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一難去ったその後で
#9
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要さんに掛けられた声で、頭をもたげたまま顔だけ上げると、何やら心配そうな表情をしている要さんの顔が待っていて。
私のことを見つめている瞳も、不安げにゆらゆらと揺らいでいるように見える。
――そうだった。さっき、要さんを悲しませるようなことはしたくないって思って、約束したんだった。
それなのに、いくら驚いてしまったとはいえ、こんなバスローブ姿で夏目さんの元に行こうとするなんて……。
きっと要さんは、さっきみたいに後先考えずに、感情で突っ走ってしまうような考えなしのおバカな私のことを、心配してるんだ。
……実際、その所為で木村先輩にキスされちゃったわけだし。
速く何とかして安心させてあげなくちゃ、そう思った私が、慌てて何かを言おうとする前に、
「ちょうどいい機会だから言っておく。さっき、俺以外の男と一定の距離をとってほしい……そう言ったのは、勿論、夏目のことも含めてだ」
相変わらず心配そうな表情をしているものの、要さんに有無を言わせないという口ぶりで、改めてそう言い渡されてしまい。
今まで本当のお兄さんのような身近な存在だった夏目さんが、急に遠い存在になってしまったようで、なんだか切ない気持ちになってくる。
きっと私のことだから、シュンとした表情をしてしまっていたのだろう……。
そこへすかさず、
「一定の距離をとれとは言っても、しゃべるなまでとは言ってないだろう? 今までとなんら変わらないんだ。それなのに、そんな泣きそうな顔をされたら、心配で堪らなくなる」
さっきと同じ頑なに、さらに畳みかけるようにして言ってきた要さんの声は、徐々に力強さを失って、仕舞いには、今にも消えてしまいそうなほど、不安げで頼りないものになってしまった。
心なしか、声も震えているように聞こえる。
かと思えば、後ろから胸に抱き寄せている私の身体を、尚もギューッと強い力で掻き抱くようにして包み込んだ要さん。
そして、私の首元に顔を埋めてくると、
「美菜が夏目に、兄のような感情しか持っていないということは分かってるんだ。分かってはいるんだが……、美優とのことがある所為か、どうしても、心配で堪らなくなる」
今まで私には名前を出したことのなかった美優さんの名前を初めて口にした要さん。
それはきっと、無意識なんだろうと思うけれど……。
だからこそ、名前を口にできるくらいには、要さんにとって、美優さんとのことがちゃんと過去になっているんだ、そう思ってしまった私は、こんな時に不謹慎にも、ほっとして、なんだか無性に嬉しくなってきた。
それだけじゃなく、私にとって夏目さんは、家族同然の存在でしかないから、そんなに心配する必要なんて皆無なのに、さっきからずっと心配してばかりなんだもん。
――それだけ、要さんが私のことを好きになってくれてるんだって思ったら、嬉しくて堪らないのだ。
要さんの心配をよそに、一人の世界にトリップして、幸福感に浸っていた私は、
「美菜!? どういうことだ!? ぼーっとして。……まさか、俺の話を聞いてなかったのか?」
「……え? や、ちゃんと聞いてましたよ。これからはちゃんと夏目さんとも距離をとって接しますから、心配ご無用ですっ! 安心して下さいっ!」
「だったら、どうしてそんなニヤケた顔なんかしてるんだ? 俺が心配するのがそんなに可笑しいのか? 俺の気も知らないで……。今日は俺が招いたことだったからお仕置きは免除しようと思っていたが、気が変わった。俺以外の男にキスを許した罰として、今夜もたーっぷりと可愛がってやるから覚悟しろ?」
結果的に、要さんのお仕置きを受けることとなってしまった私は、下界に広がる宝石並みの眩い輝きを放ち続ける都会の夜景をバックに。
ただならぬイロカを纏い妖艶な微笑を湛えて、ただならぬヤル気まで漲《みなぎ》らせてしまった要さんによって、窓際へと追い詰められ、呆気なく退路を断たれてしまった。
そして、窓まで追い詰められた私の背中に、無機質なガラスの冷たい感触を感じたと同時、私の顔の左右に手をついて挟み込むようにして目前まで迫ってくる要さん。
私のことを見つめている瞳も、不安げにゆらゆらと揺らいでいるように見える。
――そうだった。さっき、要さんを悲しませるようなことはしたくないって思って、約束したんだった。
それなのに、いくら驚いてしまったとはいえ、こんなバスローブ姿で夏目さんの元に行こうとするなんて……。
きっと要さんは、さっきみたいに後先考えずに、感情で突っ走ってしまうような考えなしのおバカな私のことを、心配してるんだ。
……実際、その所為で木村先輩にキスされちゃったわけだし。
速く何とかして安心させてあげなくちゃ、そう思った私が、慌てて何かを言おうとする前に、
「ちょうどいい機会だから言っておく。さっき、俺以外の男と一定の距離をとってほしい……そう言ったのは、勿論、夏目のことも含めてだ」
相変わらず心配そうな表情をしているものの、要さんに有無を言わせないという口ぶりで、改めてそう言い渡されてしまい。
今まで本当のお兄さんのような身近な存在だった夏目さんが、急に遠い存在になってしまったようで、なんだか切ない気持ちになってくる。
きっと私のことだから、シュンとした表情をしてしまっていたのだろう……。
そこへすかさず、
「一定の距離をとれとは言っても、しゃべるなまでとは言ってないだろう? 今までとなんら変わらないんだ。それなのに、そんな泣きそうな顔をされたら、心配で堪らなくなる」
さっきと同じ頑なに、さらに畳みかけるようにして言ってきた要さんの声は、徐々に力強さを失って、仕舞いには、今にも消えてしまいそうなほど、不安げで頼りないものになってしまった。
心なしか、声も震えているように聞こえる。
かと思えば、後ろから胸に抱き寄せている私の身体を、尚もギューッと強い力で掻き抱くようにして包み込んだ要さん。
そして、私の首元に顔を埋めてくると、
「美菜が夏目に、兄のような感情しか持っていないということは分かってるんだ。分かってはいるんだが……、美優とのことがある所為か、どうしても、心配で堪らなくなる」
今まで私には名前を出したことのなかった美優さんの名前を初めて口にした要さん。
それはきっと、無意識なんだろうと思うけれど……。
だからこそ、名前を口にできるくらいには、要さんにとって、美優さんとのことがちゃんと過去になっているんだ、そう思ってしまった私は、こんな時に不謹慎にも、ほっとして、なんだか無性に嬉しくなってきた。
それだけじゃなく、私にとって夏目さんは、家族同然の存在でしかないから、そんなに心配する必要なんて皆無なのに、さっきからずっと心配してばかりなんだもん。
――それだけ、要さんが私のことを好きになってくれてるんだって思ったら、嬉しくて堪らないのだ。
要さんの心配をよそに、一人の世界にトリップして、幸福感に浸っていた私は、
「美菜!? どういうことだ!? ぼーっとして。……まさか、俺の話を聞いてなかったのか?」
「……え? や、ちゃんと聞いてましたよ。これからはちゃんと夏目さんとも距離をとって接しますから、心配ご無用ですっ! 安心して下さいっ!」
「だったら、どうしてそんなニヤケた顔なんかしてるんだ? 俺が心配するのがそんなに可笑しいのか? 俺の気も知らないで……。今日は俺が招いたことだったからお仕置きは免除しようと思っていたが、気が変わった。俺以外の男にキスを許した罰として、今夜もたーっぷりと可愛がってやるから覚悟しろ?」
結果的に、要さんのお仕置きを受けることとなってしまった私は、下界に広がる宝石並みの眩い輝きを放ち続ける都会の夜景をバックに。
ただならぬイロカを纏い妖艶な微笑を湛えて、ただならぬヤル気まで漲《みなぎ》らせてしまった要さんによって、窓際へと追い詰められ、呆気なく退路を断たれてしまった。
そして、窓まで追い詰められた私の背中に、無機質なガラスの冷たい感触を感じたと同時、私の顔の左右に手をついて挟み込むようにして目前まで迫ってくる要さん。
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