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第3弾 虹の向こうへ
Don't get hysteric. (キレるなよ)
しおりを挟む騎兵隊の詰め所。
「はぁ~」
アランは聞こえよがしの溜め息をしながら中へ入った。
室内では数人の騎兵隊キャストがソファーでダラダラとダベっている。
みなタウンの整備やら清掃やらのバイトと掛け持ちなので仕事の時間まで暇潰しをしているのだろう。
「よ、これから罰当番か?」
「ツイてないな。アラン」
名もなき騎兵隊キャストがアランを慰める。
「ホントっすよ。俺ばっかり罰当番だなんて。ヘンリーさんとハワードさんが俺に無茶を言ったせいなんすよ。だいたい、マーティさんだってリーダーなら俺のこと庇ってゴードンさんに取りなしてくれたって良さそうっすよね」
アランはぶつくさと文句を言う。
「お、おい」
騎兵隊キャストが「シイッ」と人差し指を口に立てる。
「……」
ソファーの後ろ側の戸棚の前に屈んでいたマーティがすっくと立ち上がった。
マーティは戸棚の探し物をしていたのだ。
「あ、聞かれちゃった。テヘペロッ」
アランは無理くりにお茶目キャラを装って誤魔化そうとした。
だが、
ナメきった態度が倍増しただけで火に油を注ぐ結果となった。
「……」
マーティの目は明らかに怒っている。
リーダーになってこの半年余りに溜まりに溜まった堪忍袋が容量一杯なのだ。
「――アラン、俺はジョーさんとロバートさんの馬とは常に間隔を保って、ガンファイトの邪魔しないのだけが一番重要なんだって、そう言ったはずだよな?」
「あ、あ、はい」
「なら、何で俺の言うことよりヘンリーとハワードの言うこと聞いてんだよっ。お前はっ」
ブチッ!
ついに堪忍袋の緒の切れる音がした。
と思ったら、マーティがアランの胸ぐらを掴んでシャツのボタンが引きちぎれた音だった。
ドンッ!
「――いっ」
アランは壁に背中をしたたか打ち付けられる。
普段、穏やかで優しいマーティがキレるとギャップが有り過ぎて凄まじく怖い。
騎兵隊キャストも先住民キャストもただ馬でパカバカと駆け回っているだけではない。
ウェスタン・ショウでは騎兵隊と先住民の戦いをパフォーマンスで演じて見せるのだ。
並行して駆ける馬に飛び移ったり、駆ける馬で馬跳びをしたり、馬で鞍馬をしたりとダイナミックなアクションもこなす。
昔からワイルド・ウェスト・ショウでは体操の鞍馬のパフォーマンスを本物の馬の上でやっていた。
マーティも腕力は人並み以上なのだ。
「す、すびません~」
アランは半泣きになった。
「ヒュ~♪」
口笛を吹くジョー。
「マーティ、こわっ。ジョーさんがキレた時より百倍、怖いぃっ」
はしゃぐメラリー。
「マーティさん、怒った顔も素敵です」
胸元で両手を握り合わせてうっとりする太田。
この3人は罰当番の見物のためにさっきからモニュメント・バレーでアランが来るのを待っていたのだ。
「――ハッ」
マーティはすぐさま我に返った。
「――あ、いや――」
キレたことが恥ずかしく焦っている。
「ほ、ほら、馬糞のお片付けなら廃棄するコスチュームに着替えたらいいよ。早く行け」
マーティは戸棚から出した着古した騎兵隊コスチュームをアランに投げ渡した。
「……」
アランが重い足取りで馬屋へ行くと、
「アラン、遅いぞ」
ヘンリーとハワードがすでに馬糞を集め始めていた。
「――え?」
アランは意外そうに2人を見やる。
「マーティ命令なんだよ」
「一人前にリーダー面しやがってよ」
ヘンリーとハワードは口とは裏腹にニンマリとした。
「……」
アランは力強い味方にホッと安堵する。
実のところ自分だけで先住民キャストと一緒に罰当番をするのが不安でビビッていたのだ。
そこへ、
ザッ、ザッ、ザッ、
不穏な足音を響かせて、
ビュート(岩山)の向こうから先住民キャストのレッドストン、ブルマン、ブラッツ、グリリバの4人がやってきた。
しかも、わざわざ横一列に並んで歩いてきた。
「……」
揃いも揃って無表情で目付きが怖い。
怒涛のような威圧感が押し寄せてくる。
「――お、やっとお出ましだぜ」
ジョー、メラリー、太田はビュート(岩山)の段々に上がって高見の見物としゃれるつもりだ。
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