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ようかめ
しおりを挟む昨日。あの後僕は病院に連れて行かれ、結果特に骨などに問題はなく、ただなんとなく恥ずかしい思いをしただけだった。老齢の男性医師は汚い眼鏡の位置を直しながら「若い子は喧嘩もね、云々……」と長々と説教を始め、精神的には辛かった。待合室にいた後輩兼彼氏は機嫌良く笑いながら「先輩好みの先生でしょう?」と誤解を招く物言いをし、隣のおばさんは眉をしかめた。
からの今日。
あんな啖呵、僕は信じていなかった。
『俺が、先輩をもっと惨めで可哀想な生き物にしてあげます。そういうの好きでしょう。死んだ方がマシだってくらい滅茶苦茶な瞬間、俺ならあげられますよ』
この辺の言葉である。信じてなかった。
だから、なんてことのない一日がまた帰ってくる。と思っていた。
しかし違った。
「じゃーん、俺達付き合って一週間とちょっとになります」
「え……いや……」
後輩の同期生達の前に押し出された。
中には脚を噛んだあの男もにやにや笑いながら先頭に立っていた。目が合うと、僕の喉の奥がひゅっと高く鳴った。
お洒落な衣服のカースト上位集団は僕のことを品定めの眼を隠そうともせず、口々に「えーやだー」「仲良いもんね」「うけるわ」等と高く笑っていたのだが、後輩兼彼氏が一向にネタばらしをしないため、次第に「え……マジで……?」という笑えない空気になっていった。
「マジマジ、だから一緒にいても妬かないでね」
「ぁう……ぁ」
ライオンに囲まれたガゼルの気持ち。
皆黙って僕の爪先から被ったフードの先まで、何往復も、僕が視線線ですり切れそうな程、観察していた。
その中にいた可愛らしい女の子が一つ「ふぅん……」と鼻にかけた高い声で意味深に呟いた。
「アタシのこと、遊びだったんだぁ」
空気は正に一触即発。
しかし後輩は楽しそうに言った。
「遊びもクソも何もないっしょ、じゃあ次あるから」と僕の肩を抱いた。
そして暫くにこにこ歩いて一言「先輩のことボコったの、真ん中ら辺の男でしょ?」と言った。黙っていると「やっぱり? 先輩わかりやすいですよねぇ」といつもの調子で笑った。
「なんだよ……」
「そういう所かわいいですよね」
「かわいくない」
「じゃあ次は友達に紹介しますね」
アイツらは友達じゃなかったんか。何だったんだ。
次に連れて行かれたのは普通の一軒家だった。後輩は慣れたように鍵のかかっていない扉を開け「おひさぁ」とゆるく声をかけた。
「久々じゃん」と小さい美男子が言う。
「あ、それが彼氏?」荒んでそうな眼鏡。
「えー! 恋人出来たんだ?」二m近い男。
「それよりノート貸して下さい」気怠げなマイペース。
男ばかり四人、口々に軽口を叩く。
「先輩、これが友達です。今いない奴もいるけど」
「どーも、いつメンでーす」
「敬語うける」
「いつメンってなんか嬉しい~」
「なあそれよりノート、なあってば!」
「ど、どーも」
「これからコイツらの玩具になってもらいますから」
「え゙っ」
「俺ちょっと用済ませてくるから、良い子で待ってるんですよ」
人見知りするタイミングを与えない怒濤の質問。
なんとなくコイツがいつも楽しそうな理由がわかった木曜日。
明日鉢を割った男が土下座してくるのを知らない八日目。
蝉なら死んでるが、僕は生きてる。
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