55 / 427
それぞれの思惑~前編~
#16
しおりを挟む
木村先輩の声を聞いた夏目さんは、僅かに口角を釣り上げると小馬鹿にしたような笑みを浮かばせて、
「確か、入社三年目だったかな、ショコラティエである木村康平くん。
見かけによらず、勤務態度も真面目で仕事熱心だと、君の上司である小日向さんからも聞いている。
おまけに、後輩思いの頼りになる優しい先輩のようだし……。
まぁ、それはさておき、チョコレートのテンパリングをするにあたって、一番重要なのはなんだと思う?」
木村先輩へ質問を投げかけた。
急に、美味しいチョコレートを作るために欠かせない工程のことを持ち出してきた夏目さんの意図が分からなくて、木村先輩も私も首を傾げるしかない。
そんな私の隣で夏目さんを見据えている木村先輩は、
「温度だと思いますが……。都合が悪くなったからって、話をすり替える気ですか?」
小馬鹿にされた挙句、はぐらかされてしまったため気分を害したようで、酷く苛ついたような声を返した。
そんな木村先輩の言葉なんてものともせずに、インテリ銀縁メガネ仕様の夏目さんは、
「確かに、温度は重要だ。
でも、水分が入らない様に気を配るのも同じくらい重要なことだと聞く。
各部署や人によって、やり方も随分と変わってくるのは当然で……。傍から見れば無駄だったり、可笑しく見えてしまうこともあるかも知れない。
それでも、他部署《・・・》の者が、知った風な口ぶりで、しかも目上の者に対して、水を差すのは如何なものかと思う。
これは、組織の中にいる者にとって、とても重要なことだ。
君も組織の一員なんだ、きちんと弁《わきま》えておくといい」
他部署である木村先輩を黙らせるには充分な、もっともらしい言葉で簡単に説き伏せてしまったのだった。
それは、それは、見事なまでに鮮やかに。
すかしたインテリ銀縁メガネ仕様の夏目さんによって説き伏せられてしまった木村先輩の横顔にゆっくりと視線を向けてみれば。
とても悔しそうな表情をしていて、奥歯を強く噛み締めているように見えるし。
木村先輩の太腿の横で握られた拳もプルプルと震えているように見える。
そんな木村先輩の隣で、どうすることもできずに、立ち尽くしていると。
「確か、入社三年目だったかな、ショコラティエである木村康平くん。
見かけによらず、勤務態度も真面目で仕事熱心だと、君の上司である小日向さんからも聞いている。
おまけに、後輩思いの頼りになる優しい先輩のようだし……。
まぁ、それはさておき、チョコレートのテンパリングをするにあたって、一番重要なのはなんだと思う?」
木村先輩へ質問を投げかけた。
急に、美味しいチョコレートを作るために欠かせない工程のことを持ち出してきた夏目さんの意図が分からなくて、木村先輩も私も首を傾げるしかない。
そんな私の隣で夏目さんを見据えている木村先輩は、
「温度だと思いますが……。都合が悪くなったからって、話をすり替える気ですか?」
小馬鹿にされた挙句、はぐらかされてしまったため気分を害したようで、酷く苛ついたような声を返した。
そんな木村先輩の言葉なんてものともせずに、インテリ銀縁メガネ仕様の夏目さんは、
「確かに、温度は重要だ。
でも、水分が入らない様に気を配るのも同じくらい重要なことだと聞く。
各部署や人によって、やり方も随分と変わってくるのは当然で……。傍から見れば無駄だったり、可笑しく見えてしまうこともあるかも知れない。
それでも、他部署《・・・》の者が、知った風な口ぶりで、しかも目上の者に対して、水を差すのは如何なものかと思う。
これは、組織の中にいる者にとって、とても重要なことだ。
君も組織の一員なんだ、きちんと弁《わきま》えておくといい」
他部署である木村先輩を黙らせるには充分な、もっともらしい言葉で簡単に説き伏せてしまったのだった。
それは、それは、見事なまでに鮮やかに。
すかしたインテリ銀縁メガネ仕様の夏目さんによって説き伏せられてしまった木村先輩の横顔にゆっくりと視線を向けてみれば。
とても悔しそうな表情をしていて、奥歯を強く噛み締めているように見えるし。
木村先輩の太腿の横で握られた拳もプルプルと震えているように見える。
そんな木村先輩の隣で、どうすることもできずに、立ち尽くしていると。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,140
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる