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深まる疑惑
#22
しおりを挟む要さんのことが心配だった私がその音を聞くや否や、キッチンからリビングの壁に設置されたインターフォンまで一目散に駆け寄るのを、夏目さんに、
「そんなに慌てると転んじゃうぞ~」と茶化されて。
「子供じゃないんですから転びません!」
ムッとして返しつつ、インターフォンの通話・モニターのスイッチを押した私の耳に流れ込んできたのは、
『隼です。静香さんと一緒に兄をお連れしました』という隼さんの声で。
その声と同時に、モニター画面に映し出された隼さんと静香さんに支えられた要さんの姿を目にした私は、まるで両脚をその場に縫い付けられでもしたかのように動けない。
数時間前に、隼さんから聞かされた、要さんと静香さんとのことが、頭の中で、走馬灯のように目まぐるしく駆け巡って、そのことだけで埋め尽くされていく。
さっきは夏目さんに、要さんのことを信じたい、なんて言ってたクセに、静香さんと一緒に画面に映る要さんの姿を目にしただけで、不安に押し潰されてしまいそうだ。
そんな私に、夏目さんは、
「美菜ちゃん、大丈夫だよ。ここは俺に任せて」
そう声をかけてくれた後。
呆然と突っ立ったまんまでモニターに釘付け状態の私の頭を、ポンポンと優しく撫でると、モニターの隼さんへと、
「それはどうもワザワザありがとうございます。どうぞ、お入りください」
すかしたインテリ銀縁メガネ仕様のあのツーンとした声で言い渡した夏目さん。
そんな夏目さんの声を聞きながら、相も変わらずモニター画面に釘付け状態の私は、やっぱり動けずに居る。
夏目さんは、インターフォンから聞こえてくる隼さんの返事には完全無視で、私の肩を掴むと、そのまま身体をクルリと自分の正面に向かい合わせるようにして反転させて、
「美菜ちゃん。心配しなくても、部屋の中には通したりしないから大丈夫だよ。隼くんや静香さんに会うのは嫌だろうから、美菜ちゃんはここに居てくれていいから。ね?」
インターフォン越しに隼さんへ放った声とは比べ物にならないくらいの優しい声と、穏やかな笑顔で、不安な気持ちを隠せずに居る私のことを、気遣ってくれてすぐ、
「じゃっ、行ってくる」
私のことを安心させようとしてか、ニッと悪戯っ子のような無邪気な笑顔を残して、部屋の玄関ホールへ向かって歩き始めた夏目さん。
夏目さんのお陰で、なんとか不安に打ち勝つことができた私が、
「だ、大丈夫ですっ!私も一緒に行きます!」
そう言って夏目さんの背中を小走りで追いかければ……。
私の言動に驚いたのか、ピタリと歩みを止めて、後方に振り返ってきた夏目さんの姿が、まるでスローモーションのように私の視界いっぱいに飛び込んできた。
けれど、まだ距離もそんなに離れてはいなかったため、私はそんな夏目さんの行動に対応しきれずに、振り返った体勢の夏目さんの胸へと飛び込む格好でダイブしてしまっていて。
気づいたときには、夏目さんにシッカリと抱きとめられた腕の中だった。
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