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◆番外編◆ かなわないもの~side要~
#2
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譲による診察も終わって、薬のお陰で穏やかに眠り続ける美菜の様子に、ようやく安心することができた俺は、ソファに凭れて仮眠をとっていた。
ふと眠りから覚めると、いつの間にか、もう窓の外は随分と暗くなっていて、少しと思っていた筈が結構な時間眠ってしまっていたようだ。
ハッとした俺がベッドの美菜の方へと意識を向けてみるが、まだ穏やかに眠っているようでホッとした。
いつから降り始めていたのだろうか、強い風で煽られた雨粒が窓ガラスに勢いよく打ち付けられていた。
その音の方に視線を向けていると、ベッドで眠る美菜が身動ぎするような気配を感じ、
「美菜」
気づけば、そう声をかけていたのだった。
そうしたら、俺の声に反応した美菜は、無意識だろうか、点滴のなされていない方の手を俺のいる方へとゆっくりと伸ばしてくる。
俺は、ベッドの上の美菜のすぐ傍まで行き覗き込むようにして、
「美菜、どうした?」
なるだけ優しく声をかけながら、身を屈めてみれば。
きっと、目覚めて、誰も居ないとでも思ったのだろう……。
俺が居たことにホッと安堵したのか、
「いつもの『よしよし』してくだしゃい」
泣きながら、まるで舌足らずな子供がお母さんにでも甘えているような、可愛らしい声で、そんな可愛らしいことを言ってくる。
そういえば、バー『charmチャーム』で偶然居合わせた時にも、こんなことがあったな。
まぁ、あの時は、美菜は酷く酔っていたから、同じ状況とは言えないかも知れないが。
酔った美菜は、俺の顔を見た途端、
「あー、副社長ー、行っちゃヤダッ!
私と一緒に居てくだしゃい!」
とかなんとか駄々っ子のように言いながら俺に抱きついてきたかと思えば、必死にしがみついてきて、少しも俺から離れようとしなかった様子が鮮明に甦ってくる。
美菜があんまり必死なものだったから、なんだか可哀想で、夏目が俺から美菜を無理矢理引き剥がそうとするのを俺がすぐに制したくらいだった。
今思えば、そんな子供みたいに真っ直ぐに感情をぶつけてくる美菜が健気で、何より新鮮で。
そういうモノを持ち合わせてない俺にとって、そんな風にできる美菜のことが羨ましかったのかも知れない。
だから俺は、そんな美菜に、知らず知らずのうちに、惹かれていたのかも知れない。
その証拠に、傍にいたショコラティエが美菜を案じる様子に、好意があるからだと察した俺は、少々高圧的な態度をとってしまってたような、そんな気がしないでもない。
それに、もしかしたら美菜だったら、美優のことを忘れさせてくれるんじゃないかって、予感めいた何かを感じたのかも知れない。
そのお陰で、美優のことを忘れた訳ではないが、こうして美菜のことを愛しいと想うことができて。
その時の俺の予感は見事的中し、今はもう手放すことなんてできそうにないほどだ。
弱った時に、こうやって頼って貰えることがこんなに嬉しく感じられるくらいに……。
素直に甘えてくる美菜に嬉しくなって、
「ひとりぼっちにされたと思ったのか?」
美菜がどんな反応をするかが見たくて、訊かなくても分かりきったことを言ってしまったのだが……。
そんな俺に、素直にコクンと頷く可愛い美菜の目尻の涙をソーッと優しく指で拭ってやると。
途端に、期待に満ちた瞳をまっすぐに向けてくる。
もうそれだけで俺の胸は簡単に撃ち抜かれてしまう。
――なんでも、叶えてやりたい。
なんてことを思ってしまう俺は、言われるままに、可愛い美菜のことをそうっと優しく抱き上げてしまっているのだった。
いつものように手で美菜の背中を優しくトントンしながら、
「美菜は熱を出すと赤ちゃん返りするんだな?」
気を良くした俺は、つい余計なことまで言ってしまうから困ったものだ。
美菜にも、
「赤ちゃんじゃないもん」
拗ねた声でそう言われてしまう始末だ。
それでも、トントンする手はそのままで、
「そんなにムキになって怒ると、また熱が上がるぞ?」
ついまた余計なことを言ってしまうのだけれど。
そんな俺に堪り兼ねた美菜が、
「だってぇ、赤ちゃんじゃないんだもん!」
ますますムキになって言ってくる。
「あぁ……そうだな?
どんな可愛い赤ちゃんでも美菜には敵わない。素直にこうやって甘えてくる美菜が可愛すぎて……。美菜には悪いが、熱なんて下がらなければいいのにって思ってるくらいだ」
なーんてことを相も変わらず言ってしまう俺に、とうとう美菜が呆れて黙り込んでしまうほど、俺は浮かれてしまっていた。
ふと眠りから覚めると、いつの間にか、もう窓の外は随分と暗くなっていて、少しと思っていた筈が結構な時間眠ってしまっていたようだ。
ハッとした俺がベッドの美菜の方へと意識を向けてみるが、まだ穏やかに眠っているようでホッとした。
いつから降り始めていたのだろうか、強い風で煽られた雨粒が窓ガラスに勢いよく打ち付けられていた。
その音の方に視線を向けていると、ベッドで眠る美菜が身動ぎするような気配を感じ、
「美菜」
気づけば、そう声をかけていたのだった。
そうしたら、俺の声に反応した美菜は、無意識だろうか、点滴のなされていない方の手を俺のいる方へとゆっくりと伸ばしてくる。
俺は、ベッドの上の美菜のすぐ傍まで行き覗き込むようにして、
「美菜、どうした?」
なるだけ優しく声をかけながら、身を屈めてみれば。
きっと、目覚めて、誰も居ないとでも思ったのだろう……。
俺が居たことにホッと安堵したのか、
「いつもの『よしよし』してくだしゃい」
泣きながら、まるで舌足らずな子供がお母さんにでも甘えているような、可愛らしい声で、そんな可愛らしいことを言ってくる。
そういえば、バー『charmチャーム』で偶然居合わせた時にも、こんなことがあったな。
まぁ、あの時は、美菜は酷く酔っていたから、同じ状況とは言えないかも知れないが。
酔った美菜は、俺の顔を見た途端、
「あー、副社長ー、行っちゃヤダッ!
私と一緒に居てくだしゃい!」
とかなんとか駄々っ子のように言いながら俺に抱きついてきたかと思えば、必死にしがみついてきて、少しも俺から離れようとしなかった様子が鮮明に甦ってくる。
美菜があんまり必死なものだったから、なんだか可哀想で、夏目が俺から美菜を無理矢理引き剥がそうとするのを俺がすぐに制したくらいだった。
今思えば、そんな子供みたいに真っ直ぐに感情をぶつけてくる美菜が健気で、何より新鮮で。
そういうモノを持ち合わせてない俺にとって、そんな風にできる美菜のことが羨ましかったのかも知れない。
だから俺は、そんな美菜に、知らず知らずのうちに、惹かれていたのかも知れない。
その証拠に、傍にいたショコラティエが美菜を案じる様子に、好意があるからだと察した俺は、少々高圧的な態度をとってしまってたような、そんな気がしないでもない。
それに、もしかしたら美菜だったら、美優のことを忘れさせてくれるんじゃないかって、予感めいた何かを感じたのかも知れない。
そのお陰で、美優のことを忘れた訳ではないが、こうして美菜のことを愛しいと想うことができて。
その時の俺の予感は見事的中し、今はもう手放すことなんてできそうにないほどだ。
弱った時に、こうやって頼って貰えることがこんなに嬉しく感じられるくらいに……。
素直に甘えてくる美菜に嬉しくなって、
「ひとりぼっちにされたと思ったのか?」
美菜がどんな反応をするかが見たくて、訊かなくても分かりきったことを言ってしまったのだが……。
そんな俺に、素直にコクンと頷く可愛い美菜の目尻の涙をソーッと優しく指で拭ってやると。
途端に、期待に満ちた瞳をまっすぐに向けてくる。
もうそれだけで俺の胸は簡単に撃ち抜かれてしまう。
――なんでも、叶えてやりたい。
なんてことを思ってしまう俺は、言われるままに、可愛い美菜のことをそうっと優しく抱き上げてしまっているのだった。
いつものように手で美菜の背中を優しくトントンしながら、
「美菜は熱を出すと赤ちゃん返りするんだな?」
気を良くした俺は、つい余計なことまで言ってしまうから困ったものだ。
美菜にも、
「赤ちゃんじゃないもん」
拗ねた声でそう言われてしまう始末だ。
それでも、トントンする手はそのままで、
「そんなにムキになって怒ると、また熱が上がるぞ?」
ついまた余計なことを言ってしまうのだけれど。
そんな俺に堪り兼ねた美菜が、
「だってぇ、赤ちゃんじゃないんだもん!」
ますますムキになって言ってくる。
「あぁ……そうだな?
どんな可愛い赤ちゃんでも美菜には敵わない。素直にこうやって甘えてくる美菜が可愛すぎて……。美菜には悪いが、熱なんて下がらなければいいのにって思ってるくらいだ」
なーんてことを相も変わらず言ってしまう俺に、とうとう美菜が呆れて黙り込んでしまうほど、俺は浮かれてしまっていた。
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