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予期せぬ出来事とほころび
#19
しおりを挟む出だしには、
【早いもので、美菜が上京してもうすぐ半年が経とうとしています。そちらの暮らしにも慣れた頃でしょうが、新聞やテレビで物騒な事件を見聞きするたびに心配で堪りません。くれぐれも戸締りや食事には気をつけてほしいものです。】
そう書かれていて。
……お祖母ちゃんらしい文面だなぁ。
私が上京してまだ間のない頃、東京で物騒な事件が起こった時には必ず、お祖母ちゃんから電話がかかってきて。
戸締りや食事のことを耳にタコができるほど注意されてたことを思い出して、クスッと吹き出してしまった。
次に書かれていたのは、物忘れが酷くなり、病院で『認知症』だと言われ、まだ症状が酷くなる前に、私に手紙を書いておこうと思った経緯が綴られていて。
両親の生命保険のことから、家や土地の管理をお願いしている知り合いの行政書士の方のこと等が、名刺も添えて、事細かに書かれてもいた。
どうやら、上京した私がそのまま東京で結婚することになっても困らないように、お墓もお寺に頼んでくれていて、土地もすぐに売ることができるようにしてくれているらしい。
そこまで読んだ私の涙腺は決壊寸前だったけれど、一度泣いてしまったら、きっともう止めることなんてできない。
……そんなことになったら、この数日なんとか泣かないように我慢してたことが無駄になってしまうし。
……ただでさえ色々お世話になってしまってるというのに、要さんにもっと迷惑をかけてしまうことになる。
そうは思っていても……。
【一人っ子の美菜が将来困らないように、私も娘夫婦も『他人《ひと》に迷惑をかけてはいけないとか、あまり他人に頼らず、自分のことは自分でちゃんとしないといけないとか』、少し厳しく言い過ぎたかもしれません。
娘夫婦が亡くなって、私に心配かけまいと、私の前で元気に明るく振る舞う美菜を見ていて、よくそう思ったものです。自分のことよりも私のことばかり心配して気にかけてくれる素直で心根の優しい美菜のことが誇りでもあり、心配でもありました。
だから美菜にお祖母ちゃんからお願いがあります。
近い将来、美菜に大事な人ができて、悲しいことや辛いことがあった時、困った時には、どうかその人を頼ってください。決して迷惑をかけたくないなどと思わないでください。
心配しなくても、美菜のことを大事にしてくれる人なら、決して迷惑だなんて思わない筈です。
そう記したものの、三つ子の魂百までというように、急に変われるものではないのかもしれませんが、お祖母ちゃんの遺言だと思って、心のどこかにとどめておいてください。
それともう一つ、主治医の話だと、これから先『認知症』の症状が進めば、いずれ美菜のことも分からなくなってしまうそうです。それでもお祖母ちゃんはいつでも美菜の味方です。いつも美菜の幸せだけを願っています。お祖母ちゃんの孫として生まれてきてくれてありがとう。】
と、最後に綴られていた、知らない間にお祖母ちゃんに心配をかけてしまってたことや、この数日間の自分の心情を見透かしたような、この文面を辿る私の目には涙がじんわり滲んで。
徐々にぼやけていく視界で、なんとか最後まで辿り着いた頃には、私の涙腺は完全に決壊してしまってて。
両手で顔を覆い隠して本格的に泣きだしてしまった私の耳に、
「美菜、おいで」
なんて、隣で私の子供の頃の写真を見ていた所為か、要さんの小さな子供にかけるような優しい声音が、流れ込んできたかと思えば……。
いつの間にやら私は、ソファに座った要さんにひょいと抱き上げられていて。
毎朝してくれてるように"よしよしの体勢"で、泣きじゃくる私の背中を優しくトントンしてくれている。
そして要さんからは、
「やっと泣いてくれた……」
何故かそんな言葉が零れ落ちてきた。
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