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第3弾 虹の向こうへ

You Make Me Cry. (あなたはわたしを泣かせる)

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 一方、

「はぁはぁ」

 クララは長い廊下をがむしゃらに走った。

 すれ違うキャストが驚いて振り向くのも構わずにドレスの裾を膝まで捲り上げて走った。

 何故、こんなにも廊下が長いのかというとタウンのモニュメント・バレーより高い建物が作れない都合上、バックステージの建物は平屋でやたらに広いのだ。

「はぁはぁ」

 クララは女子更衣室に飛び込むとゴールテープを切ったランナーのようにフラフラと屈み込んだ。

「はぁはぁ、クララ?どうしたの?ジョーさんと何かあったの?」

 ミーナはやっと追い付いてクララに訊ねた。

 2人は同じ女子大の同期生だが出産で休学したミーナのほうが年上である。

 それでなくてもクララは子供っぽく、思い込みが激しく、ネガティブ思考ときているのでミーナは心配なのだ。

「――な、何にも――ない――もんっ」

 クララは涙目で床を睨んだまま怒ったように答える。

「だって、ジョーさん、謝ってたじゃない?クララに何か悪いことしたからでしょ?」

「――何にもなかったのっ。なかったんだから――っ」

 クララは頑固に否定した。

「何かあったって顔にちゃんと書いてあるわよ?」

 ミーナも屈んでクララの顔を覗き込む。

 その優しげな口調も目の高さを合わせる仕草もまるで保母さん然として、クララは自分が託児所の子供と同等に扱われたようで癪に障った。

「なによっ。ミーナなんて、1つや2つ年上だからって、ヒトを子供扱いしてっ」

 クララは尚更に子供っぽさ丸出しでミーナに八つ当たりした。


 ちょうど仕事を上がったキャスト達が続々と着替えに来たところでみな何事かという顔でクララを見ている。

「――ちょっと、ミーナ」

 女子更衣室の戸口からキャストの女のコ4人がヒソヒソ声で廊下へ手招きした。

 この4人はデボラ、スーザン、チェルシー、ダイアナである。

「……」

 まだ屈み込んでいるクララの後ろをそっと通り抜けてミーナは廊下へ出た。


「ねえ?わたしがバイトを辞めた後にクララ、ジョーさんと何かあったの?」

「うん、それがね、3月の雨キャンの日にクララ、ジョーさんから部屋に誘われて――」

 女のコ4人はクララから聞いた3月の雨キャンの出来事をミーナに詳細に説明した。

 しかし、あの時、クララはみなにジョーに襲われ掛けた話をやや誇張気味に話してしまったのだ。


「ええ?まさか、ジョーさんが無理やり女のコにそんなこと――」

 ミーナは信じられないという顔をする。

「ホントなのよ。クララはジョーさんにベッドに押し倒されて、力付くで押さえ付けられて、着ているものを剥ぎ取られながらも必死にもがいて抵抗して、やっとのことで逃げ出したらしいの」

 クララ、だいぶ話を盛っている。

「クララはタウンの看板スタァのジョーさんに憧れてたけど、いきなりケダモノのように襲い掛かられたんだもの」

「ウブなクララには相当なショックだったのよ」

「しかも、30分後にクララが忘れた傘を取りに行った時にはもうベッドに別の女のコが寝てたんだって」

「サイテーのスケコマシ野郎よっ」

 女のコ4人はプンプンと怒りが再発している。

 だが、

「……」

 ミーナは疑わしげに首を傾げた。

 今さっきのクララのジョーに対する態度はとてもそんな風には見えなかった。
 
 あれは好きなヒトに振り向いて貰えない恋する乙女の癇癪かんしゃくだったのではないだろうか。
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