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◆番外編◆ 思いがけないこと〜side夏目〜
#7
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そんな、カッコいいこといったって、やっぱりしばらくは、美菜ちゃんの居ない隣の空席を見るたび、指示を出そうと『綾瀬』なんて呼びそうになってしまうたび、
あぁ、もう居ないんだな、なんてしんみりとした気持ちにもなったりした。
まぁ、けど、要の送迎で、美菜ちゃんと会う機会も話す機会もあるため、思いのほか穏やかな気持ちで過ごすことができていた。
それは、きっと、傍で見守ってきた美菜ちゃんから、少しずつ距離をおいて、自分の中でもちゃんと区切りを付けたのが良かったんだろう、と、この時の俺は、そう思い込んでしまってて。
それが、違っていたということに、そのことに俺が気づくのは、もう少し時間が経ってからのことになる。
まぁ、とにかく、そんな訳で、美菜ちゃんへの想いに終止符を打つことができた俺は、俺にとって、弟のような要と、可愛い妹のような美菜ちゃんとの、結婚を心から祝したいという想いから、花嫁である美菜ちゃんのエスコート役をかって出ることにしたのだった。
美菜ちゃんが退職してから一週間ほどが経った頃だっただろうか。
そのことを要に話したときに、やけに、驚いたような、どこかホッとしたような、なにやら複雑な表情を浮かべていたが、最後には、
「夏目がエスコートしてくれるなんて知ったら、美菜は泣いて喜ぶに違いない。手間をかけるがよろしく頼む」
なんて、偉く感激して、眼まで潤ませてしまった要に、そう言って、力強く抱きすくめられてしまった時には……。
今まで俺が、何度か冗談半分で抱き着いたりした日にゃ、『気色悪いことをするな』と言ってたクセに、コイツどうしたんだ、と若干心配になったほどだった。
まぁ、それだけ、コイツにとって、美菜ちゃんが大切な存在だってことなんだろう。
互いに、こんなにも想いあってるんだから、さぞかし幸せな家族を築いていくことだろう。
要と話しながら、そんなことを考えていたからだろうか、俺もいつか、なんて、ふとそんなことを漠然と考えてたりしてしまっていて。
不意に、焼酎を酌み交わしながらくだらない話をして笑いあっている香澄ちゃんの笑顔が浮かんできて。
そういえば、最近呑んでないなぁ、今夜あたり連絡でもしてみるか、なんて思いつつ、俺は、秘書室へと戻った。
それから、要と美菜ちゃんとの結婚式の当日までは、通常の業務は勿論、社長の麗子さんから引き継いだ仕事に加えて、お得意様への挨拶回りに、同業者の会合だったり、会食だったり、その合間を縫っての結婚式の準備等々、美菜ちゃんが居なくなった寂しさなんて感じている暇もない日々が続いていた。
当然、香澄ちゃんと呑みに行く機会も、遠のいてしまっていて、式の一週間前になって、久々に呑むことになったのだが……。
その日の俺は、いつになく仕事の疲れが溜まっていたようで、いつもの居酒屋の隅っこのテーブル席で香澄ちゃんと呑んでるうち、どうやら、うとうとと転寝《うたたね》をしてしまってたようで。
「夏目さん、大丈夫ですか? 今日はもうお開きにしましょうか?」
「……ん? あぁ、うん、ごめん。そうさせてもらおうかな」
心配そうに声を掛けてくれた香澄ちゃんの声で、ようやく目を覚ますという有り様だった。
自分でも、驚きだった。
結構酒には強いっていう自信もあったし、なにより、他人《ひと》に弱味や借りを作ったりするのが嫌いだった俺は、こんなこと、今まで一度もなかった筈なのに……。
だから、余計にしっかりしないとダメだっていう気持ちが勝ってしまっていたんだろう俺は、もしかしたら、これまで以上に、香澄ちゃんに対して素っ気ない態度をとってしまっていたのかもしれない。
「じゃぁ、おやすみなさい」
「あぁ、うん、おやすみ」
いつもはほろ酔いで、陽気にニコニコしている筈の香澄ちゃんがなんとなく元気がないような気がして。
気にはなりながらも、この時の俺には、気遣えるようなそんな気持ちの余裕もなくて、毎回そうするように、この日も駅で別れた。
そうして、一週間後に結婚式の当日を迎えて、美菜ちゃんのエスコート役をかって出てた俺には、リハーサルもあったりして。
身重の美菜ちゃんが心配だからという要に頼まれて、挙式に参列していた香澄ちゃんとも話す時間もなかったし。
結局、式の後も、親族の輪の中に居る香澄ちゃんとは話す機会はなかった。
いつもの香澄ちゃんなら、話しかけてくれそうなものなのに、もしかして避けられてるのか、とか思いながらも、結局、それも確かめることはできずじまいだった。
あぁ、もう居ないんだな、なんてしんみりとした気持ちにもなったりした。
まぁ、けど、要の送迎で、美菜ちゃんと会う機会も話す機会もあるため、思いのほか穏やかな気持ちで過ごすことができていた。
それは、きっと、傍で見守ってきた美菜ちゃんから、少しずつ距離をおいて、自分の中でもちゃんと区切りを付けたのが良かったんだろう、と、この時の俺は、そう思い込んでしまってて。
それが、違っていたということに、そのことに俺が気づくのは、もう少し時間が経ってからのことになる。
まぁ、とにかく、そんな訳で、美菜ちゃんへの想いに終止符を打つことができた俺は、俺にとって、弟のような要と、可愛い妹のような美菜ちゃんとの、結婚を心から祝したいという想いから、花嫁である美菜ちゃんのエスコート役をかって出ることにしたのだった。
美菜ちゃんが退職してから一週間ほどが経った頃だっただろうか。
そのことを要に話したときに、やけに、驚いたような、どこかホッとしたような、なにやら複雑な表情を浮かべていたが、最後には、
「夏目がエスコートしてくれるなんて知ったら、美菜は泣いて喜ぶに違いない。手間をかけるがよろしく頼む」
なんて、偉く感激して、眼まで潤ませてしまった要に、そう言って、力強く抱きすくめられてしまった時には……。
今まで俺が、何度か冗談半分で抱き着いたりした日にゃ、『気色悪いことをするな』と言ってたクセに、コイツどうしたんだ、と若干心配になったほどだった。
まぁ、それだけ、コイツにとって、美菜ちゃんが大切な存在だってことなんだろう。
互いに、こんなにも想いあってるんだから、さぞかし幸せな家族を築いていくことだろう。
要と話しながら、そんなことを考えていたからだろうか、俺もいつか、なんて、ふとそんなことを漠然と考えてたりしてしまっていて。
不意に、焼酎を酌み交わしながらくだらない話をして笑いあっている香澄ちゃんの笑顔が浮かんできて。
そういえば、最近呑んでないなぁ、今夜あたり連絡でもしてみるか、なんて思いつつ、俺は、秘書室へと戻った。
それから、要と美菜ちゃんとの結婚式の当日までは、通常の業務は勿論、社長の麗子さんから引き継いだ仕事に加えて、お得意様への挨拶回りに、同業者の会合だったり、会食だったり、その合間を縫っての結婚式の準備等々、美菜ちゃんが居なくなった寂しさなんて感じている暇もない日々が続いていた。
当然、香澄ちゃんと呑みに行く機会も、遠のいてしまっていて、式の一週間前になって、久々に呑むことになったのだが……。
その日の俺は、いつになく仕事の疲れが溜まっていたようで、いつもの居酒屋の隅っこのテーブル席で香澄ちゃんと呑んでるうち、どうやら、うとうとと転寝《うたたね》をしてしまってたようで。
「夏目さん、大丈夫ですか? 今日はもうお開きにしましょうか?」
「……ん? あぁ、うん、ごめん。そうさせてもらおうかな」
心配そうに声を掛けてくれた香澄ちゃんの声で、ようやく目を覚ますという有り様だった。
自分でも、驚きだった。
結構酒には強いっていう自信もあったし、なにより、他人《ひと》に弱味や借りを作ったりするのが嫌いだった俺は、こんなこと、今まで一度もなかった筈なのに……。
だから、余計にしっかりしないとダメだっていう気持ちが勝ってしまっていたんだろう俺は、もしかしたら、これまで以上に、香澄ちゃんに対して素っ気ない態度をとってしまっていたのかもしれない。
「じゃぁ、おやすみなさい」
「あぁ、うん、おやすみ」
いつもはほろ酔いで、陽気にニコニコしている筈の香澄ちゃんがなんとなく元気がないような気がして。
気にはなりながらも、この時の俺には、気遣えるようなそんな気持ちの余裕もなくて、毎回そうするように、この日も駅で別れた。
そうして、一週間後に結婚式の当日を迎えて、美菜ちゃんのエスコート役をかって出てた俺には、リハーサルもあったりして。
身重の美菜ちゃんが心配だからという要に頼まれて、挙式に参列していた香澄ちゃんとも話す時間もなかったし。
結局、式の後も、親族の輪の中に居る香澄ちゃんとは話す機会はなかった。
いつもの香澄ちゃんなら、話しかけてくれそうなものなのに、もしかして避けられてるのか、とか思いながらも、結局、それも確かめることはできずじまいだった。
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