357 / 427
◆番外編◆ 思いがけないこと〜side夏目〜
#1
しおりを挟む
俺が初めて彼女を目にしたときの印象は、正直、あまり好ましいものじゃなかった。
見かけは、どっかのお高くとまったモデルを彷彿とさせるような、抜群のプロポーションに、なんとも恵まれたルックス。そのうえ、医者ときたもんだ。
……親類になる要には悪いが、さぞかし我儘で、傲慢な女なんだろう……。
要の元カノであり、『YAMATO』のお得意様である大企業のお嬢さんで、有名なバイオリニストの、あのいけ好かない身勝手な女のように。
俺の身勝手な偏見かもしれないが、俺は、昔から、”この手の女”がどうも苦手だった。
というのも、何故か昔から、この手の女によく言い寄られていて、辟易していたから余計だ。
まぁ、幸いなことに、今は、大抵の女が怖がって毛嫌いする、あの”すかしたインテリ銀縁メガネ”仕様の仮の姿だ。
あっちから、勝手に怖がって、距離を置いてくれるだろう……。
そう思っていたのに、そんな俺の予想は呆気なく覆されることとなった。
そればかりか、患者である美菜ちゃんのことなんかそっちのけで、グイグイ迫ってくるという、なんとも”変わった男の趣味”であるらしい、この小石川香澄という風変わりな女に、この俺がたじろいでしまうというなんとも情けない有り様だった。
そんな俺が、渋滞に巻き込まれながらも病室に駆けつけた要の登場のお陰で、ホッと胸を撫でおろすことになって、もうあの女にもあうこともないだろうと思っていたのに……。
まさか、翌日、あの女の名刺を手にすることになろうとは、夢にも思わなかった。
ましてや、愛してやまない可愛い美菜ちゃんのご懐妊でさぞかし浮かれているだろうと思っていた要が、一足早い幸せな新婚生活を営んでいる筈の愛の巣から、この世の終わりみたいな表情をして出てくるなんてことも、モチロン夢にも思っちゃいなかった。
事情を訊けば……。
どうやら、昨日病室で、俺に美菜ちゃんが言ってた言葉を、ピンポイントで聞いてしまっていたらしい要。
――なんともタイミングの悪い奴だなぁ。
それにしても、あんなに要のことしか眼中にないって、顔に書いてあるくらい、分かり易い美菜ちゃんの、一体どこを見ているんだ、とうっかり言いたくなってしまったが……。
散々馬鹿笑いしてしまった手前、見掛け倒しで、長年EDで悩んでいただけあって、少々ヘタレなところがある要の傷口を広げないためにも、心の優しい俺はそっと心の中だけに留めてやることにした。
そんな親切な俺に、
「あぁ、そうだ。……実は、これを預かったんだが……。気乗りしないなら、別にそのままにしておいて構わないんだが……。気が向いたら、連絡してやってくれ」
なにやら、らしくない歯切れの悪い言い方で、そうっと差し出してきた一枚の名刺に、”小石川香澄”と印字されている文字を目にした俺は、危うく、がっくりと項垂れそうになってしまったくらいだ。
『気乗りしないなら、別にそのままにしておいて構わないんだが……』
なんて、言われても、美菜ちゃん以外のことでは、『YAMATO』の後継者として、幼少の頃より厳しく育てられただけあって、いつも毅然としていて、堂々としているコイツが、こんな言い方をするんだ。
きっと、そうとうごり押しされたか、弱味でも握られているんだろう……。
しょうがない、大学の頃はコイツのことを知らないうちに好きになってしまってたし。
まぁ、今は、美優のことがあったせいで、そんな気持ちも薄れ、弟っていう言い方のほうがしっくりくる。
それに、数か月前に、気づいてしまった美菜ちゃんへの想いのほうが思いのほか大きくなっていて。
でも、要のことしか眼中にない、美菜ちゃんのなんとも徹底した姿を見せつけられちゃ、初めこそ辛かったが……。
実家に帰ったのが良かったのか、美菜ちゃんと話していても、思わず触れてしまいたい、なんて衝動に駆られてしまうようなことも、ずいぶん減ってきたように思う。
――長年の親友として、兄貴分として、ご懐妊のお祝いに、一肌脱いでやるか。
一回会って、きちっとお断りすれば済むだろうし。
なんて、この時の俺は、それくらいにしか思っちゃいなかった。
見かけは、どっかのお高くとまったモデルを彷彿とさせるような、抜群のプロポーションに、なんとも恵まれたルックス。そのうえ、医者ときたもんだ。
……親類になる要には悪いが、さぞかし我儘で、傲慢な女なんだろう……。
要の元カノであり、『YAMATO』のお得意様である大企業のお嬢さんで、有名なバイオリニストの、あのいけ好かない身勝手な女のように。
俺の身勝手な偏見かもしれないが、俺は、昔から、”この手の女”がどうも苦手だった。
というのも、何故か昔から、この手の女によく言い寄られていて、辟易していたから余計だ。
まぁ、幸いなことに、今は、大抵の女が怖がって毛嫌いする、あの”すかしたインテリ銀縁メガネ”仕様の仮の姿だ。
あっちから、勝手に怖がって、距離を置いてくれるだろう……。
そう思っていたのに、そんな俺の予想は呆気なく覆されることとなった。
そればかりか、患者である美菜ちゃんのことなんかそっちのけで、グイグイ迫ってくるという、なんとも”変わった男の趣味”であるらしい、この小石川香澄という風変わりな女に、この俺がたじろいでしまうというなんとも情けない有り様だった。
そんな俺が、渋滞に巻き込まれながらも病室に駆けつけた要の登場のお陰で、ホッと胸を撫でおろすことになって、もうあの女にもあうこともないだろうと思っていたのに……。
まさか、翌日、あの女の名刺を手にすることになろうとは、夢にも思わなかった。
ましてや、愛してやまない可愛い美菜ちゃんのご懐妊でさぞかし浮かれているだろうと思っていた要が、一足早い幸せな新婚生活を営んでいる筈の愛の巣から、この世の終わりみたいな表情をして出てくるなんてことも、モチロン夢にも思っちゃいなかった。
事情を訊けば……。
どうやら、昨日病室で、俺に美菜ちゃんが言ってた言葉を、ピンポイントで聞いてしまっていたらしい要。
――なんともタイミングの悪い奴だなぁ。
それにしても、あんなに要のことしか眼中にないって、顔に書いてあるくらい、分かり易い美菜ちゃんの、一体どこを見ているんだ、とうっかり言いたくなってしまったが……。
散々馬鹿笑いしてしまった手前、見掛け倒しで、長年EDで悩んでいただけあって、少々ヘタレなところがある要の傷口を広げないためにも、心の優しい俺はそっと心の中だけに留めてやることにした。
そんな親切な俺に、
「あぁ、そうだ。……実は、これを預かったんだが……。気乗りしないなら、別にそのままにしておいて構わないんだが……。気が向いたら、連絡してやってくれ」
なにやら、らしくない歯切れの悪い言い方で、そうっと差し出してきた一枚の名刺に、”小石川香澄”と印字されている文字を目にした俺は、危うく、がっくりと項垂れそうになってしまったくらいだ。
『気乗りしないなら、別にそのままにしておいて構わないんだが……』
なんて、言われても、美菜ちゃん以外のことでは、『YAMATO』の後継者として、幼少の頃より厳しく育てられただけあって、いつも毅然としていて、堂々としているコイツが、こんな言い方をするんだ。
きっと、そうとうごり押しされたか、弱味でも握られているんだろう……。
しょうがない、大学の頃はコイツのことを知らないうちに好きになってしまってたし。
まぁ、今は、美優のことがあったせいで、そんな気持ちも薄れ、弟っていう言い方のほうがしっくりくる。
それに、数か月前に、気づいてしまった美菜ちゃんへの想いのほうが思いのほか大きくなっていて。
でも、要のことしか眼中にない、美菜ちゃんのなんとも徹底した姿を見せつけられちゃ、初めこそ辛かったが……。
実家に帰ったのが良かったのか、美菜ちゃんと話していても、思わず触れてしまいたい、なんて衝動に駆られてしまうようなことも、ずいぶん減ってきたように思う。
――長年の親友として、兄貴分として、ご懐妊のお祝いに、一肌脱いでやるか。
一回会って、きちっとお断りすれば済むだろうし。
なんて、この時の俺は、それくらいにしか思っちゃいなかった。
0
お気に入りに追加
1,143
あなたにおすすめの小説
離婚した彼女は死ぬことにした
まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。
-----------------
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
-----------------
とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。
まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。
書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。
作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

10年ぶりに再会した幼馴染と、10年間一緒にいる幼馴染との青春ラブコメ
桜庭かなめ
恋愛
高校生の麻丘涼我には同い年の幼馴染の女の子が2人いる。1人は小学1年の5月末から涼我の隣の家に住み始め、約10年間ずっと一緒にいる穏やかで可愛らしい香川愛実。もう1人は幼稚園の年長組の1年間一緒にいて、卒園直後に引っ越してしまった明るく活発な桐山あおい。涼我は愛実ともあおいとも楽しい思い出をたくさん作ってきた。
あおいとの別れから10年。高校1年の春休みに、あおいが涼我の家の隣に引っ越してくる。涼我はあおいと10年ぶりの再会を果たす。あおいは昔の中性的な雰囲気から、清楚な美少女へと変わっていた。
3人で一緒に遊んだり、学校生活を送ったり、愛実とあおいが涼我のバイト先に来たり。春休みや新年度の日々を通じて、一度離れてしまったあおいとはもちろんのこと、ずっと一緒にいる愛実との距離も縮まっていく。
出会った早さか。それとも、一緒にいる長さか。両隣の家に住む幼馴染2人との温かくて甘いダブルヒロイン学園青春ラブコメディ!
※特別編4が完結しました!(2024.8.2)
※小説家になろう(N9714HQ)とカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録や感想をお待ちしております。


淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。

社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる