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第3弾 虹の向こうへ
The Devil!(なんてこった!)
しおりを挟むキャスト控え室。
「すみませんでしたっ」
マーティとアランは揃って頭を下げた。
「いーよ。べつに」
ジョーは長椅子でコスチュームのグローブを手から引っこ抜きながら素っ気なく答える。
「――え?ジョーさん、どしたんすか?ブーツの拍車でグリグリっとか」
「ウィンチェスターの銃床でボコボコっとか、しなくっていいんすか?」
トムとフレディが意外そうに訊ねた。
「なんだよ?俺が普段そういう乱暴なことするみてえじゃん。人聞き悪りぃ」
ジョーは心外そうに言ってポイとグローブをカゴに投げ込む。
「――お前、大人になったな」
ロバートは感慨深げに目を細める。
「バケツも蹴らないし――」
メラリーがさらに付け足す。
「……」
ジョーは内心でムッとしつつも、努めて平然とブーツを脱いで、またカゴにポイポイと投げ入れた。
マーティとアランの前では度量の大きさを見せておきたいところなのだ。
「もぉぉ、ホンットに仕様がない。事故でもあったらどうするの?今、走路妨害した先住民キャスト4人にも注意してきたけど。アランちゃんも罰として4人と一緒に週末は馬糞のお片付けよっ。分かったわねっ?」
ゴードンがピシリと命じる。
週末に馬糞のお片付け。
オシャレなアランにはゲンナリな罰当番だ。
無茶なことを言ったヘンリーとハワードに罰がないのに何で自分だけがと不満だが、
「――はい――」
アランは不貞腐《ふてくさ》れ顔で返事した。
キャスト食堂。
「はははっ」
アランはもうケロッとしてタウンの女のコ達と一緒のテーブルで笑っている。
フレンチカンカンの踊り子ばかりかタウンの女のコ達までがアランを囲んでチヤホヤチヤホヤしている。
「――むむ――」
ジョーは離れたテーブルから苦々しくアランを見ていた。
「なんか反省の色無しといった感じですね?」
太田も不快げにアランのご満悦の笑顔を睨んだ。
休憩の終わった女のコ達が仕事に戻っていくとアランはジョー達のテーブルにやってきた。
「あの、ジョーさん。今日はどうもすみませんでした」
神妙な表情で改めてペコリとするアラン。
「いや、気にすんなよ」
また度量の大きさを見せようとするジョー。
「はいっ」
アランはケロッと能天気な笑顔で即答した。
(このやろっ、『気にすんなよ』『はいっ』って何だよ?つまり『気にしません』ってことかよ?)
ジョーは内心でイラッとしたが、努めて落ち着き払った態度でグビリとコーヒーを飲んだ。
アランは気安げにジョーの向かいに座った。
「今、タウンの女のコ達と話してたんすけど、俺、ここじゃ、タウンの看板スタァのジョーさんを差し置いて、絶対、モテる訳ないって思ってたんすよ」
「ふうん?」
ジョーはてっきりアランが『タウンの看板スタァ』などと当然のことを言って自分を持ち上げ、おべっかを使うつもりかと思ったが、
全然、そうではなかった。
「――で、そう言ったら、女のコ達、『とんでもない。タウンでジョーさんを相手にする女のコなんて誰もいないわよっ』って、『ジョーさんって手当たり次第に女のコを食いモノにするケダモノなのよっ』って、『サイテーのスケコマシ野郎よっ』って言うんすよ」
アランは女のコ達のプンプンした口調や穢らわしげな表情まで忠実に再現してみせた。
「うわっ、そこまでっ?」
メラリーは驚きながらも声が弾んでいる。
「ま、身から出た錆だと思いますけど」
太田は淡々と突き放した言い方だ。
「……」
ジョーはコーヒーのタンブラーを持ったまま無表情で固まった。
「悪い評判ってコワイっすね。俺もジョーさんと同類とだけは思われないように女のコとの付き合いは自重しないと。――じゃ、お先に」
アランは席を立ってペコリとすると軽い足取りでキャスト食堂を出ていった。
「悪意はまったく無さそうだけど」
「食えない奴」
トムとフレディは傲慢無礼のアランに呆れ顔をする。
「――ケ、ケダモノ――?」
ジョーはバッタリとテーブルに臥した。
「――(茫然自失)」
手からこぼれた空のタンブラーがコロコロとテーブルを転がっていく。
「ジョーさ~ん?しっかり~」
メラリーがジョーの肩を揺さぶる。
介抱しているようでも声は楽しそうだ。
「いい薬じゃねえか?実際、コイツ、女関係、不真面目だったし。天罰、天罰」
ロバートは邪険に言って悠々と新聞を広げた。
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