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第3弾 虹の向こうへ
Who is bad?(悪いのは誰?)
しおりを挟むショウとパレードを終えたショウのキャスト達はバックステージへと戻った。
キャスト控え室でコスチュームを脱いで、シャワーを浴びて、ジャージの上下でキャスト食堂へ向かう。
「チョコ、チョコ、チョコ、チョコ~」
ずっとチョコのことばかり考えていたメラリーはチョコを連呼しながら長い廊下を歩いた。
すると、
「チョコ、チョコ、チョコ、チョコ~」
3歳くらいの女のコが背後からカンカンダンスをしながらやってきて、メラリーにパラソルチョコを差し出した。
このタウンの託児所のチビッコはお遊戯でカンカンダンスを覚えるのだ。
「わぁい、ありがと~♪」
メラリーは遠慮なくチョコを受け取る。
「おい、チビッコからオヤツをせしめるなよ」
ジョーが止めるよりも早くメラリーはチョコの銀紙を剥いている。
「カレン~?ダメでしょ~。勝手に廊下へ出ていったら~」
声が先に聞こえてきて後方の廊下の角を曲がってミーナが現れた。
「あ、ママ~」
カレン(驫木花連)がミーナに振り返る。
「――え?ミーナちゃんのコ?」
ジョーは屈んでカレンの顔を見た。
ミーナにそっくりな可愛い女のコだ。
「ミーナちゃん似じゃん。ロッキーさんに似ねえで助かったなっ」
「ホントに~」
ジョーもメラリーも心底、良かったという口振りである。
「ま、もぉう」
ミーナはちょっと頬を膨らませてみせる。
保安官キャストのロッキーはがっしりと逞しく顔はいかついゴリラ系なのだ。
そこへ、
「……」
クララが前方から廊下を歩いてきた。
「――あっ」
ジョーはクララに気付くとササーッと後退して5メートルの間隔を開けた。
「……」
クララは恨めしげに5メートル先のジョーを見やる。
「チョコあげる~」
みなにチョコを配ったカレンがクララにもパラソルチョコを差し出す。
クララはカレンが産まれた頃から知っているので仲良しだ。
「ありがと~」
クララは貰った赤いパラソルチョコ越しにたまたまメラリーの足元を見て、
「――あっ」
やっと思い出した。
メラリーの牛柄のスニーカーをいつどこで見たのかを。
その後。
「ミーナ、話ってなあに?カレンちゃんはいいの?」
外へ歩きながらクララがミーナに訊ねた。
「大丈夫よ。マダムが託児所で遊んでくれてるから。マダムって小さな子供の世話もお手のものよ」
「そうなんだ」
クララはミーナがガンマンキャストと親しくなっていることをちっとも知らなかった。
2人は丸太のベンチに並んで座った。
「この前、スーザン達からジョーさんとのこと聞いたわ。けど、ホントなの?」
ミーナはちょっと怖い顔をする。
やはりクララの嘘を見抜いているようだ。
「……」
クララはミーナは誤魔化せないので本当のことを言ってしまおうと思った。
「――ち、違うの。あの話、わたし、ちょっと大袈裟に盛っちゃったの」
「え?」
「ベッドに押し倒されたまではホントよ。でも、一瞬でジョーさんを突き飛ばしたの」
あの時、クララは咄嗟の反射神経でジョーを突き飛ばし、ベッドから床に転げ落ちたジョーを踏んづけて部屋を駆け出ていったのだ。
「まあ」
ミーナは呆れ顔をする。
「――それに、30分後に別の女のコがベッドに寝てたというのも、わたしの勘違いだったの」
「勘違いって?」
「ベッドに寝てたのメラリーちゃんだったのよ。玄関にメラリーちゃんの牛柄のスニーカーがあったこと、さっき思い出して」
「なんだ。それなら、ジョーさんだって謝ってるんだし、仲直りしたらいいじゃない?」
「だって、仲直りって言っても、元々、仲が良かった訳じゃないのに。それに、ジョーさんが評判悪くなったおかげでタウンの女のコ達、誰もジョーさんに近寄らなくなって嬉しいんだもん」
クララのジョーへの想いはすっかり屈折し、捻くれていた。
「まあ、そんな、みんなに話を大袈裟に盛っちゃったこと謝ってジョーさんへの誤解を解かないと悪いわよ」
ミーナは率直な正しいことしか言わない。
「イヤよ。ずっとこのままジョーさんをタウンの女のコ達の嫌われ者にしておきたいの」
クララは腹黒い笑みを浮かべる。
「どうしちゃったのよ?わたしの知っているクララはそんなコじゃなかったわよ」
ミーナは嘆かわしげに眉をひそめた。
「だって、恋をするとヒトは変わるっていうじゃない。恋がわたしをこんなコに変えたの」
クララは友達に眉をひそめさせるような自分の振る舞いをすべて恋のせいにした。
ただ、クララの場合はスケコマシに報われない恋をして性格が歪んだだけなのだが。
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