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予期せぬ出来事とほころび
#1
しおりを挟む初お泊まりデートの翌日、連休明けの火曜日の朝。
相変わらず、幸せ一色で、お花畑の住人と化してしまってた私のご機嫌は絶好調だった。
それもそのはず、昨日の帰りの車の中で、要さんに『ご家族にご挨拶させてほしい』と言われ、亡くなった両親や祖母のことを話すと、
『認知症で分かってもらえなくても、美菜の大事な家族であるおばあさんに会わせてほしい。ご両親の眠る墓前にも行って、ちゃんとご挨拶させてほしい』と要さんに言ってもらい。
その後で、『美菜のご家族へのご挨拶を済ませてから、俺の母親にも会ってほしい』とも言われて。
"結婚"というどこか現実離れしていたものが、現実味を帯びてきて、それからずっと、なんだかふわふわとしてしまっている。
「おはようございます!」
「あら……綾瀬さん、おはよう。どうしたの? 今日はやけに元気だけど……」
「……えっ!? あっ、そうだ。今日出掛けにテレビでやってた星座占いの運勢が、なんと一位だったんですよ。そうでした、はいっ!」
「羨ましい。綾瀬さんって悩みとかないでしょ?」
「……ハハハ」
そんな"浮かれモード"の私が秘書室に出勤してすぐ、給湯室で珈琲メーカーのセットやお茶の準備をしていたところ、訪れた先輩秘書である高梨侑李さんの言葉に必要以上に動揺してしまい。
たった今思い付きましたとばかりに、取って付けたような"変な返し"しかできなかった私は、少しばかり生暖かい微妙なお言葉をもらって、笑って誤魔化すというおバカぶり。
そりゃ、悩みがないと言われてしまってもしょうがない。
ちなみに、この高梨さんは木村先輩の同期だそうで、そんな関係から、色々と気にかけてくださるようになって、そのお陰で、異動して間もない私もなんとか打ち解けることができているのだった。
そんな高梨さんは、猫っぽい瞳が印象的なスレンダー美人で、タイトなスーツも様になっていて、ロングの黒髪もタイトにまとめている所為か、少し印象はキツそうだったり毒舌だったりするけれど、話してみれば、裏表がない正直な方という印象だ。
まぁ、でも最初抱いてしまった印象通り、高梨さん含め他の先輩方も、ちょっと冷たく感じてしまうような態度だったり、言葉だったりするときもあるのだけれど。
皆さんお忙しい重役方のスケジュール調整やら、文書作成などその他諸々の業務に加え、緊急時の対応などなど、あげればキリがないほどの業務におわれているため。
そりゃ日頃の緊張感やストレスの所為で、気がたっちゃうこともあるだろうから無理もないだろうと思う。
夏目さんに言わせると、それくらいのことでピリピリするようなヤツは、"日頃の鍛練が足りない"、もしくは、"無能"、らしいけれど……。
秘書室に異動したばかりの私には、まだまだ分からないことだらけだけど、夏目さんのようになんでもかんでも完璧にこなしちゃう人なんて、そんなには居ないと思うんだけどなぁ。
とかなんとか、高梨さんが居なくなった静かな給湯室で一人考え込んじゃってた私は、
「こーら美菜ちゃん。もうそろそろ要にコーヒー持って行く時間なんだけど?」
と言って、すぐ後ろまで来ていたらしい夏目さんに声をかけられたところで、夏目さんの気配になんて当然気づいてはいなかったから、
「わあっ! はっ……はい! スミマセン」
ビックリした声と一緒に肩を跳ね上がらせてしまい。
「美菜ちゃん、分かりやすすぎ。幸せボケもいいけどさぁ。ミスして俺の仕事増やすのだけは勘弁だからなぁ。分かった?」
「……はい」
こうして、幸せボケの私は、すかしたインテリア銀縁メガネ仕様の夏目さんに、やれやれって表情で見下ろされつつ、朝イチで軽めのお小言をいただくこととなった。
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