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予期せぬ出来事とほころび
#20
しおりを挟むお祖母ちゃんに知らない間に心配をかけてしまってたことにもショックだったし、『大事な人を頼ってください』と急に言われても、一体どうすればいいかもよく分かんないし。
だいたい要さんには、これまでだって奨学金に始まり生活費だってそうだし、私の入院費だって全部出してもらったし、色々お世話になってしまってるというのに。
だからこれ以上甘える訳にはいかないって、これ以上迷惑かけちゃいけないって……。
それなのに、そういうことを知らずに書いたお祖母ちゃんの手紙通りに、要さんに頼ってしまって、迷惑だとか、煩わしいとか、そんな風に思われてしまうのがメチャクチャ怖い。
だから、この数日、ずっと泣くのを我慢していたっていうのに……。
……というように。
お祖母ちゃんの手紙を読んで、ただでさえカルチャーショック並みに衝撃をくらって、パニクってしまってるというのに……。
「……ど、どういう……意味、ですか?」
まるで私が泣くのを待っていたような要さんの言葉が妙に引っ掛かって、私が泣きじゃくりながらも要さんの胸から泣き顔を上げて、要さんの正面から対峙し問いかけてみるも。
当の要さんは、
「いや、なんでもないから気にするな。そんなことより今は泣くことに集中しろ。ほら」
なんて、どこか嬉しそうな声音で、はぐらかすように(それらはあくまで私の見解だけれど)、そんなことを言ってきたかと思えば。
今度は、私の後頭部に手を添えて、そのまま私の泣き顔を元通り自身の胸へと優しく押し戻してしまった。
そして何もなかったかのように、要さんはさっきまでと同じように、私の背中を優しくトントンしてくれている。
『今は泣くことに集中しろ』と要さんが言った通り、どうやら私が泣くのを待っていたというのは、私の勘違いではなかったようだ。
そればかりか、私のことをまだまだ泣かせる気満々なようだし。
――そうはいくかと抗《あらが》いたいのはやまやまなのだけれど……。
要さんの暖かな胸に抱かれながら、要さんに背中を優しくトントンされるたびに、それがまるで"呼び水"となって、余計に涙が溢れてきてしまうから堪らない。
いつもは、とっても安心できる大好きな場所だけど、いまはそれら全てが恨めしい。
お祖母ちゃんの手紙を読んで泣いてしまったものの、速くなんとかして涙を止めてしまいたいというのに……。
――これじゃ一向に涙は止まってくれそうにない。
堪りかねた私が泣きじゃくりながら、
「……もう、やめてくださいっ!そんな風に優しくされたら涙が止まんないじゃないですかっ!」
そう抗議するも……。
「泣きたいだけ泣けばいい。辛いのに無理して笑っていられるより、こうやって泣いてくれた方がよっぽどいい。だからやめない」
迷惑がるどころか、当たり前のようにそう言ってきた要さんの揺るぎない声に、一瞬、怯みそうになったものの。
『辛いのに無理して笑っていられるより、こうやって泣いてくれた方がよっぽどいい』というのがお祖母ちゃんの手紙とダブってしまい。
「……お祖母ちゃんも、要さんも、どうしてそんなこと言うの?ーー」
泣いて興奮してしまってる私は、今さら引くに引けなくなって、お祖母ちゃんの手紙に書かれていたことから、自分が一体どうすればいいか分からずにパニックに陥ってしまっていること。
それから今まで色々お世話になってしまってる要さんにこれ以上頼って、煩わしいとか迷惑だとか思われるのが怖いことなど。
それら全てを吐き出してしまっていて。
「ーーもう、どうしたらいいか分かんない……」
勢いに任せて、全てを吐き出してしまった私が、要さんの胸でふにゃりと力尽きるようにしなだれて、最後にぼそりと零した途端。
終止私の言葉に黙って静かに耳を傾けてくれていた要さんは、しなだれた私の身体をぎゅっと自分の胸へ掻き抱くように引き寄せると……。
「……そうか、分かった。ちゃんと言ってくれて、ありがとな、美菜」
そう言って受け止めてくれた要さんからは、私の放った言葉のひとつひとつに応えるようにして、安定の揺るぎない声音が放たれた。
「今は冷静になれないだけで、美菜の方がよく分かってるだろうが、親代わりのお祖母さんが孫である美菜を心配するのは当然のことだと思うから気にしなくていいし。
俺は美菜のそういう"素直で心根の優しいところ"に惹かれたんだから、美菜は今まで通りで居てくれればいい。
それに、頼られて嬉しく思うことはあっても、迷惑だとか煩わしいなんて思うことは断じてないから安心してほしい。
美菜にそう思わせてしまったのは心外だが、そう思われないように努めて、これからは俺が美菜のことをちゃんと支えていく。
勿論、結婚してからも夫としてずっと美菜のことを傍で支えていくから、美菜は俺と幸せになることだけを考えていてほしい」
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