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第3弾 虹の向こうへ
Don't you remember?(覚えてないの?)
しおりを挟むアランが颯爽とロビーを横切っていく。
常に女のコの視線を意識しているアランはキメ顔でイケメン光線を放ちながらのモデルウォークだ。
その時、
「……」
キャスト食堂の出入り口の側に立っているインディアン娘の姿があった。
言わずと知れたルルである。
「――あ、あの、荒井先輩?」
ルルは自分に目も留めずに通り過ぎていくアランを外のポーチまで追い掛けて呼び止めた。
昨日からルルはキャスト食堂の出入り口に張り込んでアランに話し掛ける機会を窺っていたのだ。
「――え?」
アランはランウェイのモデルよろしくクルッとターンした。
だが、表情はタウンで本名の荒井と呼ぶ不粋な相手に不興げだ。
自他共に認める華やかなイケメンの自分に似つかわしいアランという名前がアランはこの上なくお気に入りなのだ。
「わ、わたし、こ、高校の、ば、ばじゅちゅ、ば、馬術部の2年下の――」
ルルは緊張のあまり声が上擦っている。
「ああ、馬術部の後輩?」
アランは後輩と聞いてもルルをまるで知らないような顔をする。
「あ、あの、お、覚えてませんよね?――す、すみませんっ」
ルルは必死に動揺を隠し、ペコリと頭を下げてロビーへ引き返した。
「――?」
アランは気にも留めずにまた通常のキメ顔に戻るとスタスタと外へ歩いていった。
「――ルル~?何、騎兵隊の奴なんかと話してたんだよ?」
いつの間にかロビーにいたレッドストンがルルを厳しく咎める。
「あ、お兄ちゃん」
ルルは兄のレッドストンに見られてしまってオドオドとした。
レッドストンは自分が認めた男でなくてはルルとの交際を許さないという妹想いが高じた面倒な兄だった。
今年18歳のルルだが、今までレッドストンが認めた男など一人としていなかった。
「騎兵隊の奴等、手が早いからな」
「気を付けないとオメデタにされるぜ」
ブラッツとブルマンが聞こえよがしに言ってチラッとキャスト食堂のマーティを見やった。
「――むっ」
不快げに顔をしかめるマーティ。
「出来ちゃった結婚のマーティに対する当て付けかよ」
「ホンット、ムカつく奴等だぜ」
ヘンリーとハワードも聞こえよがしに言い返す。
たちまち騎兵隊キャストと先住民キャストに険悪な雰囲気が漂う。
「……」
ルルは途方に暮れた顔をしてロビーから外へ駆け出ていった。
その間、
「……」
太田はずっとキャスト食堂のテーブルからルルの様子を気にして見ていた。
「ジョーさ~ん?しっかり~」
「――(茫然自失)」
メラリーはまだテーブルに臥してるジョーを揺さぶっていた。
「……」
ロバートは我関せずと新聞を読んでいた。
「――ルルちゃん」
矢も盾もたまらず太田が外へ出ていくと、ルルは人気のない端っこの丸太のベンチに座っていた。
「……」
ルルの目からは涙がポロポロとこぼれ落ちている。
「あ、あの、何で泣いてるんです?あ、差し支えなければ」
太田はピッチリとアイロンの掛かった清潔なハンカチをルルに差し出す。
「――あ、ありがとう」
ルルはハンカチを受け取って太田を見上げた。
「い、いえ」
ウルウルと潤んだ瞳に見つめられて太田は胸がキュンキュンする。
「……」
太田は同じベンチのルルの隣と向かいのベンチのどちらに座ろうかと8秒ほど迷ったあげく、向かいのベンチに座った。
「――あ、あのね」
ルルは昨日、キャスト食堂の出入り口でぶつかっただけの太田に涙の理由を話し始めた。
「荒井先輩はルルのこと覚えてないみたい。2年前のバレンタインに馬術部の部室でチョコ渡したのに」
また溢れ出した涙をハンカチで押さえる。
今まで困ったことは兄のレッドストンに何でも話してきたルルだったが、こればかりは絶対に話せないことなので途方に暮れていたら太田がやってきたのだ。
甘えん坊のルルは話を聞いてくれる相手なら誰でも構わなかった。
「なるほど~。モテモテなアランには数多くあることで、さして印象に残る出来事でもなかったのでは?」
太田は客観的な意見を述べる。
「で、でもっ、その時、荒井先輩、『ありがとう』って言って、ルルに――」
ルルはムキになって言い掛けて、やにわに頬を真っ赤に染めた。
「――えっ?も、もしや、チュ、チューを?したんですかっ?」
太田はまさかという表情で聞き返す。
「……」
ルルは恥ずかしそうにコクリと頷いた。
「ルル、てっきり付き合ってくれるものと思ってたのに、それっきり荒井先輩は卒業してしまって」
涙が止めどなく溢れるルル。
「――むうぅ」
太田の心は嫉妬と憤怒に燃え上がっていた。
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