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第3弾 虹の向こうへ
Heart Heart Heart(ハート・ハート・ハート)
しおりを挟むキャスト食堂。
「あのとおり騎兵隊キャストと先住民キャストはすんごい険悪なんですよ」
マーティは困り顔で吐息した。
「何でそんなとこまでウェスタン設定に合わせて敵対してんだよ?騎兵隊キャストと先住民キャストってだけでみんな日本人じゃん」
ジョーは呆れ顔して日替わり定食の海老フライに齧り付く。
「う~ん、何でか前々から確執があるようなんです。前のリーダーのダンさんが睨みを利かせてた頃は何事も起こらずに済んでたんですけど、ダンさんが定年退職しちゃってから一触即発の状態で。俺なんかじゃ若い奴等、抑えらんなくて」
マーティはまた吐息してエマの愛妻弁当を広げた。
ご飯に鶏そぼろと炒り卵でハートが描いてある。
「マーティ、貫禄ねえもんよ」
ジョーは素っ気ない。
新婚ラブラブのマーティに親身に相談に乗ってやる気などさらさらないのだ。
「しっかりしてよ。騎兵隊キャストのリーダーになったんだし、もうすぐパパでしょ?」
マダムは力強く励ます。
「リーダーと言っても、あの連中、のぼせ上がると手が付けらんなくて」
マーティは気弱に自信なさげである。
「血気盛んなウェスタン馬鹿の集団だもんよ。無理ねえよな」
ロバートはリーダーの気苦労を知るだけに同情的だ。
「――あ、アランだ。今頃、来た」
メラリーが大盛りご飯のおかわりをした頃になってキャスト食堂にアランが現れた。
「彼はシャワーの後に化粧水やらクリームやら顔に塗ったくって、念入りに髪をセットしてましたからね。今までおめかしに時間が掛かったんですよ」
太田はいまいましげにアランを見やる。
アランが配膳台から日替わり定食のハンバーグのトレイを手にテーブルのほうへ歩いてくる。
「アラン」
マーティが呼び掛けると、
そこへ、
「アラ~ン、わたし達と座らな~い?」
「アラ~ン、一緒に食べましょうよ~」
「アラ~ン」「アラ~ン」とフレンチカンカンの踊り子達が手招きした。
「すみません。マーティさん、俺、あっちに」
「あ、ああ」
「それにしても、ここのキャストの女のコは美女レベル高いって聞いてたけどホンットすね~」
アランはデレデレと鼻の下を伸ばして踊り子達のテーブルへ行くと、
「アラ~ン」
「アラ~ン」
踊り子の中でも特に美女レベルの高いアンとリンダの向かいの席に座った。
「えっ?アイツ等まで?カンカンの踊り子の半分は俺のハニーだったのによ~」
いちいち名前を覚えないスケコマシのジョーは付き合う女のコはすべて暫定的にハニーと呼んでいた。
ジョーはかつてのハニーのアンとリンダまでが新入りのアランに色目を使っているのが悔しい。
「ちぇ、早くもモテモテか~」
メラリーはムシャクシャと大盛りご飯を掻き込んだ。
せっかくガンマンデビューしたら女のコにモテモテと期待していたのに新しくイケメンが入ってくるとは想定外だ。
「ああいうチャラチャラしたのが入るとキャストの風紀が乱れる気がするなっ。先住民キャストの言うことが正しいですよっ」
太田は憤然として言い放つ。
「あっちこっち血気盛んだな」
ロバートはやれやれと頬杖を突いて吐息した。
「……」
先住民キャスト達は反対側の壁際のテーブルから憎々しげにこちらを睨み付けている。
だが、彼等が睨み付けているのはアランではなく何故だかマーティのようだった。
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