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縺れあう糸
#17
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まさか夏目さんがそんなことを言ってくるなんて思いもしなかった。
けどそのお陰で、当事者でもない私の言ったことが、どれ程出すぎたことだったか、思い知ることとなってしまったところで、私にはどうすればいいかが分からない。
――けど、夏目さんはそんなこと絶対しない。
そんなことを思いながら、ただ、夏目さんの動向を見つめたままじっとしていることしかできないでいる。
ゆっくりジリジリとにじり寄ってきた夏目さんの怖かった表情が、突然グニャリと苦し気に歪んだかと思えば。私の右肩に力なく額をもたげてきて、大きな溜息を吐き出したあと、
「……どうしてこうなっちゃうんだろうなぁ」
切な気な声で呟きを零した。
その声はとても小さくて、頼りないものだった。
夏目さんの零した呟きの意図も、行動の意図も思い量ることができず、「……え?」と、思わず口からそんな声が漏れていて。
そんな私の声も、夏目さんの耳には入っていないようで、再び独りごちるように呟きを零した夏目さんの声が聞こえてくるのだった。
「これも、美優のこと幸せにしてやれなかった、バチなんだろうなぁ……」
そこで、夏目さんの言葉が、夏目さん自身に対する言葉なんだと分かったところで、やっぱり私にはどうすることもできない。
そこへ、思い出したように、
「……あぁ、ごめん。そんなに心配しなくても、美菜ちゃんみたいなガキンチョなんかに慰めてもらうつもりなんてないから、安心してよ。ちょっとからかっただけだからさぁ」
いつも以上に、明るくて軽い口調で、そう言ってきた夏目さんは、私の身体から素早く退くと。
すぐ横のソファの背凭れに頭をもたげ、深く身体を沈めて、手脚をダラリと投げ出した。
私は解放されたものの、出すぎたことを言ってしまった、という罪悪感から、何も言えずにいる。
夏目さんは、そのまま、天を仰ぐような体勢で、
「俺さ、実は気になってる子が居るんだけど。その子、好きな男が居るみたいなんだよね。それで、美菜ちゃんのことが、その子とダブっちゃってさ……。どうかしてるよなぁ? 美菜ちゃんみたいなガキンチョにダブって見えちゃうなんてなぁ」
そこまで茶化すように言ってくると、夏目さんはゆっくり起き上がってきて、私の頭にポンと大きな手を乗せてきた。
「さっきは酷いこと言っちゃって、ごめん」
「……私こそ、出すぎたこと言っちゃって……ごめんなさい」
「美菜ちゃんが謝ることないだろ? 美菜ちゃんは俺のこと心配してくれただけなんだからさ。だから、そんな泣きそうな顔しないでよ? 俺、気になる子もできたし、もうちゃんと吹っ切れてるからさぁ」
「……」
「こーら、そんな顔してたら要が心配するだろ? あっ、分かった。腹へって元気が出ないんだろ? さっすがガキンチョ」
「ち、違いますっ!」
「どうだかなぁ?」
いつもの調子を取り戻したかのように見える夏目さんは、私の頭をポンポンと優しく撫でつつ、謝ってくると、同じように謝った私のことをからかいながらも優しく気遣ってくれている。
――けれど、何かがやっぱり喉の奥に引っ掛かったようで、釈然としないのはどうしてだろう……。
そんなことを思いながらも、夏目さんといつものようなやり取りを繰り広げていたら、リビングのドアが突然ガチャリと開け放たれて。
「美菜、さっきは悪かった」
ようやく目を覚ましたらしい要さんの登場で、私と夏目さんの話はここでお開きとなってしまった。
けどそのお陰で、当事者でもない私の言ったことが、どれ程出すぎたことだったか、思い知ることとなってしまったところで、私にはどうすればいいかが分からない。
――けど、夏目さんはそんなこと絶対しない。
そんなことを思いながら、ただ、夏目さんの動向を見つめたままじっとしていることしかできないでいる。
ゆっくりジリジリとにじり寄ってきた夏目さんの怖かった表情が、突然グニャリと苦し気に歪んだかと思えば。私の右肩に力なく額をもたげてきて、大きな溜息を吐き出したあと、
「……どうしてこうなっちゃうんだろうなぁ」
切な気な声で呟きを零した。
その声はとても小さくて、頼りないものだった。
夏目さんの零した呟きの意図も、行動の意図も思い量ることができず、「……え?」と、思わず口からそんな声が漏れていて。
そんな私の声も、夏目さんの耳には入っていないようで、再び独りごちるように呟きを零した夏目さんの声が聞こえてくるのだった。
「これも、美優のこと幸せにしてやれなかった、バチなんだろうなぁ……」
そこで、夏目さんの言葉が、夏目さん自身に対する言葉なんだと分かったところで、やっぱり私にはどうすることもできない。
そこへ、思い出したように、
「……あぁ、ごめん。そんなに心配しなくても、美菜ちゃんみたいなガキンチョなんかに慰めてもらうつもりなんてないから、安心してよ。ちょっとからかっただけだからさぁ」
いつも以上に、明るくて軽い口調で、そう言ってきた夏目さんは、私の身体から素早く退くと。
すぐ横のソファの背凭れに頭をもたげ、深く身体を沈めて、手脚をダラリと投げ出した。
私は解放されたものの、出すぎたことを言ってしまった、という罪悪感から、何も言えずにいる。
夏目さんは、そのまま、天を仰ぐような体勢で、
「俺さ、実は気になってる子が居るんだけど。その子、好きな男が居るみたいなんだよね。それで、美菜ちゃんのことが、その子とダブっちゃってさ……。どうかしてるよなぁ? 美菜ちゃんみたいなガキンチョにダブって見えちゃうなんてなぁ」
そこまで茶化すように言ってくると、夏目さんはゆっくり起き上がってきて、私の頭にポンと大きな手を乗せてきた。
「さっきは酷いこと言っちゃって、ごめん」
「……私こそ、出すぎたこと言っちゃって……ごめんなさい」
「美菜ちゃんが謝ることないだろ? 美菜ちゃんは俺のこと心配してくれただけなんだからさ。だから、そんな泣きそうな顔しないでよ? 俺、気になる子もできたし、もうちゃんと吹っ切れてるからさぁ」
「……」
「こーら、そんな顔してたら要が心配するだろ? あっ、分かった。腹へって元気が出ないんだろ? さっすがガキンチョ」
「ち、違いますっ!」
「どうだかなぁ?」
いつもの調子を取り戻したかのように見える夏目さんは、私の頭をポンポンと優しく撫でつつ、謝ってくると、同じように謝った私のことをからかいながらも優しく気遣ってくれている。
――けれど、何かがやっぱり喉の奥に引っ掛かったようで、釈然としないのはどうしてだろう……。
そんなことを思いながらも、夏目さんといつものようなやり取りを繰り広げていたら、リビングのドアが突然ガチャリと開け放たれて。
「美菜、さっきは悪かった」
ようやく目を覚ましたらしい要さんの登場で、私と夏目さんの話はここでお開きとなってしまった。
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