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第2弾 いつか王子様が
18Memory③(エイティーン・メモリー)
しおりを挟むそれから、
メラリーはゴードンとジョーと一緒にバックステージの巡回バスに乗ってキャスト宿舎へやってきた。
「メラリーちゃんの部屋はこの3階よ」
ガチョリ。
ゴードンが玄関の扉を開ける。
「――わあ~♪」
メラリーは広いフローリングの室内を見て歓声を上げた。
「キャスト宿舎の部屋までアメリカンにこだわったのよ。――あ、けど、靴は脱いで上がってね。そこは日本式なの。部屋で土足なんて許せる?不衛生で許せないわよね~。テレビも冷蔵庫も家電完備よ」
ゴードンはなかなか神経質らしく脱いだブーツもキチッと揃える。
「広~~い♪」
メラリーは室内をパタパタと走り回った。
廊下を挟んだ向かい側のジョーの部屋と間取りは同じだが、ベッドもソファーセットも何もないだけにスカスカで広々としている。
「お前、荷物、そんだけ?」
ジョーがメラリーのスポーツバッグを見やった。
「あ、布団一式はネット通販で買ったのが届いてるし、あとは着替えとかパジャマとかタオルとか」
メラリーは食欲は人一倍だが物欲はない。
「ここはキャスト食堂で朝昼晩3食、食べられるし、ショウはコスチュームがあるし、普段着はタウンのTシャツとジャージがあるからね。何にも持って来なくていいって、わたしが言ったのよ。――じゃ、またね」
ゴードンは早々と部屋を後にした。
「――あ、有難うございました~」
メラリーは玄関に向かってペコリとする。
「――っ」
その背後でジョーがメラリーの腰のあたりに目を留めてハッとした。
「――あ?お前、な、何だ?そのジーンズ?」
ジョーがメラリーのジーンズの後ろポケットを引っ張る。
「――え?」
メラリーは怪訝そうにジョーに見返った。
「俺は、いまだかつて、このタウンのキャストでラングラー以外のジーンズ履いて歩いてる人間、見たことねえぜ」
ジョーは眉間に皺を寄せて言った。
「――ラングラー?」
メラリーはキョトンである。
ジョーはメラリーのジーンズのタグや裾の裏の縫い目を見て顔を歪めた。
「……」
憐れみの表情だ。
「わ、分かった。タウンん中にあるウェスタン・ショップで買ってやるっ」
ジョーがポンとメラリーの肩を叩く。
「――??」
メラリーはよく状況が飲み込めない。
ウェスタン・タウンのメインストリート。
「――なんすか?ロバートさん達まで?」
ジョーが迷惑そうに後ろを振り返った。
ジョーがメラリーを連れてタウンの中へ買い物に繰り出すと、ロバート、マダム、ゴートンの3人までゾロゾロと付いてきたのだ。
メインストリートは食事や買い物が楽しめる60店舗以上もの店があるショッピング・モールである。
地元民にとっては西部開拓時代を模した商店街のようなもので地域密着型テーマパークなのだ。
「メラリーちゃん、3月生まれでしょ。ついでだからバースデープレゼントにメラリーちゃんにウェスタンブーツを買ってあげようと思って」
「俺はハットな」
「わたしはウェスタンシャツ」
なんとなく3人は張り切っている。
5人はアメリカ直輸入のウェスタンウェアの店に入った。
「メラリーちゃん、サイズは――29インチ?細いわね~」
何故かゴードンは嬉しそうだ。
メラリーが試着室に入ると、
「ステージのコスチューム、ちょこっと直すだけで間に合いそうね?」
ゴードンはマダムにコソッと囁いてニッコリとした。
「――あの、着てみましたけど」
上から下までウェスタンウェアに身を包んだメラリーが試着室の扉を開ける。
「あら~、可愛いじゃない?」
「お、いいじゃん。似合ってる」
マダムとロバートが言った。
「ん~。やっぱ、ラングラー13MWZだって」
ジョーは満足げに頷く。
「丈も股下78cmのでブーツ履いたら、ちょうどいいじゃん?」
ジョーは裾丈まで細かくチェックする。
アメリカのジーンズは裾丈のサイズ展開が豊富で裾直しなどしないのである。
「――ラングラーって何すか?」
メラリーはジーンズといえばリーバイスとエドウィンくらいしか知らない。
「カウボーイ御用達の乗馬用のジーンズよ。これでタウンのキャストらしくなったじゃな~い?」
ゴードンがメラリーのウェスタンハットの角度を直してやる。
「――は、はあ、ありがとうございます」
メラリーは結構な値段のシャツとジーンズとハットとブーツを一揃えプレゼントして貰って嬉しいのだが戸惑い顔である。
(この親切さには何か裏があるのでは――?)
そんな気がしてならなかった。
メラリーは勘の鋭いコだった。
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