上 下
45 / 297
第2弾 いつか王子様が

18Memory③(エイティーン・メモリー)

しおりを挟む

 それから、

 メラリーはゴードンとジョーと一緒にバックステージの巡回バスに乗ってキャスト宿舎へやってきた。

「メラリーちゃんの部屋はこの3階よ」

 ガチョリ。

 ゴードンが玄関の扉を開ける。

「――わあ~♪」

 メラリーは広いフローリングの室内を見て歓声を上げた。

「キャスト宿舎の部屋までアメリカンにこだわったのよ。――あ、けど、靴は脱いで上がってね。そこは日本式なの。部屋で土足なんて許せる?不衛生で許せないわよね~。テレビも冷蔵庫も家電完備よ」

 ゴードンはなかなか神経質らしく脱いだブーツもキチッと揃える。

「広~~い♪」

 メラリーは室内をパタパタと走り回った。

 廊下を挟んだ向かい側のジョーの部屋と間取りは同じだが、ベッドもソファーセットも何もないだけにスカスカで広々としている。

「お前、荷物、そんだけ?」

 ジョーがメラリーのスポーツバッグを見やった。

「あ、布団一式はネット通販で買ったのが届いてるし、あとは着替えとかパジャマとかタオルとか」

 メラリーは食欲は人一倍だが物欲はない。

「ここはキャスト食堂で朝昼晩3食、食べられるし、ショウはコスチュームがあるし、普段着はタウンのTシャツとジャージがあるからね。何にも持って来なくていいって、わたしが言ったのよ。――じゃ、またね」

 ゴードンは早々と部屋を後にした。

「――あ、有難うございました~」

 メラリーは玄関に向かってペコリとする。

「――っ」

 その背後でジョーがメラリーの腰のあたりに目を留めてハッとした。

「――あ?お前、な、何だ?そのジーンズ?」

 ジョーがメラリーのジーンズの後ろポケットを引っ張る。

「――え?」

 メラリーは怪訝そうにジョーに見返った。

「俺は、いまだかつて、このタウンのキャストでラングラー以外のジーンズ履いて歩いてる人間、見たことねえぜ」

 ジョーは眉間に皺を寄せて言った。

「――ラングラー?」

 メラリーはキョトンである。

 ジョーはメラリーのジーンズのタグや裾の裏の縫い目を見て顔を歪めた。

「……」

 憐れみの表情だ。

「わ、分かった。タウンん中にあるウェスタン・ショップで買ってやるっ」

 ジョーがポンとメラリーの肩を叩く。

「――??」

 メラリーはよく状況が飲み込めない。


 ウェスタン・タウンのメインストリート。

「――なんすか?ロバートさん達まで?」

 ジョーが迷惑そうに後ろを振り返った。

 ジョーがメラリーを連れてタウンの中へ買い物に繰り出すと、ロバート、マダム、ゴートンの3人までゾロゾロと付いてきたのだ。

 メインストリートは食事や買い物が楽しめる60店舗以上もの店があるショッピング・モールである。

 地元民にとっては西部開拓時代を模した商店街のようなもので地域密着型テーマパークなのだ。

「メラリーちゃん、3月生まれでしょ。ついでだからバースデープレゼントにメラリーちゃんにウェスタンブーツを買ってあげようと思って」

「俺はハットな」

「わたしはウェスタンシャツ」

 なんとなく3人は張り切っている。


 5人はアメリカ直輸入のウェスタンウェアの店に入った。

「メラリーちゃん、サイズは――29インチ?細いわね~」

 何故かゴードンは嬉しそうだ。

 メラリーが試着室に入ると、

「ステージのコスチューム、ちょこっと直すだけで間に合いそうね?」

 ゴードンはマダムにコソッと囁いてニッコリとした。


「――あの、着てみましたけど」

 上から下までウェスタンウェアに身を包んだメラリーが試着室の扉を開ける。

「あら~、可愛いじゃない?」

「お、いいじゃん。似合ってる」

 マダムとロバートが言った。

「ん~。やっぱ、ラングラー13MWZだって」

 ジョーは満足げに頷く。

「丈も股下78cmのでブーツ履いたら、ちょうどいいじゃん?」

 ジョーは裾丈まで細かくチェックする。

 アメリカのジーンズは裾丈のサイズ展開が豊富で裾直しなどしないのである。

「――ラングラーって何すか?」

 メラリーはジーンズといえばリーバイスとエドウィンくらいしか知らない。

「カウボーイ御用達の乗馬用のジーンズよ。これでタウンのキャストらしくなったじゃな~い?」

 ゴードンがメラリーのウェスタンハットの角度を直してやる。

「――は、はあ、ありがとうございます」

 メラリーは結構な値段のシャツとジーンズとハットとブーツを一揃えプレゼントして貰って嬉しいのだが戸惑い顔である。

(この親切さには何か裏があるのでは――?)

 そんな気がしてならなかった。

 メラリーは勘の鋭いコだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

野球部の女の子

S.H.L
青春
中学に入り野球部に入ることを決意した美咲、それと同時に坊主になった。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

坊主女子:スポーツ女子短編集[短編集]

S.H.L
青春
野球部以外の部活の女の子が坊主にする話をまとめました

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

バッサリ〜由紀子の決意

S.H.L
青春
バレー部に入部した由紀子が自慢のロングヘアをバッサリ刈り上げる物語

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...