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捕らわれた檻のなかで
#6
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膝近くの太腿の上で、震えてた筈の私の手は、何故か副社長の大きくて温かい手に優しく包まれていて。
耳元でも、
「少しは、落ち着いたか?
美菜は、俺の隣でただ座ってればいい」
さっき妙さんと話してたような、優しい声色で、まるで子供にでも言い聞かすようにして、落ち着いた低いトーンで囁きかけてくれた。
さっきまでの、意地悪だった声色とは比べ物にならないくらい、今まで聞いたこともないようなトビキリ優しい声だった。
……思いもよらなかった。
副社長のその優しさに、思わず泣いてしまいそうになるのを、グッと堪えるのに精一杯だった私は、何も返せないままで、俯いてることしかできない。
でも、直後には、副社長から私に向けて、釘をさすように、念を押すような言葉が放たれるのだった。
「分かってると思うが。
お前の出番はこれからだ。頼んだぞ」
でも、そのお陰で、やっと、冷静になることができた。
ーーいけない、いけない、そうだった。
今まで知らなかった、色んな副社長の姿を目にしてしまってたせいで、危うく騙されてしまうところだった。
初めて名前を呼んでもらったくらいで、胸キュンしたり、ちょっと優しくしてもらったくらいで、感動して泣きそうになってる場合でもない。
副社長は、傍若無人で、自分のことしか頭にないような、そういう人だったのだ。
さっきのあれは、緊張した私が、ボロを出してしまわないように、気遣ってくれただけのことで。
それに、私に自分のことを好きにさせるための優しさ、でもあったのだということに、ようやく気づくことができた。
ーーこの、策士め……。
そんなふうに考えていると、
「失礼するよ」
という落ち着いた男性の声がして、その後すぐに、廊下側の襖が開け放たれた。
ようやく、策士である副社長の魂胆に気付くことができた私は、決意を新たに『いざ出陣』とばかりに、意気込んで、開け放たれた襖から現れた人物へと照準を合わせた。
すると、七十歳くらいだろうか、落ち着いた品格漂う上品そうで、とてもお綺麗な、会長らしき女性と。
会長より少し歳上に見える、前会長の虎太郎《こたろう》さん(は、婿養子で、病気のため現在は隠居中)であるのだろう、貫録ある体格をした優しい顔立ちの男性の姿が、そこにはあって。
その二人が私に向けて、とても柔らかな微笑みを浮かべてくれているように見える。
そんな二人の、意外にも歓迎ムードの和やかな雰囲気に、うっかり、拍子抜けしてしまいそうなくらいだ。
「おや、おや、要がまさか、こんなに可愛らしいお嬢さんを連れてきてくれるとは。なぁ、雅」
「ホントにねぇ。
もう、要ったら、沢山の縁談を断ってばかりだったから……。
もしかして、ソッチノケでもあるんじゃないかって。ずっと心配してたくらいなのよ。
で、結納の予定なんかは、もう、たってるのかしら?」
……なんて、会長から、驚きの言葉が出てきてしまうほどの歓迎ぶりだ。
さっき、会長から『ソッチノケ』という言葉を聞いた時には、一瞬ドキリとさせられてしまったけれど。
ーーソッチノケどころか、どっちもOKらしいですけれども……。
……コホンッ
それはさておき、副社長の話によると、どうやら、このお二人は、恋愛結婚だったらしく。
お二人の年齢的に、その当時は、色々と反対もされてたようだけど……。
そんな背景もあってか、結婚は、"当人同士の気持ちが何より大事"だと常々おっしゃっていたらしい。
そんな大事なことは、もっと早く。
できれば、ここに、ご挨拶にあがる前に教えておいて頂きたかったのだが、そこは、やっぱり、副社長だなと妙に納得してしまった。
……けれど、やっぱり、そこは、流石は副社長、これだけでは、終わらなかったのだ。
副社長がここまで、ワザワザ挨拶に出向いてきたのには、ある理由があったのだ。
……きっと。いやいや、絶対に。それが本当の目的だったのだろう。
そうとも知らず、この時の私は、お二人の温かいおもてなしを呑気に受けていたのだった。
この数時間後に、まさか、あんな展開が私を待っていようとは思いもせずに……。
耳元でも、
「少しは、落ち着いたか?
美菜は、俺の隣でただ座ってればいい」
さっき妙さんと話してたような、優しい声色で、まるで子供にでも言い聞かすようにして、落ち着いた低いトーンで囁きかけてくれた。
さっきまでの、意地悪だった声色とは比べ物にならないくらい、今まで聞いたこともないようなトビキリ優しい声だった。
……思いもよらなかった。
副社長のその優しさに、思わず泣いてしまいそうになるのを、グッと堪えるのに精一杯だった私は、何も返せないままで、俯いてることしかできない。
でも、直後には、副社長から私に向けて、釘をさすように、念を押すような言葉が放たれるのだった。
「分かってると思うが。
お前の出番はこれからだ。頼んだぞ」
でも、そのお陰で、やっと、冷静になることができた。
ーーいけない、いけない、そうだった。
今まで知らなかった、色んな副社長の姿を目にしてしまってたせいで、危うく騙されてしまうところだった。
初めて名前を呼んでもらったくらいで、胸キュンしたり、ちょっと優しくしてもらったくらいで、感動して泣きそうになってる場合でもない。
副社長は、傍若無人で、自分のことしか頭にないような、そういう人だったのだ。
さっきのあれは、緊張した私が、ボロを出してしまわないように、気遣ってくれただけのことで。
それに、私に自分のことを好きにさせるための優しさ、でもあったのだということに、ようやく気づくことができた。
ーーこの、策士め……。
そんなふうに考えていると、
「失礼するよ」
という落ち着いた男性の声がして、その後すぐに、廊下側の襖が開け放たれた。
ようやく、策士である副社長の魂胆に気付くことができた私は、決意を新たに『いざ出陣』とばかりに、意気込んで、開け放たれた襖から現れた人物へと照準を合わせた。
すると、七十歳くらいだろうか、落ち着いた品格漂う上品そうで、とてもお綺麗な、会長らしき女性と。
会長より少し歳上に見える、前会長の虎太郎《こたろう》さん(は、婿養子で、病気のため現在は隠居中)であるのだろう、貫録ある体格をした優しい顔立ちの男性の姿が、そこにはあって。
その二人が私に向けて、とても柔らかな微笑みを浮かべてくれているように見える。
そんな二人の、意外にも歓迎ムードの和やかな雰囲気に、うっかり、拍子抜けしてしまいそうなくらいだ。
「おや、おや、要がまさか、こんなに可愛らしいお嬢さんを連れてきてくれるとは。なぁ、雅」
「ホントにねぇ。
もう、要ったら、沢山の縁談を断ってばかりだったから……。
もしかして、ソッチノケでもあるんじゃないかって。ずっと心配してたくらいなのよ。
で、結納の予定なんかは、もう、たってるのかしら?」
……なんて、会長から、驚きの言葉が出てきてしまうほどの歓迎ぶりだ。
さっき、会長から『ソッチノケ』という言葉を聞いた時には、一瞬ドキリとさせられてしまったけれど。
ーーソッチノケどころか、どっちもOKらしいですけれども……。
……コホンッ
それはさておき、副社長の話によると、どうやら、このお二人は、恋愛結婚だったらしく。
お二人の年齢的に、その当時は、色々と反対もされてたようだけど……。
そんな背景もあってか、結婚は、"当人同士の気持ちが何より大事"だと常々おっしゃっていたらしい。
そんな大事なことは、もっと早く。
できれば、ここに、ご挨拶にあがる前に教えておいて頂きたかったのだが、そこは、やっぱり、副社長だなと妙に納得してしまった。
……けれど、やっぱり、そこは、流石は副社長、これだけでは、終わらなかったのだ。
副社長がここまで、ワザワザ挨拶に出向いてきたのには、ある理由があったのだ。
……きっと。いやいや、絶対に。それが本当の目的だったのだろう。
そうとも知らず、この時の私は、お二人の温かいおもてなしを呑気に受けていたのだった。
この数時間後に、まさか、あんな展開が私を待っていようとは思いもせずに……。
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