸する。
「マーティの息子でダンさんの孫とくりゃ、ほぼ間違いねえだろ?」
ジョーがそう言うと、みな同意して力強く頷いた。
やがて、ビュート(岩山)の向こうから朝日が射してきた。
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