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揺らめく心と核心~前編~
#15
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すると、なんの反応も返してくれなかった要さんから、
「……悪いが、美菜。この話の続きは、帰ってからにしてくれないか?」
という、なんともいえない苦しげな声が返ってきて。
――話すのも嫌なんだ。副社長である要さんにとっては、迷惑でしかないんだ。
『はい』と、返事を返そうと思っても、迷惑をかけてしまった要さんに申し訳ないと思う気持ちと、喜んでもらえない悲しみとで、もうグチャグチャになってしまった私は、あとからあとから絶え間なく溢れくる涙を止めることもできずに、嗚咽を漏らし続けることしかできない。
そんな私を見かねてか、私の目線に合わせて、長身を屈めてきた要さんからは、
「全部、俺の招いたことなんだ。美菜は何も悪くない。だからそんなに泣くことはない。頼むから泣かないでくれ」
なんとか私を泣き止まそうと、とびきり優しい声音で、そんな言葉が掛けられたのだけれど……。
要さんの声が優しい声であればあるほど、余計に涙は止まらなくなってしまうのだった。
こうして、散々泣きじゃくった私は、いつの間にか、ベッドに腰を下ろしている要さんの腕の中に包まれていて。
要さんは、ようやく泣き止んだ私のことをいつものように、”よしよし”してくれているようだった。
それからどれくらい経っただろうか、泣き止んだ私が落ち着きを取り戻したころ、要さんが自分の腕から解放した私をベッドに座らせたかと思えば、何を思ったのか、いつぞやの王子様のように、正面の床に跪《ひざまず》いてしまわれた。
そして、どうしたんだろうと若干戸惑い気味の私の手を、そっと優しく両手で包み込むと、キラキラと眩いエフェクトを放ち始めた要さん。
けれど次の瞬間には、キラキラエフェクトが消え去り、どんよりと憂いに満ちた要さんからは、ビックリ発言が飛び出してくるのだった。
「そんなに美菜が思い詰めていたとは……。ずっと美菜の傍に居ながら気づいてやれなくて、悪かった。……俺のせいで色々嫌な目にもあったんだ。別れたくなったっていう美菜の気持ちも分からなくもない。
分からなくもないが……。子供まで授かったっていうのに……。それなのに、美菜と別れなきゃならないなんて……。そんなこと、いきなり言われても、俺にはショックが大きすぎて、今すぐどころか、時間を置いたとしても、受け入れることなんてできそうにない。いや、受け入れたくない。
自分勝手だって思われるかもしれないが、もう一度考え直してほしい」
――ええ!? 一体どういうこと!? 要さんの話がまったく理解できないんですけど……。
驚きのあまり、さっきまでの不安なんていっぺんに吹き飛んでしまった私の頭は、今度は違った意味で大混乱だ。
そんな頭でいくら考えたところで、こうなってしまった原因がさっぱり分からない。
そうこうしている間にも、要さんの話はどんどん突き進んでいく。
「今にして思えば、美菜とふたりで暮らすようになってからというもの、俺の仕事が忙しくなって、寂しい思いをさせてばかりだったもんな。
これからは、そんなことのないように、美菜との時間をもっと作るようにするし。俺の我儘なところが嫌だというなら、時間はかかってしまうかもしれないが、改められるよう努めるつもりだ。
美菜のことは勿論、子供のことだって、一生かけて大事にする。俺と結婚したことを絶対に後悔なんかさせないつもりだ。
だから頼む。俺と別れるなんて言わないでほしい」
ここへ駆けつけてきてくれた時同様、今までお目にかかったことのないくらい余裕のない必死な要さんは、私の正面の床に平伏すようにして、なんの躊躇いもなく頭《こうべ》を垂れてしまわれたのだった。
「……悪いが、美菜。この話の続きは、帰ってからにしてくれないか?」
という、なんともいえない苦しげな声が返ってきて。
――話すのも嫌なんだ。副社長である要さんにとっては、迷惑でしかないんだ。
『はい』と、返事を返そうと思っても、迷惑をかけてしまった要さんに申し訳ないと思う気持ちと、喜んでもらえない悲しみとで、もうグチャグチャになってしまった私は、あとからあとから絶え間なく溢れくる涙を止めることもできずに、嗚咽を漏らし続けることしかできない。
そんな私を見かねてか、私の目線に合わせて、長身を屈めてきた要さんからは、
「全部、俺の招いたことなんだ。美菜は何も悪くない。だからそんなに泣くことはない。頼むから泣かないでくれ」
なんとか私を泣き止まそうと、とびきり優しい声音で、そんな言葉が掛けられたのだけれど……。
要さんの声が優しい声であればあるほど、余計に涙は止まらなくなってしまうのだった。
こうして、散々泣きじゃくった私は、いつの間にか、ベッドに腰を下ろしている要さんの腕の中に包まれていて。
要さんは、ようやく泣き止んだ私のことをいつものように、”よしよし”してくれているようだった。
それからどれくらい経っただろうか、泣き止んだ私が落ち着きを取り戻したころ、要さんが自分の腕から解放した私をベッドに座らせたかと思えば、何を思ったのか、いつぞやの王子様のように、正面の床に跪《ひざまず》いてしまわれた。
そして、どうしたんだろうと若干戸惑い気味の私の手を、そっと優しく両手で包み込むと、キラキラと眩いエフェクトを放ち始めた要さん。
けれど次の瞬間には、キラキラエフェクトが消え去り、どんよりと憂いに満ちた要さんからは、ビックリ発言が飛び出してくるのだった。
「そんなに美菜が思い詰めていたとは……。ずっと美菜の傍に居ながら気づいてやれなくて、悪かった。……俺のせいで色々嫌な目にもあったんだ。別れたくなったっていう美菜の気持ちも分からなくもない。
分からなくもないが……。子供まで授かったっていうのに……。それなのに、美菜と別れなきゃならないなんて……。そんなこと、いきなり言われても、俺にはショックが大きすぎて、今すぐどころか、時間を置いたとしても、受け入れることなんてできそうにない。いや、受け入れたくない。
自分勝手だって思われるかもしれないが、もう一度考え直してほしい」
――ええ!? 一体どういうこと!? 要さんの話がまったく理解できないんですけど……。
驚きのあまり、さっきまでの不安なんていっぺんに吹き飛んでしまった私の頭は、今度は違った意味で大混乱だ。
そんな頭でいくら考えたところで、こうなってしまった原因がさっぱり分からない。
そうこうしている間にも、要さんの話はどんどん突き進んでいく。
「今にして思えば、美菜とふたりで暮らすようになってからというもの、俺の仕事が忙しくなって、寂しい思いをさせてばかりだったもんな。
これからは、そんなことのないように、美菜との時間をもっと作るようにするし。俺の我儘なところが嫌だというなら、時間はかかってしまうかもしれないが、改められるよう努めるつもりだ。
美菜のことは勿論、子供のことだって、一生かけて大事にする。俺と結婚したことを絶対に後悔なんかさせないつもりだ。
だから頼む。俺と別れるなんて言わないでほしい」
ここへ駆けつけてきてくれた時同様、今までお目にかかったことのないくらい余裕のない必死な要さんは、私の正面の床に平伏すようにして、なんの躊躇いもなく頭《こうべ》を垂れてしまわれたのだった。
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