29 / 427
近づく距離
#5
しおりを挟む
昨夜、天気予報のお姉さんが言ってた通り、今日は雨の心配は無さそうで。
ウンザリしていた梅雨の季節だってことを忘れてしまうくらい、爽やかな朝の陽射しが、大きな窓から優しく降り注ぐリビングのテーブルには、夏目さんが作ってくれた美味しそうな料理たちが並んでて、お腹を空かせた私と副社長のことを迎え入れてくれた。
そしてそこには、料理が並べてあるテーブルとアイランドキッチンの間を、今日も朝から忙《せわ》しなく行き来する夏目さんの姿があった。
慌てた私が小走りで近寄れば、
「夏目さん、おはようございます! 何か手伝えることありますか?」
「あぁ、美菜ちゃん、おはよっ! こっちはいいから。早く座った、座った」
急かすように言われて、夏目さんに背中までグイグイと押され、広いテーブルの方へと呆気《あっけ》なく追い遣《や》られてしまった私。
仕方なく、そのお言葉に甘えることにして、素直に椅子に腰を下ろそうとしたら、
「朝から美菜ちゃん使うと、要の機嫌、悪くなっちゃうんだよなぁ……。さ、いいから食べちゃいな?」
何故か、声を潜《ひそ》めた夏目さんが、ソファの近くで経済新聞に目を通している副社長の方を気にしつつ、私だけに聞こえるようにそう言いながら、オレンジジュースを注いだグラスとバゲットの入ったカゴをそうっと近くに置いてくれた。
けれど、私が手伝うと、どうして副社長の機嫌が悪くなっちゃうかが、全然分からなくて。
少し小首を傾げてしばし考えてみる。
ーーあぁ、そっか、そっか。アレが原因に違いない。
いつも私が作るおばあちゃん直伝の、あの地味な煮物うんぬんが、お気に召さないのか。
確かに、洋風の料理が好きなようだし、あの和風独特の匂いって、結構、服に染み込んじゃうし。
ーーなるほど。
そう納得した私は、気を取り直して、胸の正面で掌を合わせると、
「わぁ、おいしそう。いただきま~す!」
元気よくそう言って、美味しい料理を食べ始めたのだった。
そんな私の視界には、大きな窓際のソファに、ゆったりと深く腰を沈めて、芳ばしい香りと湯気を燻《くゆ》らすコーヒーの入ったカップを、なんとも優雅に口に運んでいる麗しい副社長の姿が映し出されていて。
ーー初めて副社長を見たときにも思ったけど、いつ見ても、絵になるなぁ……。
なーんてことをやっぱり思って、食べることも忘れて、見惚《みと》れちゃうほど、今日の副社長も圧倒的なオーラと美しさを纏っている。
まぁ、これも、いつものことで……。
そんな私は、いつも、
「美ー菜ーちゃんっ。ほら、早く食べてくんなきゃ片付かないだろう?」
何故か、ニマニマとした表情を浮かべた夏目さんに注意をされてしまう始末。
一方の、副社長はというと……。
朝から騒がしい私と夏目さんの方へチラッと視線を一巡させた後、今度はその視線を、手元のチョコレートの入った箱に落とした。
そうしてフッと微笑むように口元を緩めさせたかと思えば、慌ててそこに拳を宛てがって、目尻も下げている。
ーーん? どうしたんだろう?
一瞬、不思議に思ったけれど、夏目さんによれば、副社長は、朝食代わりに大好きなチョコレートを食すことが、何よりも好きらしいので。
きっと、今味わっているチョコレートの味が、余程、お気に召したのだろう。
幸せそうにチョコレートを愛おしむ副社長の姿を見ているだけで、こっちまで幸せな気持ちになってくる。
それに、チョコレートが大好物な副社長のお陰で、あの日、副社長と対面することになって、こうして一緒にいられるんだと思うと、なんだか不思議な気がする。
まぁ、なんにせよ、チョコレート様様だ。
ウンザリしていた梅雨の季節だってことを忘れてしまうくらい、爽やかな朝の陽射しが、大きな窓から優しく降り注ぐリビングのテーブルには、夏目さんが作ってくれた美味しそうな料理たちが並んでて、お腹を空かせた私と副社長のことを迎え入れてくれた。
そしてそこには、料理が並べてあるテーブルとアイランドキッチンの間を、今日も朝から忙《せわ》しなく行き来する夏目さんの姿があった。
慌てた私が小走りで近寄れば、
「夏目さん、おはようございます! 何か手伝えることありますか?」
「あぁ、美菜ちゃん、おはよっ! こっちはいいから。早く座った、座った」
急かすように言われて、夏目さんに背中までグイグイと押され、広いテーブルの方へと呆気《あっけ》なく追い遣《や》られてしまった私。
仕方なく、そのお言葉に甘えることにして、素直に椅子に腰を下ろそうとしたら、
「朝から美菜ちゃん使うと、要の機嫌、悪くなっちゃうんだよなぁ……。さ、いいから食べちゃいな?」
何故か、声を潜《ひそ》めた夏目さんが、ソファの近くで経済新聞に目を通している副社長の方を気にしつつ、私だけに聞こえるようにそう言いながら、オレンジジュースを注いだグラスとバゲットの入ったカゴをそうっと近くに置いてくれた。
けれど、私が手伝うと、どうして副社長の機嫌が悪くなっちゃうかが、全然分からなくて。
少し小首を傾げてしばし考えてみる。
ーーあぁ、そっか、そっか。アレが原因に違いない。
いつも私が作るおばあちゃん直伝の、あの地味な煮物うんぬんが、お気に召さないのか。
確かに、洋風の料理が好きなようだし、あの和風独特の匂いって、結構、服に染み込んじゃうし。
ーーなるほど。
そう納得した私は、気を取り直して、胸の正面で掌を合わせると、
「わぁ、おいしそう。いただきま~す!」
元気よくそう言って、美味しい料理を食べ始めたのだった。
そんな私の視界には、大きな窓際のソファに、ゆったりと深く腰を沈めて、芳ばしい香りと湯気を燻《くゆ》らすコーヒーの入ったカップを、なんとも優雅に口に運んでいる麗しい副社長の姿が映し出されていて。
ーー初めて副社長を見たときにも思ったけど、いつ見ても、絵になるなぁ……。
なーんてことをやっぱり思って、食べることも忘れて、見惚《みと》れちゃうほど、今日の副社長も圧倒的なオーラと美しさを纏っている。
まぁ、これも、いつものことで……。
そんな私は、いつも、
「美ー菜ーちゃんっ。ほら、早く食べてくんなきゃ片付かないだろう?」
何故か、ニマニマとした表情を浮かべた夏目さんに注意をされてしまう始末。
一方の、副社長はというと……。
朝から騒がしい私と夏目さんの方へチラッと視線を一巡させた後、今度はその視線を、手元のチョコレートの入った箱に落とした。
そうしてフッと微笑むように口元を緩めさせたかと思えば、慌ててそこに拳を宛てがって、目尻も下げている。
ーーん? どうしたんだろう?
一瞬、不思議に思ったけれど、夏目さんによれば、副社長は、朝食代わりに大好きなチョコレートを食すことが、何よりも好きらしいので。
きっと、今味わっているチョコレートの味が、余程、お気に召したのだろう。
幸せそうにチョコレートを愛おしむ副社長の姿を見ているだけで、こっちまで幸せな気持ちになってくる。
それに、チョコレートが大好物な副社長のお陰で、あの日、副社長と対面することになって、こうして一緒にいられるんだと思うと、なんだか不思議な気がする。
まぁ、なんにせよ、チョコレート様様だ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,142
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる