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縺れあう糸

#10

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それでも、要さんにしてみれば、ついさっきまで聞く耳を持とうともしなかった私が、まさかそんなにあっさりと、要さんのことを許すとは思えないのだろう……。
 
「……美菜!? 本当に、許してくれるのか?」
 
急に、強く抱きついた私の言葉にも、半信半疑って口調で、恐る恐る訊き返してくる要さん。
 
抱きついている私の身体にも、触れていいものかと躊躇っているのか、私にされるがままで、自分からは指一本触れようともしない。 

――そんな、どこまでもらしくない要さんのことが、どうしようもなく愛おしい。
 
だって、それだけ、私に嫌われちゃうことが怖いっていうことなんだと思ったら、嬉しくて堪らないんだもん。
 
なんて、不謹慎なことを思ってしまう私は、例えどんなことがあっても、要さんのことを嫌いになんてなれないんだろうと思う。
 
見かけは、"眉目秀麗"って言葉がしっくりくる、まるで王子様のようにとても素敵で、隙どころか、どこにも欠点なんてないように見える要さん。

初めて逢ったときは、副社長だし、傍若無人な振る舞いの所為で威圧感も半端なくて、近寄りがたくて。私にとっては雲の上の存在のような人だった。

けど、そんな要さんにも、『ED』という悩みがあったり、『要』という名前にコンプレックスがあったり。
 
他にも、少々我が儘な子供っぽいことろがあったり、臆病だったり、心配性だったり、寂しがり屋だったり……。
 
――私は、要さんのそういう、見かけや長所だけじゃなくて、欠点や弱い部分もひっくるめて、全部が大好きなんだもん。要さん以外の人なんて眼中にないのに。
 
……だから、夏目さんや木村先輩にまで、嫉妬なんかする必要もないし。どこにでも居るような平々凡々で、どこまでも平均的な私に、モテる要素なんてどこにもないのに……。

いくら私がそう言っても、心配性の要さんの心配は尽きないんだろうな?
 
私がこうやって色々考えている間にも、心配性の要さんのことだから、一体どうしたものかと案じているかもしれない。
 
まだまだ半信半疑なのだろう要さんの様子を窺うべく、ゆっくり要さんの身体から離れて、要さんの顔を見上げると。私の視界には、案の定心配そうな表情の要さんの姿が映し出された。
 
なんとか要さんのことを安心させてあげようと、まだまだ半信半疑って感じで、私の様子を不安げに見つめ続ける要さんに向けて、なるだけ明るい声で、

「許すもなにも、要さんは私のことを心配して嫉妬してたんだし。それに、私だって、要さんに嘘ついてたんだから、おあいこです。仲直り、してくれますか?」
 
少しだけ首を傾げた私は、最後にニッコリと微笑んで見せた。
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