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縺れあう糸
#14
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――でも、それだけなら、要さんのことを裏切ったことにはならないと思うんだけどな。夏目さんは美優さんに気持ちを伝えることができなかったんだし……。そんなに自分を責めなくてもいいと思うんだけどな。
そんなことを思いながら、私が夏目さんの様子を見守ることしかできないでいると、また夏目さんの声が聞こえてきて。
今度は明るい口調で喋り始めた夏目さんの様子に、ホッとすると同時に、話すだけでも辛いことだと思うのに、そんなに気を遣わなくてもいいのにな、とも思ったり。
「それに、要には、美優の治療費や入院費のことでも助けてもらったんだよ。
うち、母子家庭で保険だけじゃ厳しくてさ。俺がその頃いた会社の規則破って、隠れてホストしたりしてたのがバレて、クビになったのもあって。
それを知った要が俺んとこ来てさ、『元カノのためじゃなく、友人として助けるんだから黙って受け取れ。返済は、俺の秘書として働くなら、給料から天引きにしてやる』って。要らしいだろ?」
――そんなことがあったんだ。それで、夏目さんが要さんの秘書として『YAMATO』で働くことになったんだ。本当に要さんらしい。
そう思いながら何気なく、「……そうですね」そう返した私に、「だろ?」と返してくれた夏目さんの表情が明るい笑顔からガラリと真顔に変わって。
「俺が要に、美優と同じぐらい大事に思ってるって言ったのは、そういう意味で言ったんだけど。本当は、それだけじゃないんだ。この事は、要にも言ってないんだけど……。美優が、要と付き合うことにしたのは、俺の親友だって知ったから、だったらしいんだ」
「……え?」
――それって、もしかして……
夏目さんの言葉で、浮かんできたある考えを、私が頭の中で言葉にするよりも先に、夏目さんがそれを口にする方が早かった。
「美優は、俺のことを諦めきれなくて、俺の親友である要と付き合うことで、俺の気持ちを確かめようとしたらしいんだ」
「……」
――やっぱり、そういうことだったんだ。それで、夏目さんは要さんに罪悪感があって、"裏切った"なんて言葉を使ってるんだ。
――でも、そうだったとしても、夏目さんの所為ではないと思うんだけど……。
だって、いくら血の繋がりがないとはいえ、さっき夏目さんが言ってたように、世間体や両親のこと、美優さんのことを思えば、夏目さんが容易く気持ちを伝えることができなかったのは、仕方ないことだったと思うし。
美優さんのやり方は間違ってるけど、きっと夏目さんの気持ちに気づいてのことだったんだろう。
要さんも、美優さんに好きな人が居ることを知ってたらしいし。
夏目さんの話を聞いて、色々考え込んでしまってた私が黙ったままでいると、夏目さんから再び自分を責めるような言葉が返ってきた。
「……けど、俺は俺で、そのことで美優のことを諦めようと思って、美優から余計距離を置くようになったんだ。だから、全部俺の招いたことなんだよ」
――でも、それも、仕方がなかったんじゃないかと思うんだけどな……。誰が悪いとかじゃなくて、ただそれぞれの気持ちが複雑に縺れてしまっただけのように思えてならない――。
そうは思っても、当事者でもない私が口を挟んでもいいものかと、思案している間にも、夏目さんの話は続いてゆく。
「俺が距離を置いたことで、美優が要のことも好きになって、余計ややこしくしちゃったんだよ。俺がちゃんと美優の気持ちに向き合ってさえいれば、そんなことにはならなかったのにさぁ。
だから美優や要への罪滅ぼしのためにもって言ったら聞こえはいいけど、結局は自分が楽になりたくて、兄貴ぶって、美優と別れてから自暴自棄になってたときも、亡くなってからも、要に、『美優は好きだったお前のことを思って別れることにしたんだから、しっかりしろ』なんて、偉そうなこと言ったりしてさ……。
そうやって、ずっと要のことを友人として兄として、支えてきたって訳。
だから"癒してやってたって"いうのは言葉のあやだよ。美菜ちゃんが心配するようなことは何もないから安心してほしい」
最後に、そう言ってきた夏目さんの言葉を聞き終えた私は、なんとも切ないやるせない気持ちになってきた。
――何か言わなきゃ、そう思うのに、思ってた以上に複雑に縺れてしまったそれぞれの気持ちを思うと、上手く言葉にできなくて……。ただただ夏目さんのことを見つめ続けることしかできないでいる。
そんな私に、正面の夏目さんから、
「美菜ちゃんに安心してほしくて話したのに、泣かれちゃったら俺、どうしていいか分かんないんだけど……」
苦笑混じりの声が聞こえてきて初めて、自分が泣いていることに気がついた。
そんなことを思いながら、私が夏目さんの様子を見守ることしかできないでいると、また夏目さんの声が聞こえてきて。
今度は明るい口調で喋り始めた夏目さんの様子に、ホッとすると同時に、話すだけでも辛いことだと思うのに、そんなに気を遣わなくてもいいのにな、とも思ったり。
「それに、要には、美優の治療費や入院費のことでも助けてもらったんだよ。
うち、母子家庭で保険だけじゃ厳しくてさ。俺がその頃いた会社の規則破って、隠れてホストしたりしてたのがバレて、クビになったのもあって。
それを知った要が俺んとこ来てさ、『元カノのためじゃなく、友人として助けるんだから黙って受け取れ。返済は、俺の秘書として働くなら、給料から天引きにしてやる』って。要らしいだろ?」
――そんなことがあったんだ。それで、夏目さんが要さんの秘書として『YAMATO』で働くことになったんだ。本当に要さんらしい。
そう思いながら何気なく、「……そうですね」そう返した私に、「だろ?」と返してくれた夏目さんの表情が明るい笑顔からガラリと真顔に変わって。
「俺が要に、美優と同じぐらい大事に思ってるって言ったのは、そういう意味で言ったんだけど。本当は、それだけじゃないんだ。この事は、要にも言ってないんだけど……。美優が、要と付き合うことにしたのは、俺の親友だって知ったから、だったらしいんだ」
「……え?」
――それって、もしかして……
夏目さんの言葉で、浮かんできたある考えを、私が頭の中で言葉にするよりも先に、夏目さんがそれを口にする方が早かった。
「美優は、俺のことを諦めきれなくて、俺の親友である要と付き合うことで、俺の気持ちを確かめようとしたらしいんだ」
「……」
――やっぱり、そういうことだったんだ。それで、夏目さんは要さんに罪悪感があって、"裏切った"なんて言葉を使ってるんだ。
――でも、そうだったとしても、夏目さんの所為ではないと思うんだけど……。
だって、いくら血の繋がりがないとはいえ、さっき夏目さんが言ってたように、世間体や両親のこと、美優さんのことを思えば、夏目さんが容易く気持ちを伝えることができなかったのは、仕方ないことだったと思うし。
美優さんのやり方は間違ってるけど、きっと夏目さんの気持ちに気づいてのことだったんだろう。
要さんも、美優さんに好きな人が居ることを知ってたらしいし。
夏目さんの話を聞いて、色々考え込んでしまってた私が黙ったままでいると、夏目さんから再び自分を責めるような言葉が返ってきた。
「……けど、俺は俺で、そのことで美優のことを諦めようと思って、美優から余計距離を置くようになったんだ。だから、全部俺の招いたことなんだよ」
――でも、それも、仕方がなかったんじゃないかと思うんだけどな……。誰が悪いとかじゃなくて、ただそれぞれの気持ちが複雑に縺れてしまっただけのように思えてならない――。
そうは思っても、当事者でもない私が口を挟んでもいいものかと、思案している間にも、夏目さんの話は続いてゆく。
「俺が距離を置いたことで、美優が要のことも好きになって、余計ややこしくしちゃったんだよ。俺がちゃんと美優の気持ちに向き合ってさえいれば、そんなことにはならなかったのにさぁ。
だから美優や要への罪滅ぼしのためにもって言ったら聞こえはいいけど、結局は自分が楽になりたくて、兄貴ぶって、美優と別れてから自暴自棄になってたときも、亡くなってからも、要に、『美優は好きだったお前のことを思って別れることにしたんだから、しっかりしろ』なんて、偉そうなこと言ったりしてさ……。
そうやって、ずっと要のことを友人として兄として、支えてきたって訳。
だから"癒してやってたって"いうのは言葉のあやだよ。美菜ちゃんが心配するようなことは何もないから安心してほしい」
最後に、そう言ってきた夏目さんの言葉を聞き終えた私は、なんとも切ないやるせない気持ちになってきた。
――何か言わなきゃ、そう思うのに、思ってた以上に複雑に縺れてしまったそれぞれの気持ちを思うと、上手く言葉にできなくて……。ただただ夏目さんのことを見つめ続けることしかできないでいる。
そんな私に、正面の夏目さんから、
「美菜ちゃんに安心してほしくて話したのに、泣かれちゃったら俺、どうしていいか分かんないんだけど……」
苦笑混じりの声が聞こえてきて初めて、自分が泣いていることに気がついた。
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