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◆番外編◆ なにより愛しいもの~side要~

#19

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それなのにどうした訳か、ムッとしてた筈の美菜は急に何か考え込んだように、俺に向いてた焦点も反らしてボーッとしてしまっている。

理性が飛んだとはいえ、ちょっと意地悪が過ぎてしまっただろうか?

それとも、こういうことに不馴れなせいで、オーバーヒートを起こしてしまったのか?

どうしたものかと、暫く思案していたものの、このままでもいられないから、

「美菜」

声をかければ、ようやく我に返った様子の美菜がホッとしたような表情で俺の方を見つめ返してくる。

けれども、暫く俺を見上げていた美菜が急に泣き出しそうな表情になったかと思えば、次の瞬間には、俺の胸へと抱きついてきた。

もしかしたら、意地悪が過ぎる俺に対して言いたいことがあっても、美菜のことだから、遠慮して、すべてを言うことができないのかもしれない。

それでもこうして、色んな感情をぶつけてくれることは、素直に嬉しいと思う。

これは、俺のそんな思いから出た言葉で、

「美菜は、子供みたいに無邪気に笑ったり泣いたり、怒ってみたり。そうかと思えば、ボーッとしてみたり、甘えたり。本当に忙しいな?」

さっきまで、あんな意地悪なことを言ってた俺のものとは思えないくらい、とびきり優しい声だった。

なのに、美菜から返ってきたものは、思いもつかなかったものだった。

「いっつも余裕のある大人な要さんと違って、どうせ、私は子供です! 要さんバッカリ余裕でズルい!」

そう言われても、俺は確かに美菜より年上ではあるが、それほど大人でもないし。

美菜を子供扱いしたとか、そんなつもりなんて、けほどもなかった。

実際、『子供』と言ってしまってる手前、今さら何を言っても、美菜には響かないのかもしれない。

……でも、それでもいい。

俺の正直な気持ちだけでも、美菜にはちゃんと伝えておきたい。

どんなにカッコ悪かろうが、情けなかろうが、どうだって構わない。

ただ、美菜には知っててほしい。

――俺にとって、美菜がどんなに大事な存在であるかを。

泣き続ける美菜のことをすっぽりと腕の中に包み込んで、優しく頭を撫でながら、結論にたどり着いた俺は、美菜のためにどこまでも必死な自分に自嘲しつつも口を開いた。

「『いっつも余裕のある大人な要さん』か……。美菜にそう見えてるなら、必死で頑張った甲斐があったな。……まさかそれを、自らバラさなきゃならないとはな……」

「……え?」

当然、美菜は、俺の言葉の示すものが分からない、といった風で、俺を見上げてきた美菜の頭上には、クエスチョンマークがいくつも飛び交っているように見える。

そんな泣き顔でポカン顔の可愛い美菜をやんわりと腕から解放し、正面から見下ろして、覚悟を決めた俺は大息をついた。

本音を言うと、美菜のためなら、一度か二度くらいならいいが、いくら美菜のためとはいえ、何度も言うのは勘弁してほしい。

なので、なるだけ落ち着いた優しい声で、俺に愛されてる自覚の足りない美菜に、一言一句言い聞かせるようにして言葉を紡ぎだした。

「こんなにも愛しいと思っている女性を、こんな風に組み敷いて、こんな状態で間近で見下ろして、余裕でいられる男がいると思うか?

男は、好きな女じゃなくても抱くことくらいはできるが、こんな風に、美菜にするように、優しい言葉をかけたり、大事にしたり、優しくしたりはしない。

他の男がどうかは知らないが、俺が触れてしまうのも怖いくらい大事にしたい、なんて思ったのは、美菜が初めてだ。

今夜だって、いよいよって思って美菜に触れようとしたとき、緊張して、震えそうになったぐらいだ。

そんな俺に余裕なんてある筈ないだろう?

さっきも、それくらい美菜のことが可愛くて、愛しくて堪らない、そう思ってるってことを言いたかったんだが……。

どうも俺は言葉が足りないらしい。

これからは、美菜にもちゃんと理解できるように、きちんと言うようにする。

それでも、不安になったりするようなことがあれば、なんでも言って欲しい。

さっきみたいになんでもぶつけてきて欲しい。

美菜には、ワガママを言うくらいになって欲しいと思ってる。

そう言っても、美菜はそんなこと言えないんだよな?

でも、これからは、美菜に頼ってもらえるように努めるつもりだ。

それより先に、美菜には、もっともっと俺のことを好きになってもらって、俺から一生離れられないようにするけどな」

俺は、なんとか言い終えたものの、恥ずかしさで、どうにかなってしまいそうだった。

今、美菜の顔なんて見ようもんなら赤面ものだ。それだけは勘弁願いたい。

カッコ悪いことも、情けないことも、全部さらけ出したんだ、せめて最後くらいはカッコつけさせてほしい、なんて、この期に及んで思ったりなんかして。

男なんて生き物は、本当にどうしようもない生き物だってことをつくづく思い知らされた。

さらけ出したことへの羞恥と、往生際の悪い自分に対しての苛立ちとがない交ぜになって追いかけてくるような、複雑な心境だ。

そんな俺は、なんとか美菜の視線から逃れたくて顔を背けると、頭をガシガシと掻きむしった。

そしてなけなしの平常心を取り繕って、少し茶化すように「他に質問は?」とだけボソッと呟くように言って。

いつものごとく、驚きすぎて放心した美菜がフルフルと首を振るのを、俺は視界の隅で捉えると、美菜のことを真正面から見下ろして。

自嘲気味にはにかんだ後、わざとらしく『余裕もない』ってことを強調し、もうお決まりになってしまったいつものセリフを口にするのだった。

「俺に、ここまで言わせたんだ。

さっきも言った通り、俺にはもう、"余裕もない"。だから中断はしない。覚悟しろ」

「……は、はい」

そんな俺の言葉を反芻でもして驚いているのか、顎が外れるんじゃないかというくらい驚いて。

それでも、ちゃんと受け入れてくれたことは、美菜の言葉でも明らかなように、さっきのような悲しそうな泣き顔じゃない美菜。

――そんな美菜に、どうしようもないくらいに愛しさが込み上げて。胸が熱くなる。

もう一秒たりとも離れていたくなくて、速くひとつに溶けあってしまいたくて。

いてもたってもいられなくなってしまった俺は、愛しい美菜の身体を抱き抱え、対面座位の体勢へともちこむと、美菜とこれでもかというくらい深く深く繋がりあった。
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