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予期せぬ出来事とほころび
#11
しおりを挟む泣き止むことのできない私のゴシゴシしかけていた手は、要さんによってやんわりと制されてしまい。
それでも、泣き止むことのできない私の頬を両手でふわりと包み込むようにして、そうっと優しく親指で拭ってくれる要さん。
そんな要さんの表情は、もう怒ってはなくて、ちょっと困ったような、心配そうな、そんな表情で。
もう、怒ってはないんだ、そう思ったら、ホッとして、ますます涙は溢れてきてしまう。
要さんに、
「美菜は悪くない。不安に気づいてやれなかった俺が悪かったんだ。夏目にまで嫉妬して、酷いことを言って、すまなかった。……だから、もう泣くな……」
そう言ってもらえて、誤解が解けたことに、ますます安堵して緩んでしまった私の涙腺は壊れたままだ。
私は、しばらくの間、要さんの暖かな腕のなかで泣きじゃくっていた。
***
ようやく泣き止んで、落ち着きを取り戻した私は、ベッドに並んで横になった要さんに腕枕されて、これからのことを話している。
要さんが私の不安に思っていることを色々聞いてくれて、
『これからはそんなことにならないように、ちゃんと話し合って決めていこう』と言ってくれてのことだった。
今話してる話題は、仕事のことで。だけど、まだ新入社員で研修中の私には、続けたいのかどうか訊かれても……。
『日々与えられる仕事をこなすのに精一杯で、それほど仕事ができてる訳でもないから、自分が必要とされてるとも思えない』から、というか。
正直なところ、自分でも一体どうしたいのか、まだよく分からなくて、なんとも言えない訳で。
ただ、できることなら、
『今まで通りで居られたらいいな』とは思うけれど。
そうなると、気になるのは、周りの反応だ。
今はそのことについて話している最中だった。
「まぁ、大変かもしれないな。けど、仕事に限らず、人と関わってる以上は色々あることないこと言われたりすることもあるだろうが……。結局のところ、それは美菜自身の捉え方によるんじゃないか?」
「……捉え方、……ですか?」
「うん、まぁ、何か言われても、あまり気にするなってことだ。
いちいち言われたことを気にしてたらキリがないし、気にするだけ損だし、仕事にも支障が出るかもしれないだろ?」
「はい、確かに」
「それよりも、他人《ひと》より仕事を頑張って、そういう人間に何も言えないように、黙らせるしかないんじゃないかと思う。
俺は、美菜が仕事を続けたいというなら、全力でサポートしたいと思ってる。俺の祖父母である会長夫婦や両親がそうだったように……。
だから、仕事をどうするかは、結婚する時期も含め、これから焦らずゆっくり考えていけばいい」
「はいっ、ゆっくり考えてみます」
「まぁ、そんなこと言っても俺のことだから、さっきみたいに嫉妬してしまうこともあるだろうが……。それは俺がそれだけ美菜のことを大事に想ってる、ということだから、諦めてもらうしかないがな」
「……」
さすが、『YAMATO』の副社長。
私より十歳年上の要さんの分かりやすく話してくれた"大人な言葉"に、私が感心しきっていたところ。
最後に、拗ねた子供が開き直ったようなことを、同じように子供っぽい口調で付け足すようにして呟かれた要さんの言葉に、私は、あっけにとられてしまった。
けど、そういう言い方だからこそ、本当に私のことを大事に想ってくれてることがストレートに伝わってくるから嬉しくもある。
そういうところがまた要さんらしくて、可愛いなぁ、なんて思ったりもして……。
そんなこんなで、私の"マリッジブルー事件"はなんとか無事に解決し、そのお陰で、要さんとの絆もより深まることとなったのだった。
それから一週間くらいが経過したある平日の夜遅く、私は、予期せぬ相手からの電話を受けることになる。
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