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第2弾 いつか王子様が
18Memory⑫(エイティーン・メモリー)
しおりを挟むその夜、
メラリーは悪夢を見た。
クローゼットの扉を開けると目の前にマネキンのフィラデルフィアが立っている。
「――ぎゃっ」
トイレの扉を開けると、また目の前にマネキンのフィラデルフィアが立っている。
「――ひゃあっ」
外へ逃げようと玄関扉を開けると、また目の前にマネキンのフィラデルフィアが立っている。
「――わああっ」
キャスト宿舎を出て巡回バスに飛び乗ると、また目の前にマネキンのフィラデルフィアが立っている。
「――ひいいっ」
メラリーは両手でバタバタと宙を掻いて叫びながらガバッと布団から跳ね起きた。
練習室。
「――それで、そのまま朝まで眠れなくて。――俺、きっとフィラデルフィアに恨まれてるんっすよ。ジョーさんのパートナーの座を奪った憎い奴だって」
メラリーは練習中にうつらうつらするのをマネキンの怨念の悪夢のせいだと訴えた。
「まさか、フィラデルフィアはそんなヒトを恨むような性質の悪いマネキンじゃねえぜ」
ジョーはずっと練習のパートナーにしていたマネキンをことさらに庇うが、
「ううん、今だって布の下で恨めしげに俺のこと睨み付けてる気がする」
メラリーは両手を頬に当ててビクビクと壁際のマネキンを覆った布を見やる。
本気でマネキンにビビッているのだ。
「――う~ん」
ジョーはパートナーのメラリーの安眠のために苦渋の選択をした。
「んしょ――」
マネキンを抱え上げて扉へ向かうジョー。
ガチョリ。
「あれ?マネキンどうするんすか?」
トムとフレディが練習場に入ってきた。
「あ~、元々、駅前の洋品店で処分するのを貰ってきたヤツだし、廃棄に出すよ」
ジョーは手が塞がっているので閉まりかけた扉を足で押さえる。
「え~、捨てるくらいなら俺等の練習に使わせて下さいよ」
「そうっすよ。俺等もピンポン玉撃ち、練習したいし」
トムとフレディがマネキンを使いたがったが、
「ケッ、お前等の下手な鉄砲でギッザギザにされちまうくらいなら綺麗なまんま捨てたほうがマシなんだよ」
ジョーは突っぱねる。
「なんか、俺、フィラデルフィアに呪われる気がする」
メラリーはジョーの肩越しにあるマネキンの恨めしげな笑顔に気が咎める。
「ホラーみてえなこと考えんなよ」
ジョーはわざとケロッと振る舞っているがフィラデルフィアを廃棄するのに気が咎めるのはメラリー以上だ。
「呪われるとしたらジョーさんじゃねえの?」
「そうそう、さんざん練習に使っておいて捨てちまうんだからさ」
トムとフレディは呪わしげにケケケと笑った。
バックステージのストックルーム。
「……」
ジョーはマネキンを抱えて室内に入った。
そこには赤いマジックで『はいき』と書かれたダンボール箱が何箱も置かれ、中には汚れや破れで廃棄する色とりどりのコスチュームが溢れんばかりに詰め込まれている。
タウンのキャストのコスチュームのドレスはみな最初は着慣れないために裾を地面に引き摺ったり、靴で踏んづけたりで傷みが激しいのだ。
ジョーはダンボール箱の前にマネキンを立たせると、黄ばんだ白いドレスの前面に赤いマジックで『はいき』と殴り書きし、
「――すまねえ。フィラデルフィア」
パッと背を向けて、後ろ髪を引かれる思いでストックルームから駆け出していった。
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