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第1弾 黄色いリボン
Sun(太陽)
しおりを挟むあくる日。
空はドラえもんブルーの快晴。
数日振りにサンサンと日射しが降り注いだ。
騎兵隊キャストの詰め所では、
晴れやかな表情で整列する騎兵隊キャスト達。
「――ダンさん。これ、キャストのみんなから記念品です」
ダンに革張りの箱を手渡すマーティ。
「……」
箱を開くダン。
その中身は銀の懐中時計。
「やっぱり、映画の『黄色いリボン』に倣って懐中時計にしました」
マーティが言った。
「――ありがとう。なによりの贈り物だよ」
鼻の奥がツーンとした表情になるダン。
パチ。
懐中時計の蓋を開け、チクタクと動く針を見つめる。
「……」
しばし、感慨に浸る。
パチン。
蓋を閉じ、大事に内ポケットに懐中時計を仕舞い、
「――ズズッ」
鼻をすする。
だが、泣き顔を見られて、きまり悪いガキ大将のようにすぐに鼻の下を擦ってダンは照れた笑顔を向けた。
「……」
騎兵隊キャスト達はジーンとして涙目でダンを見つめている。
「――ん~、良い光景じゃねえか」
「……」
「――(ウンウン)」
騎兵隊キャストの様子をショウのコスチュームと着ぐるみのまま覗き見ているジョー、メラリー、バッキーの太田。
「――うっぅ」
「うぐ、うぐ」
ジョーとバッキーの太田はお互いの肩を抱き合って貰い泣きしている。
「……」
メラリーは少し引き気味だ。
(ウェスタン馬鹿は暑苦しい)
やにわに温度差を感じるメラリーであった。
昼下がり。
野外ステージではガンファイトが始まった。
ガン!
ガン!
ガン!
ガン!
晴れた青空に鳴り響く銃声。
『Hit!Hit!』
ガン!
ガン!
馬で駆けつつ、射撃をするジョーとロバート。
観客席の最前列では、
「……」
エマが出入り口をキョロキョロと見て、来ない母親を待ちわびていた。
一方、
野外ステージの正面ゲート。
「はぁはぁ」
息を切らし慌ててゲートに駆け込む50代女性。
ダンの妻、陽子である。
「大変、申し訳ないですが、途中入場は出来ないんです」
ゲートの保安官キャストに陽子は止められる。
「これから騎兵隊の馬が出走するところで危険ですから」
保安官キャストは申し訳なさそうに告げた。
「い、いいんです。ここからで」
陽子はゲートの横の柵のほうへ進んでいった。
「ああ、あの女のヒト。時々、来るけど、いっつも観客席には入らないで、そこで観てるんだよ」
陽子を見て思い出し、別の保安官キャストが言った。
「へえ?あそこじゃステージ見えないだろうに?」
不可解そうに陽子を見る保安官キャスト。
パラッパパー♪
騎兵隊のラッパが鳴り響く。
「――っ」
ハッとして陽子はビュート(岩山)のほうに注目する。
パッカ、
パッカ、
パッカ、
パッカ、
ビュート(岩山)の裏側から騎兵隊が駆け出てくる。
ゲートの横側はステージは見づらいが騎兵隊を観るにはベスト・ポイントなのだ。
パッカ、
パッカ、
駆けながら観客席を気にするダン。
パッカ、
パッカ、
後に続くマーティ。
「……」
エマがダンに手を振る。
「……」
エマに気付き、頷くダン。
「……」
エマの隣の空席を見て、落胆の表情のマーティ。
「……」
陽子はゲートの横側からダンを見つめている。
パッカ、
パッカ、
ゲートの横の柵に立つ陽子には気付かずにダンは駆け過ぎていった。
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