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忘れられない特別な夜
#8
しおりを挟む要さんは、真っ赤になって絶句している私のことを満足そうに目を細めてから、なにもなかったかのように、これみよがしに私にシートベルトをガチャリとわざとらしく大きな音を立てて装着させると。
私から離れて、今度は自分のシートベルトを装着しつつ、
「美菜のお望み通り今すぐここで抱いてやりたいのはやまやまだが、楽しみは夜にとっておくことにする」
「////」
そんなことを言って、真っ赤な私のことなんてお構いなしで、さっさとエンジンをかけて車を発進させ始めた要さん。
要さんの言い方はどうであれ、視線からは解放されたことに私がホッと胸を撫で下ろしていたら、
「そんなにガッカリすることないだろう?」
なーんてことをまたまた楽しそうに言ってきた要さん。
実際、要さんが"ここでしたい"って言うのなら、"それでも構わない"なんてことを一瞬でも思っちゃったけど……。
それでも、言いたい放題言われてばかりなのはちょっと悔しいし、面白くない。
だって、要さんは時々"そんなに余裕じゃない"とか言うけど……。
いつも余裕のないお子ちゃまな私に比べたら、要さんはいつも余裕綽々に見えるし、実際そうなんだもん。
とうとうムッとした私が助手席側の窓に向かって、そっぽ向いて不貞腐れていると。
マンションの駐車場を出る直前になって何故か車が急停止したかと思ったら、シートベルトを手早く外したらしい要さんによって私の身体はふわりと優しく包まれていて。
「ごめん。美菜の反応が可愛くてつい。それに、ネックレスつけてくれたのが嬉しくて……また調子にのって意地の悪いこと言って、ほんとに悪かった。もう言わないから、頼む。泣くのだけはやめてくれ」
さっきまでのあの楽しそうな口調はなんだったのかと思うくらいの豹変ぶり。
まるで、ご主人様に粗相したのを怒られてシュンとしたワンコみたい。
そんなワンコが、なんとかご主人様のご機嫌をとろうとすり寄ってくるような、例えるならそんな感じだ。
ーー本当にもう! 要さんはいつもいつもズルい。
私がどんなに拗ねて怒ったとしても、こうやって糸も簡単に、私のことを丸め込んじゃうんだもん。
お子ちゃまな私よりもいつも余裕綽々な要さんに言いたい放題言われて悔しくて、面白くない、っていうのもあったんだけど……。
本当は、要さんに初めて貰ったネックレスを今日初めてつけたのに、その事に触れてこない要さんに対して、モヤモヤしていたというか、不安になってしまってたのだ。
このネックレスをくれたのは、ただ私のご機嫌をとるために、夏目さんにでも用意させたものだったから、だから要さんは覚えてもいないんじゃないかって。
けど、こうやって、私がネックレスをつけてたことに気づいてくれていたこと。それを嬉しく思ってくれてたことが分かって、それだけでも嬉しいのに。
私が泣いてると勘違いした要さんの豹変ぶりに、私のことを大事にしてくれてることを実感することもできて。
結局は、こうやっていつも要さんの言葉ひとつで、一喜一憂させられることになっちゃうんだもん。
ううん、焦らされてモヤモヤさせられた分、嬉しさが倍増しちゃうから余計だ。
ーーあーもう、本当に要さんはズルい!
そうは思ってみたところで、どんな要さんのことも、愛おしいとしか思えないんだからどうしようもないんだけれど。
要さんに好きだと伝えてからというもの、こうやって、要さんへの想いが凄いスピードで加速して、どんどん膨らんでいくもんだから、溢れてしまいそうで困ってしまう。
そんな私が、要さんに泣いてないことを伝えると、あからさまにホッと安堵した様子の要さん。
いつもの余裕を取り戻した要さんに、改めて、
『つけてくれてありがとう。よく似合ってる』
そう言って貰えたことに、ますます気を良くした私は最高潮に浮かれてしまっていた。
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