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縺れあう糸
#7
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どうやら要さんは、私がそんなことを言うとは夢にも思ってはいなかったようで。
要さんから言葉が返ってきたのは、私の零してしまった本音を聞いた要さんの身体が、すべての動きを止めて、数秒ほど経ってからのことだった。
「……美菜!?何を言ってるんだ!?」
要さんの酷く驚いているような声がして。それに続いて、今度は……。
「好きに決まってるだろ?じゃないと、あんなふうに嫉妬したりするわけがないだろう?」
ドアに背を預けしゃがみこんだままでいる私の身体を、正面から優しく包み込むようにして、腕に閉じ込めている要さんは、その腕の力をぎゅうと強めながら、私を諭すようにして優しく声をかけてくれている。
でも、要さんの言葉は、私の耳を右から左へ素通りしていくだけだ。
「邪魔して悪いんだけど。乗りかかった船ってことで、ちょっと言わせてほしいんだけど?」
そこに、さっき要さんのことを押さえつけていた壁に凭れて、様子を見守ってくれてたらしい夏目さんの声がして。
「……まだ居たのか。なんだ?」
途端に、憮然とした声を放ったものの、さっきのことがあるからか、夏目さんに先を促す言葉を返した要さん。
要さんの声を聞いた夏目さんは、ふう、と大きな溜め息を吐いて、「まったくお前は、美菜ちゃんのこととなると、やること全部裏目に出るんだよなぁ。それにそーとう拗らせてるみたいだし」と、独りごちてから話し始めた。
「いくら嫉妬してたとはいえ、さっきの要の態度はないよな? 美菜ちゃん、この際だからさ。さっきみたいに、要に言いたいこと全部ぶつけて、スッキリしちゃいな?
要は、美菜ちゃんの言うことにちゃんと答えてあげて、美菜ちゃんのことを安心させてあげなきゃダメだからなっ! おい、要、分かってるだろうな?」
私に対しては、終始いつものお兄さんのような優しい声で。
一方の要さんに対しては、終始どこまでも厳しいトーンの低い声で。
「……あぁ、分かってる」
要さんの返事を聞き届けた夏目さんは、「じゃぁ、邪魔者は退散するわ」と、いつものちょっと軽い口調で言うと。今度こそあっけなく、手をヒラヒラさせながらリビングの方へと消え去ってしまったのだった。
夏目さんが居なくなったことで、急に静寂に包まれた要さんと二人きりのこの空間が、たちまち重苦しい気まずいものになった気がしてくる。
本来ならば、要さんと一緒に過ごす二人きりの時間は、とびきり幸せな癒しの一時だった筈なのに……。
こんな風に思ってしまう日が来るなんて思いもしなかった、なんてことをボンヤリと思っていたら、要さんの声が聞こえてきた。
「美菜、嫉妬してたとはいえ、乱暴なことして本当に悪かった。ごめん。さっきも言ったが、俺は嫉妬して我を忘れてしまうくらい、美菜のことが好きだ」
けれど、まだ放心してしまってるせいか、今の私の心には、要さんの言葉は少しも響いちゃこない。
それどころか、要さんに対する疑念しか浮かんじゃこない。
――本当に好きなら、信じてくれるんじゃないの?あんな風に怒って怖がらせるようなこと、しないんじゃないの?と……。
どうしても、そう思ってしまう私の口からは、躊躇いながらも、
「……嘘つき」
要さんの言葉に対して否定するような言葉がひとたび零れてしまえば。
「――美菜?!違う!嘘じゃないっ!」
酷く焦った様子の要さんの声なんて跳ね返す勢いで。まるで堰を切ったかのように、もう止まらなくなっていた。
「だったら、どうして信用してくれないの?昨日色々あったから一人になりたくて出掛けて、木村先輩と偶然会って、会社で試食して、結婚のお祝いに夕飯ご馳走してもらってただけなのに。
それなのに、話も聞いてくれなかったし。
どうせ、奨学金のために契約交わすような私のことなんて信用できない、そう思ってるんでしょっ!」
要さんから言葉が返ってきたのは、私の零してしまった本音を聞いた要さんの身体が、すべての動きを止めて、数秒ほど経ってからのことだった。
「……美菜!?何を言ってるんだ!?」
要さんの酷く驚いているような声がして。それに続いて、今度は……。
「好きに決まってるだろ?じゃないと、あんなふうに嫉妬したりするわけがないだろう?」
ドアに背を預けしゃがみこんだままでいる私の身体を、正面から優しく包み込むようにして、腕に閉じ込めている要さんは、その腕の力をぎゅうと強めながら、私を諭すようにして優しく声をかけてくれている。
でも、要さんの言葉は、私の耳を右から左へ素通りしていくだけだ。
「邪魔して悪いんだけど。乗りかかった船ってことで、ちょっと言わせてほしいんだけど?」
そこに、さっき要さんのことを押さえつけていた壁に凭れて、様子を見守ってくれてたらしい夏目さんの声がして。
「……まだ居たのか。なんだ?」
途端に、憮然とした声を放ったものの、さっきのことがあるからか、夏目さんに先を促す言葉を返した要さん。
要さんの声を聞いた夏目さんは、ふう、と大きな溜め息を吐いて、「まったくお前は、美菜ちゃんのこととなると、やること全部裏目に出るんだよなぁ。それにそーとう拗らせてるみたいだし」と、独りごちてから話し始めた。
「いくら嫉妬してたとはいえ、さっきの要の態度はないよな? 美菜ちゃん、この際だからさ。さっきみたいに、要に言いたいこと全部ぶつけて、スッキリしちゃいな?
要は、美菜ちゃんの言うことにちゃんと答えてあげて、美菜ちゃんのことを安心させてあげなきゃダメだからなっ! おい、要、分かってるだろうな?」
私に対しては、終始いつものお兄さんのような優しい声で。
一方の要さんに対しては、終始どこまでも厳しいトーンの低い声で。
「……あぁ、分かってる」
要さんの返事を聞き届けた夏目さんは、「じゃぁ、邪魔者は退散するわ」と、いつものちょっと軽い口調で言うと。今度こそあっけなく、手をヒラヒラさせながらリビングの方へと消え去ってしまったのだった。
夏目さんが居なくなったことで、急に静寂に包まれた要さんと二人きりのこの空間が、たちまち重苦しい気まずいものになった気がしてくる。
本来ならば、要さんと一緒に過ごす二人きりの時間は、とびきり幸せな癒しの一時だった筈なのに……。
こんな風に思ってしまう日が来るなんて思いもしなかった、なんてことをボンヤリと思っていたら、要さんの声が聞こえてきた。
「美菜、嫉妬してたとはいえ、乱暴なことして本当に悪かった。ごめん。さっきも言ったが、俺は嫉妬して我を忘れてしまうくらい、美菜のことが好きだ」
けれど、まだ放心してしまってるせいか、今の私の心には、要さんの言葉は少しも響いちゃこない。
それどころか、要さんに対する疑念しか浮かんじゃこない。
――本当に好きなら、信じてくれるんじゃないの?あんな風に怒って怖がらせるようなこと、しないんじゃないの?と……。
どうしても、そう思ってしまう私の口からは、躊躇いながらも、
「……嘘つき」
要さんの言葉に対して否定するような言葉がひとたび零れてしまえば。
「――美菜?!違う!嘘じゃないっ!」
酷く焦った様子の要さんの声なんて跳ね返す勢いで。まるで堰を切ったかのように、もう止まらなくなっていた。
「だったら、どうして信用してくれないの?昨日色々あったから一人になりたくて出掛けて、木村先輩と偶然会って、会社で試食して、結婚のお祝いに夕飯ご馳走してもらってただけなのに。
それなのに、話も聞いてくれなかったし。
どうせ、奨学金のために契約交わすような私のことなんて信用できない、そう思ってるんでしょっ!」
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