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それぞれの思惑~前編~

#11

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そんな私に、木村先輩は、

「どう? 秘書室での仕事。

……やっぱり…大変そう?」

優しく微笑みながらも、元気がないように見えてしまったらしい私の様子を窺ってくる。

どうやら、急に異動になってしまった私のことを心配して気遣ってくれているようだ。

なんとか、これ以上心配を掛けない様に、

「いえいえ。まだ異動したばかりなんで、雑用しかしてないですし……。全然、大変じゃないですよっ! はいっ!」

ピシッと姿勢を正して、元気よく応えれば……。

「ハハッ、そっか。なら良かった」

優しい木村先輩は、まるで自分のことのようにホッと安心したように笑ってから、そう言ってニカッといつものように八重歯を覗かせると、買い物袋の中からコーヒーの蓋付きカップを取り出してストローを突き刺すとゆっくり口に運んでいる。

そんな木村先輩に倣うようにして。私も自分の野菜ジュースのパックのストローを咥えて、一口啜ってからフウと一息ついた後、パックジュースをベンチに置いたちょうど、その瞬時《とき》だった。

「美菜ちゃん」

「は、はいっ!」

不意に、木村先輩に呼ばれた私が驚ながらも元気よく返事を返せば、「ふう」と息を吐き出した先輩が何やら神妙な表情に変わったのは……。

「俺なんかじゃ頼りになんないかもしれないけどさぁ……。これでも、美菜ちゃんよりは少しだけ先輩なんだし。俺の前では、そんな風に無理しなくていいから。

本当は、なんかあったんじゃない?」

木村先輩に、思いもよらなかった優しい言葉を掛けられて、不意打ちを食らった私は、言葉を失ってしまい。

自分の膝に視線を固定した状態で、ただジッとしていることしかできなくなってしまった。

「ごめん。困らせるつもりはないんだ。言いたくないなら言わなくていいし。
……ただ、なんか無理して笑ってるように見えちゃってさぁ」

それでも、変わらず優しく気遣ってくれる木村先輩に、これ以上迷惑を掛ける訳にもいかなくて、なんとか気を取り直してみるも……。

「……急な異動だったから、ちょっと色々疲れちゃってるかもです」

へへって何でもない風を装って笑ったつもりだったのに、私の頬をツーッと生ぬるいモノが流れ落ちていく感触がして。

どうやら、ここ最近、色んなことがあったせいで、気持ちの整理が追い付いてはいなかったのだろう。
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