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一難去ったその後で
#4
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夏目さんの容赦ない追及に対して、要さんはというと、以外にも落ち着き払っていて。
とてもじゃないけど、浮気の証拠を目の前に突き付けられて、追及されている人には見えない。
それどころか、要さんは尻もち状態から胡坐をかく体勢へと持ち込んで、逃げも隠れもしない、煮るなり焼くなりしろ、とでもいうようなご様子だ。
そして、夏目さんに突き付けられているスマートフォンを手で掴み、自分のほうへ引き寄せると、画面に映っているであろう例のキス動画をまじまじと見ながら、
「……あぁ、確かに。これはお前の言う通り、静香を送る途中でお前が社に戻って、五分ほど車から離れた時に撮られたものらしいな?」
そう言った要さんの言葉を、どうやら肯定だと早合点してしまったらしい夏目さん。
きっと、夏目さんの目には、要さんの態度が、開き直っているように映ってしまったのだろう……。
夏目さんは物凄い速さで、あっという間に要さんの胸倉を引っ掴み、自身の顔の傍へと引き寄せた。
そして、要さんの顔を鬼の如く形相で、距離を詰めた目前で睨み返しつつ、
「お前、本当に美菜ちゃんのことを裏切ってたのか?」
尚も掴んでいる要さんの胸倉を持ち上げるようにじりじりと引き寄せている。
要さんの返事次第では、殴ってしまいかねない、そんな緊迫した雰囲気が夏目さんのその様子からも表情からも、ひしひしと伝わってくようだ。
けれど、相変わらず落ち着き払ったご様子の要さんからは、焦りも狼狽える様子も何も感じられない。
――一体どうなっちゃうんだろう……。
息を呑んで見守っていることしかできないでいる私の耳に、要さんの揺るぎない声が流れ込んできた。
「俺は一度たりとも美菜のことを裏切ってなどいない。
確かに、この動画のように、不意打ちで静香にキスされそうにはなった。けど、そんなものは予測の範疇だったし、ちゃんと回避した。
これは多分、俺に迫ってきた静香の両肩を掴んで、『指一本触れるな、汚らわしい。お前の目的はなんだ!?』って問い詰めていた時に撮られたものだろうと思う。
けど、このアングルからだとキスしたと思われても仕方ないと思うが。神に誓って、俺は美菜のことを絶対に裏切ったりしてはいない」
――なんだ、そうだったんだ。やっぱりキスしてなかったんだ。良かった。
要さんの言葉を聞いてホッと安堵の息をついて、胸を撫で下ろした私の耳に、今度は、
「それ、本当なんだろうな?」
夏目さんが強い口調で念を押す声が届いて。
その声で夏目さんを窺い見れば、まだ切迫した緊張感が漂っているように見受けられる。
大丈夫かな、と見守り続ける私の視界の中で要さんが動くような気配がして。
すぐ、スマートフォンを夏目さんに返しながら、夏目さんの目をまっすぐに見据え、一度だけゆっくり頷いて見せると、即座に返事を返した要さん。
「あぁ、本当だ。夏目だって、おの日の俺の静香に対する態度見てたら分かるだろう?
あんな、男のことを自分を着飾るためのただの道具のようにしか思っていないような傲慢な女と、いくら本性を知らなかったとはいえ、短期間でも付き合ってたことを思い出すだけでも忌々しい。あんな過去は消し去ってしまいたいくらいだ。
西園寺社長の娘だし保さんの姪だから、致し方なく、表面上では普通に接してはいるが、あんな女とキスどころか、同じ空気を吸うのも御免だ」
要さんの表情は、まるで苦虫でも噛み潰したようなそんな表情を浮かべていて。
最後には、本当に忌々し気に顔を歪ませて、吐き捨てるようにして言い放った。
この前、隼さんに聞かされた話とは随分とニュアンスが違っているように聞こえる。
――やっぱり、あれは私のことを不安にさせるためのものだったんだ。
そう思うと、私の心の片隅でまだ燻っていた不安が徐々に晴れ渡ってゆく心地がした。
そんな私の耳には、
「……動画観て……俺はてっきり……。早合点して疑ったりして、本当に悪かった」
「いや、ちゃんと静香とのことを話してなかった俺が招いたことだ。俺こそ悪かった」
ようやく冷静さを取り戻したらしい夏目さんと、要さんの仲直りする声が流れ込んできて。
夏目さんは床に胡座をかく要さんに手を差しのべて、要さんは夏目さんのその手を取って立ち上がると、手早く汚れを手で払い、身なりを整え始めた。
夏目さんは、スマートフォンの画面を指で操作し首を僅かに傾げ、数秒間見つめた後、スーツの内ポケットにし舞い込んでいるようだ。
そこへ、
「それはそうと、その動画、誰が撮ったものだったんだ?」
身なりを整え終えた要さんの声が聞こえてきて。
夏目さんは、動画を手に入れた経緯について話し始めた。
私はさっきの動画を観ていた夏目さんの様子が若干気になったものの、夏目さんの話へと意識を集中させたのだった。
夏目さんの話によると……。
昼間、木村先輩に好きだと言われ、キスされたと話した時の私の様子が、妙に引っ掛かったらしい夏目さん。
夏目さんはここへ来る前、木村先輩に会って、キス動画のことを聞き出し、動画を手に入れたということだったらしい。
――さすが夏目さん、仕事が速い。
なんて感心しつつ、普段と変わらないふたりのやり取りに耳を傾けていたのだけれど。
ふたりからは、もう蟠《わだかま》りは微塵も感じられない。
――男同士の友情って、いいものだなぁ……。
ベッドの上でちょこんと正座し、そんなことを呑気に、考えに耽っていた私は、
「美菜、俺のせいで不安な思いをさせてしまい、悪かった」
そう言って謝ってきた要さんの腕に、いつの間にか優しく包み込まれてしまっていた。
とてもじゃないけど、浮気の証拠を目の前に突き付けられて、追及されている人には見えない。
それどころか、要さんは尻もち状態から胡坐をかく体勢へと持ち込んで、逃げも隠れもしない、煮るなり焼くなりしろ、とでもいうようなご様子だ。
そして、夏目さんに突き付けられているスマートフォンを手で掴み、自分のほうへ引き寄せると、画面に映っているであろう例のキス動画をまじまじと見ながら、
「……あぁ、確かに。これはお前の言う通り、静香を送る途中でお前が社に戻って、五分ほど車から離れた時に撮られたものらしいな?」
そう言った要さんの言葉を、どうやら肯定だと早合点してしまったらしい夏目さん。
きっと、夏目さんの目には、要さんの態度が、開き直っているように映ってしまったのだろう……。
夏目さんは物凄い速さで、あっという間に要さんの胸倉を引っ掴み、自身の顔の傍へと引き寄せた。
そして、要さんの顔を鬼の如く形相で、距離を詰めた目前で睨み返しつつ、
「お前、本当に美菜ちゃんのことを裏切ってたのか?」
尚も掴んでいる要さんの胸倉を持ち上げるようにじりじりと引き寄せている。
要さんの返事次第では、殴ってしまいかねない、そんな緊迫した雰囲気が夏目さんのその様子からも表情からも、ひしひしと伝わってくようだ。
けれど、相変わらず落ち着き払ったご様子の要さんからは、焦りも狼狽える様子も何も感じられない。
――一体どうなっちゃうんだろう……。
息を呑んで見守っていることしかできないでいる私の耳に、要さんの揺るぎない声が流れ込んできた。
「俺は一度たりとも美菜のことを裏切ってなどいない。
確かに、この動画のように、不意打ちで静香にキスされそうにはなった。けど、そんなものは予測の範疇だったし、ちゃんと回避した。
これは多分、俺に迫ってきた静香の両肩を掴んで、『指一本触れるな、汚らわしい。お前の目的はなんだ!?』って問い詰めていた時に撮られたものだろうと思う。
けど、このアングルからだとキスしたと思われても仕方ないと思うが。神に誓って、俺は美菜のことを絶対に裏切ったりしてはいない」
――なんだ、そうだったんだ。やっぱりキスしてなかったんだ。良かった。
要さんの言葉を聞いてホッと安堵の息をついて、胸を撫で下ろした私の耳に、今度は、
「それ、本当なんだろうな?」
夏目さんが強い口調で念を押す声が届いて。
その声で夏目さんを窺い見れば、まだ切迫した緊張感が漂っているように見受けられる。
大丈夫かな、と見守り続ける私の視界の中で要さんが動くような気配がして。
すぐ、スマートフォンを夏目さんに返しながら、夏目さんの目をまっすぐに見据え、一度だけゆっくり頷いて見せると、即座に返事を返した要さん。
「あぁ、本当だ。夏目だって、おの日の俺の静香に対する態度見てたら分かるだろう?
あんな、男のことを自分を着飾るためのただの道具のようにしか思っていないような傲慢な女と、いくら本性を知らなかったとはいえ、短期間でも付き合ってたことを思い出すだけでも忌々しい。あんな過去は消し去ってしまいたいくらいだ。
西園寺社長の娘だし保さんの姪だから、致し方なく、表面上では普通に接してはいるが、あんな女とキスどころか、同じ空気を吸うのも御免だ」
要さんの表情は、まるで苦虫でも噛み潰したようなそんな表情を浮かべていて。
最後には、本当に忌々し気に顔を歪ませて、吐き捨てるようにして言い放った。
この前、隼さんに聞かされた話とは随分とニュアンスが違っているように聞こえる。
――やっぱり、あれは私のことを不安にさせるためのものだったんだ。
そう思うと、私の心の片隅でまだ燻っていた不安が徐々に晴れ渡ってゆく心地がした。
そんな私の耳には、
「……動画観て……俺はてっきり……。早合点して疑ったりして、本当に悪かった」
「いや、ちゃんと静香とのことを話してなかった俺が招いたことだ。俺こそ悪かった」
ようやく冷静さを取り戻したらしい夏目さんと、要さんの仲直りする声が流れ込んできて。
夏目さんは床に胡座をかく要さんに手を差しのべて、要さんは夏目さんのその手を取って立ち上がると、手早く汚れを手で払い、身なりを整え始めた。
夏目さんは、スマートフォンの画面を指で操作し首を僅かに傾げ、数秒間見つめた後、スーツの内ポケットにし舞い込んでいるようだ。
そこへ、
「それはそうと、その動画、誰が撮ったものだったんだ?」
身なりを整え終えた要さんの声が聞こえてきて。
夏目さんは、動画を手に入れた経緯について話し始めた。
私はさっきの動画を観ていた夏目さんの様子が若干気になったものの、夏目さんの話へと意識を集中させたのだった。
夏目さんの話によると……。
昼間、木村先輩に好きだと言われ、キスされたと話した時の私の様子が、妙に引っ掛かったらしい夏目さん。
夏目さんはここへ来る前、木村先輩に会って、キス動画のことを聞き出し、動画を手に入れたということだったらしい。
――さすが夏目さん、仕事が速い。
なんて感心しつつ、普段と変わらないふたりのやり取りに耳を傾けていたのだけれど。
ふたりからは、もう蟠《わだかま》りは微塵も感じられない。
――男同士の友情って、いいものだなぁ……。
ベッドの上でちょこんと正座し、そんなことを呑気に、考えに耽っていた私は、
「美菜、俺のせいで不安な思いをさせてしまい、悪かった」
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