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◆番外編◆ 思いがけないこと〜side夏目〜
#6
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身勝手だが、美優に後押しされた気になって、腹をくくったつもりだった。
けど、いざ、屋上のベンチで、こちらに背を向けて座る美菜ちゃんの姿を目にしてしまうと。
なんとも言えない寂しさが込み上げてきて、それに伴い、今までのことが脳裏にまで過ってしまい。
美菜ちゃんの元へ、歩みを一歩、また一歩進めるごとに、目頭が熱くなってくる。
――ハハッ、何泣きそうになってんの? そんなキャラじゃねーっつの。
そんならしくない自分自身に対して、心ん中で速攻ツッコんで、笑い飛ばしてやりながら……
泣いているのか、肩を震わせながら咽び泣く声を必死で抑え込もうとしている美菜ちゃんの頭をポンポンしつつ、
「美菜ちゃん、お疲れ様。それから、おめでとう。いやー、それにしても良かった良かった。これで『YAMATO』も安泰だし、俺も手のかかる後輩の面倒見なくて済むし。いやー本当に良かった。
おっといけね。要のほうもうちょっとかかりそうだから、俺、先に秘書室戻ってるからさ。ゆっくり来なね? それだけ伝えとこうと思って」
いつも以上に茶化した声で、心にもないこと言ったりして、言い逃げるように、「じゃっ」ってさっさと立ち去ろうとしたのに……。
美菜ちゃんに後ろから抱き着かれてしまい、それは叶うことはなかった。
そればかりか、美菜ちゃんに抱き着かれた瞬間、美優のことが真っ先に浮かんできてしまった俺は、一瞬時間が止まったんじゃないかって思うほど、動けなくなってしまった。
きっと、優しい美菜ちゃんのことだから、最後に、いつも傍で見守ってた俺に、一言何かを言いたいとでも思ったんだろう。
けど、そんな美菜ちゃんの言動一つ一つが、美優と重なってしまう俺は、やっぱり、美優のことを忘れることなんてできないんだって、思い知ることになった。
きっと、美優と重ねてしまっていたからこそ、恋愛感情を抱いてしまったんだろう。
まぁ、でも、そうであっても、美優以外のことを好きになれたことには違いないんだ。
これはきっと、幸せにしてやれなかった美優から、俺に課された試練なんだろうから、それを乗り越えなけりゃ、美優だって許してはくれないだろうから、なんとかして乗り越えるしかないよな――。
今までの俺だったら、後ろ向きにしか捉えられなかったことを、前向きに捉えることができた俺は、美優に課された試練を、もしかしたら、もう、半分くらいは超えていたのかもしれない。
美菜ちゃんのお陰で、色んなことに気づかさせてもらった俺は、相変わらず男に警戒心のない美菜ちゃんに、要も大変だなぁ、なんて思いながら、いつものように茶化してるうち、泣き止んだ美菜ちゃん。
そんな、出逢った頃となんら変わらない、純粋で素直な美菜ちゃんの無自覚さに感心しつつも。
「バーカ、真に受けんな。これだから無自覚なお子ちゃまは。だったら要があんなに心配するかっつーの。要と出逢ってからの美菜ちゃんは、入社したての頃とは比べもんになんねーくらい綺麗になった……んじゃねーかなぁ? あれ? どうだっけ?」
なんて、もうこんな風に言いあったりすることもないのかと思うと、寂しさもあり、ついつい自分の本音を織り交ぜつつ。
「まっ、少なくとも、要の目にはそう映ってるらしいから、安心しな? さーて、お子ちゃまの相手はこれくらいにして、秘書室かーえろっと」
「私も一緒に帰ります」
「あれ? これからひとりで『寂しい』って泣きじゃくるんじゃなかったのか?」
「泣きませんっ」
「あっそ。俺は寂しいけどなぁ? まぁ、爪の先くらいはだけど」
「そーですか、それは良かったですねぇ」
「うん。あっ、それに、要と美菜ちゃん見てたら、また誰かを好きになるのもいいかなって思うようになった。美優のことで心配かけたし、一応、言っとこうと思って」
「あっ、前に言ってた好きな人がいるって人のことですか?」
「……あれ?俺、そんなこと言ったっけ?」
「はい」
「そんときの俺、どうかしてたんだなぁ? こんなお子ちゃまに愚痴るなんて。まぁ、それはさておき。
退職したっていっても、美菜ちゃんはもうすぐ『YAMATO』の社長夫人になるんだからさぁ。いつでも顔出しにおいで。要がメチャクチャ喜ぶだろうから」
「はいッ! 今まで色々ありがとうございました。これからもよろしくお願いしますっ!」
「はいはい。そりゃどうもご丁寧に」
こうして、美菜ちゃんと、本当の兄妹のような楽しい会話を交わしながら。
美優に重ねて、抱いてしまってた美菜ちゃんへの想いに、やっと、終止符を打つことができた。
けど、いざ、屋上のベンチで、こちらに背を向けて座る美菜ちゃんの姿を目にしてしまうと。
なんとも言えない寂しさが込み上げてきて、それに伴い、今までのことが脳裏にまで過ってしまい。
美菜ちゃんの元へ、歩みを一歩、また一歩進めるごとに、目頭が熱くなってくる。
――ハハッ、何泣きそうになってんの? そんなキャラじゃねーっつの。
そんならしくない自分自身に対して、心ん中で速攻ツッコんで、笑い飛ばしてやりながら……
泣いているのか、肩を震わせながら咽び泣く声を必死で抑え込もうとしている美菜ちゃんの頭をポンポンしつつ、
「美菜ちゃん、お疲れ様。それから、おめでとう。いやー、それにしても良かった良かった。これで『YAMATO』も安泰だし、俺も手のかかる後輩の面倒見なくて済むし。いやー本当に良かった。
おっといけね。要のほうもうちょっとかかりそうだから、俺、先に秘書室戻ってるからさ。ゆっくり来なね? それだけ伝えとこうと思って」
いつも以上に茶化した声で、心にもないこと言ったりして、言い逃げるように、「じゃっ」ってさっさと立ち去ろうとしたのに……。
美菜ちゃんに後ろから抱き着かれてしまい、それは叶うことはなかった。
そればかりか、美菜ちゃんに抱き着かれた瞬間、美優のことが真っ先に浮かんできてしまった俺は、一瞬時間が止まったんじゃないかって思うほど、動けなくなってしまった。
きっと、優しい美菜ちゃんのことだから、最後に、いつも傍で見守ってた俺に、一言何かを言いたいとでも思ったんだろう。
けど、そんな美菜ちゃんの言動一つ一つが、美優と重なってしまう俺は、やっぱり、美優のことを忘れることなんてできないんだって、思い知ることになった。
きっと、美優と重ねてしまっていたからこそ、恋愛感情を抱いてしまったんだろう。
まぁ、でも、そうであっても、美優以外のことを好きになれたことには違いないんだ。
これはきっと、幸せにしてやれなかった美優から、俺に課された試練なんだろうから、それを乗り越えなけりゃ、美優だって許してはくれないだろうから、なんとかして乗り越えるしかないよな――。
今までの俺だったら、後ろ向きにしか捉えられなかったことを、前向きに捉えることができた俺は、美優に課された試練を、もしかしたら、もう、半分くらいは超えていたのかもしれない。
美菜ちゃんのお陰で、色んなことに気づかさせてもらった俺は、相変わらず男に警戒心のない美菜ちゃんに、要も大変だなぁ、なんて思いながら、いつものように茶化してるうち、泣き止んだ美菜ちゃん。
そんな、出逢った頃となんら変わらない、純粋で素直な美菜ちゃんの無自覚さに感心しつつも。
「バーカ、真に受けんな。これだから無自覚なお子ちゃまは。だったら要があんなに心配するかっつーの。要と出逢ってからの美菜ちゃんは、入社したての頃とは比べもんになんねーくらい綺麗になった……んじゃねーかなぁ? あれ? どうだっけ?」
なんて、もうこんな風に言いあったりすることもないのかと思うと、寂しさもあり、ついつい自分の本音を織り交ぜつつ。
「まっ、少なくとも、要の目にはそう映ってるらしいから、安心しな? さーて、お子ちゃまの相手はこれくらいにして、秘書室かーえろっと」
「私も一緒に帰ります」
「あれ? これからひとりで『寂しい』って泣きじゃくるんじゃなかったのか?」
「泣きませんっ」
「あっそ。俺は寂しいけどなぁ? まぁ、爪の先くらいはだけど」
「そーですか、それは良かったですねぇ」
「うん。あっ、それに、要と美菜ちゃん見てたら、また誰かを好きになるのもいいかなって思うようになった。美優のことで心配かけたし、一応、言っとこうと思って」
「あっ、前に言ってた好きな人がいるって人のことですか?」
「……あれ?俺、そんなこと言ったっけ?」
「はい」
「そんときの俺、どうかしてたんだなぁ? こんなお子ちゃまに愚痴るなんて。まぁ、それはさておき。
退職したっていっても、美菜ちゃんはもうすぐ『YAMATO』の社長夫人になるんだからさぁ。いつでも顔出しにおいで。要がメチャクチャ喜ぶだろうから」
「はいッ! 今まで色々ありがとうございました。これからもよろしくお願いしますっ!」
「はいはい。そりゃどうもご丁寧に」
こうして、美菜ちゃんと、本当の兄妹のような楽しい会話を交わしながら。
美優に重ねて、抱いてしまってた美菜ちゃんへの想いに、やっと、終止符を打つことができた。
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