266 / 427
揺らめく心と核心~side要~
#2
しおりを挟む
というのも、来春オープン予定の新店舗のことで色々動かないといけなくなってしまったからだった。
来年開催予定のオリンピックに合わせての空港周辺の再開発が進む中、『YAMATO』もそれに加わることになっていたのだが……。
もうその準備も着々と進んでいて、あとは内装工事のみという段階になっているにも関わらず、今更になって、ベルギー王室御用達の誰もが知る高級チョコレートブランドを起用した方が話題作りになるという理由で、今回は出店を見送ってほしいという、耳を疑うような報せが入ったせいだ。
――こんなこと、後にも先にも聞いたことがない、前代未聞のとんでもない案件だ。そんなバカげたこと誰が言ってるんだ?
で、調べたところ、昔から西園寺社長に色々と世話になっているらしい、大物代議士で、次期総裁との噂もある鬼瓦《おにがわら》剣一郎《けんいちろう》、見るからに腹黒そうな古だぬきだった。
その名前を聞いてピンときた。絶対に西園寺静香が絡んでる。
真偽のほどは不明だが、恐らく、鬼瓦が恩義のある西園寺社長への忖度から企てた、静香との縁談を袖にした俺に対しての、質の悪い嫌がらせに違いない。
まぁ、その件に関しては、こっちも古くからの付き合いがあった現総裁や元総裁といった、あらゆる方面からのツテを駆使して、すぐに、そのすべてを無かったことにしてやったのだが……。
それからというもの、細かいことを上げればキリがないというくらい、様々な妨害に圧力、そういった類のものが次々に湧き上がってるっていう状況が続いていて。
そんな中で、俺の唯一の拠り所が、愛おしい美菜の存在だった。
仕事に行けば、ただでさえ忙しい日々の業務に加えて、西園寺静香がらみで日々奔走し、どんなに疲れ果てて帰っても。
どうにも愛おしくて愛おしくて堪らない美菜の、可愛いとびきりの笑顔に出迎えられれば、そんなものも、一瞬にしてどこかに吹き飛んでしまっているから不思議だ。
それに、俺のために苦手な料理を克服しようと、どうやらこっそり特訓をしてくれているらしい美菜。
そんなことしなくとも、以前から、面と向かって美味しいとは言えなかったし、口では地味だとか色々言ってはいたが、俺は美菜の作るものならなんだって嬉しかったし、本当にどれも美味しいと思っていた。
そんな俺の最近の楽しみは、愛おしい美菜が俺のためにと作ってくれた愛情たっぷりの料理を食べることと、食事の準備や後片づけをしてくれる美菜のことを手伝うことだったりする。
それには、実は理由があって、前々から、食事の準備や後片付けを楽しそうにしていた、夏目と美菜の姿に、少々嫉妬してしまってた大人げない俺は、いつか美菜と一緒にそうしたいと思っていたからだった。
そんなことを知る筈のない優しい美菜は、忙しい俺のことを案じて、手伝いなんてしなくていいと言ってくれるのだが……。
そういう美菜の気遣いは嬉しいが、本当のことを言ってしまうのが、少々気恥しい俺は、美菜のことを後ろから腕に閉じ込めながら、
「俺は美菜と少しでもこうしてくっついていたいのに、美菜は嫌なのか?」
「////」
耳元に顔を近づけ、少々意地の悪いことを、それでも、なるだけ甘い声で囁けば。
たちまち真っ赤になって黙り込んでしまうという、なんとも可愛すぎる反応を見せる美菜。
そんな、いつまで経っても、こういうことに不慣れな可愛い美菜に、俺はいつも癒してもらっていた。
こうして俺は、愛おしい美菜と、一足早い新婚生活のような甘い甘い夢のような幸せな日々を送っていたが……。
その一方で、連日のように、あの手この手で、様々な妨害や圧力をかけてくる西園寺静香の矛先が、俺から、いつか愛おしい美菜へ向くんじゃないかという、不安が付きまとうようになって。
夏目が探ってくれていたあのキス動画も、睨んだ通り、西園寺静香が絡んでいることが判明し。
仕事に関しては、『YAMATO』には代々引き継がれてきた経営理念と優れた技術と信頼関係も、磐石な基礎を築き上げてきた絶対的自信もあるし、俺には経営者として、それらを守り抜く自信だってある。
だから、どんな妨害があろうが、圧力がかかろうが、不安なんて微塵もない。
けれど、美菜のこととなると、何かあったらと考えただけで、俺は途端に不安になって、ずっと好きでいてもらえる自信もなくて、牙を抜かれた臆病者の野獣になりさがってしまう。
――それでも、どうしても、美菜だけは失いたくない。
愛おしい美菜を守るためにも、短期間とはいえ、西園寺静香と付き合っていたという、俺にとっては汚点でしかなかった忌々しい過去と対峙して、今度こそ決着をつける覚悟を決めたのだった。
それなのに、まさか、この件がきっかけで、美菜の気持ちが俺から離れてしまうなんて、この時の俺は夢にも思っていなかった。
来年開催予定のオリンピックに合わせての空港周辺の再開発が進む中、『YAMATO』もそれに加わることになっていたのだが……。
もうその準備も着々と進んでいて、あとは内装工事のみという段階になっているにも関わらず、今更になって、ベルギー王室御用達の誰もが知る高級チョコレートブランドを起用した方が話題作りになるという理由で、今回は出店を見送ってほしいという、耳を疑うような報せが入ったせいだ。
――こんなこと、後にも先にも聞いたことがない、前代未聞のとんでもない案件だ。そんなバカげたこと誰が言ってるんだ?
で、調べたところ、昔から西園寺社長に色々と世話になっているらしい、大物代議士で、次期総裁との噂もある鬼瓦《おにがわら》剣一郎《けんいちろう》、見るからに腹黒そうな古だぬきだった。
その名前を聞いてピンときた。絶対に西園寺静香が絡んでる。
真偽のほどは不明だが、恐らく、鬼瓦が恩義のある西園寺社長への忖度から企てた、静香との縁談を袖にした俺に対しての、質の悪い嫌がらせに違いない。
まぁ、その件に関しては、こっちも古くからの付き合いがあった現総裁や元総裁といった、あらゆる方面からのツテを駆使して、すぐに、そのすべてを無かったことにしてやったのだが……。
それからというもの、細かいことを上げればキリがないというくらい、様々な妨害に圧力、そういった類のものが次々に湧き上がってるっていう状況が続いていて。
そんな中で、俺の唯一の拠り所が、愛おしい美菜の存在だった。
仕事に行けば、ただでさえ忙しい日々の業務に加えて、西園寺静香がらみで日々奔走し、どんなに疲れ果てて帰っても。
どうにも愛おしくて愛おしくて堪らない美菜の、可愛いとびきりの笑顔に出迎えられれば、そんなものも、一瞬にしてどこかに吹き飛んでしまっているから不思議だ。
それに、俺のために苦手な料理を克服しようと、どうやらこっそり特訓をしてくれているらしい美菜。
そんなことしなくとも、以前から、面と向かって美味しいとは言えなかったし、口では地味だとか色々言ってはいたが、俺は美菜の作るものならなんだって嬉しかったし、本当にどれも美味しいと思っていた。
そんな俺の最近の楽しみは、愛おしい美菜が俺のためにと作ってくれた愛情たっぷりの料理を食べることと、食事の準備や後片づけをしてくれる美菜のことを手伝うことだったりする。
それには、実は理由があって、前々から、食事の準備や後片付けを楽しそうにしていた、夏目と美菜の姿に、少々嫉妬してしまってた大人げない俺は、いつか美菜と一緒にそうしたいと思っていたからだった。
そんなことを知る筈のない優しい美菜は、忙しい俺のことを案じて、手伝いなんてしなくていいと言ってくれるのだが……。
そういう美菜の気遣いは嬉しいが、本当のことを言ってしまうのが、少々気恥しい俺は、美菜のことを後ろから腕に閉じ込めながら、
「俺は美菜と少しでもこうしてくっついていたいのに、美菜は嫌なのか?」
「////」
耳元に顔を近づけ、少々意地の悪いことを、それでも、なるだけ甘い声で囁けば。
たちまち真っ赤になって黙り込んでしまうという、なんとも可愛すぎる反応を見せる美菜。
そんな、いつまで経っても、こういうことに不慣れな可愛い美菜に、俺はいつも癒してもらっていた。
こうして俺は、愛おしい美菜と、一足早い新婚生活のような甘い甘い夢のような幸せな日々を送っていたが……。
その一方で、連日のように、あの手この手で、様々な妨害や圧力をかけてくる西園寺静香の矛先が、俺から、いつか愛おしい美菜へ向くんじゃないかという、不安が付きまとうようになって。
夏目が探ってくれていたあのキス動画も、睨んだ通り、西園寺静香が絡んでいることが判明し。
仕事に関しては、『YAMATO』には代々引き継がれてきた経営理念と優れた技術と信頼関係も、磐石な基礎を築き上げてきた絶対的自信もあるし、俺には経営者として、それらを守り抜く自信だってある。
だから、どんな妨害があろうが、圧力がかかろうが、不安なんて微塵もない。
けれど、美菜のこととなると、何かあったらと考えただけで、俺は途端に不安になって、ずっと好きでいてもらえる自信もなくて、牙を抜かれた臆病者の野獣になりさがってしまう。
――それでも、どうしても、美菜だけは失いたくない。
愛おしい美菜を守るためにも、短期間とはいえ、西園寺静香と付き合っていたという、俺にとっては汚点でしかなかった忌々しい過去と対峙して、今度こそ決着をつける覚悟を決めたのだった。
それなのに、まさか、この件がきっかけで、美菜の気持ちが俺から離れてしまうなんて、この時の俺は夢にも思っていなかった。
0
お気に入りに追加
1,143
あなたにおすすめの小説
離婚した彼女は死ぬことにした
まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。
-----------------
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
-----------------
とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。
まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。
書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。
作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

10年ぶりに再会した幼馴染と、10年間一緒にいる幼馴染との青春ラブコメ
桜庭かなめ
恋愛
高校生の麻丘涼我には同い年の幼馴染の女の子が2人いる。1人は小学1年の5月末から涼我の隣の家に住み始め、約10年間ずっと一緒にいる穏やかで可愛らしい香川愛実。もう1人は幼稚園の年長組の1年間一緒にいて、卒園直後に引っ越してしまった明るく活発な桐山あおい。涼我は愛実ともあおいとも楽しい思い出をたくさん作ってきた。
あおいとの別れから10年。高校1年の春休みに、あおいが涼我の家の隣に引っ越してくる。涼我はあおいと10年ぶりの再会を果たす。あおいは昔の中性的な雰囲気から、清楚な美少女へと変わっていた。
3人で一緒に遊んだり、学校生活を送ったり、愛実とあおいが涼我のバイト先に来たり。春休みや新年度の日々を通じて、一度離れてしまったあおいとはもちろんのこと、ずっと一緒にいる愛実との距離も縮まっていく。
出会った早さか。それとも、一緒にいる長さか。両隣の家に住む幼馴染2人との温かくて甘いダブルヒロイン学園青春ラブコメディ!
※特別編4が完結しました!(2024.8.2)
※小説家になろう(N9714HQ)とカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録や感想をお待ちしております。


淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。

社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる