【R18】訳あり御曹司と秘密の契約【本編完結・番外編不定期更新中】

羽村美海

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捕らわれた檻のなかで

#2

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今から遡《さかのぼ》ること、一週間前の副社長室でのことだった。

「お言葉ですが副社長。

会長の雅《みやび》様は、何よりも、格式やシキタリを重んじる方でいらっしゃいますので。

こういうことは、きちんとしておくにこしたことはございません。

一つ一つ、順序立てて、何一つ怠《おこた》ることは許されません。

それに、専務の隼《はやと》様の動向も、気になりますし……。

先手を打っておかれた方が、よろしいかと」

いつものように、インテリ銀縁メガネの、この長い長いお小言のような言葉からすべては始まったのだ。

「あー、もー、分かった、分かった。

ちゃんと会長に紹介して、挨拶もして。

隼に勘づかれて先越されないように……ってことだな。

夏目の言いたいことは、そーいうことだろ?」

「ご理解いただけて、なによりです」

もう、恒例となってしまった、インテリ銀縁メガネの、このイヤミなくらい長ったらしい忠告を、聞くやいなや、至極《しごく》、面倒くさそうな表情を隠すことなく、吐き捨てるようにして、内容を確認する副社長。

本当に、辟易《へきえき》しているように見えるけれど、そりゃーそーだろー。

あの夜、副社長の部屋に居た銀縁メガネは、他人に出入りされることを嫌う副社長の、ハウスキーパー的役目を果たすために、三年前から住み込んでいるというのだ。

それを聞いた私が、あらぬ妄想を繰り広げそうになったことは、今は内緒にしておくとして。

きっと、三年も前から毎日、こんなやり取りをしているんだろう……。

もし私が、副社長の立場だったらと想像しただけで、ストレスで胃に大きな穴が開いてしまいそうだ。

そんなことまで、私がどうして知っているかって?

それは、仕事中だったというのに、突然、なんの前触れもなく、呼び出されてしまった可哀そうな私も、その場にいたからだ。

「というわけで、小娘」

今のいままで、呼びつけている私の存在なんか、忘れ去っていたんじゃないかってくらい、放置されてた私は、急に、話を振られたことに、すぐには気付けなくて。

当然、そんな私のことを、このインテリ銀縁メガネが、容赦する理由《わけ》なんてなかった。

「おい、小娘っ! 

お前、聞いていなかったのか? 

こんなに、大事なことをっ!?」


それは、それは、怖い、怖い、表情をして、私のすぐ傍までやってくると……。

高い位置から見下しながら、

「お前、もう既に、報酬は受け取っているだろう?

それなのに、聞いてたなかったとは、呆れたやつだなぁ。

お前の、この耳は、飾りなのか?」

私の左耳の上側を指で摘まむと、そのまま、自分の方へと引き寄せるようにして引っ張って、ネチネチと意地悪く詰め寄ってくる。

ちなみに、報酬というのは、"副社長のアレが使えるよう協力する"という、例の契約の報酬のことで。

ついこの前、奨学金を一括で払い込んで貰ったことを指している訳で。

私は、もう、完全に、後戻りできない状況に追い込まれているのだった。

まるで、捕らわれて、頑丈な檻の中にでも、放り込まれているかのように……。

インテリ銀縁メガネに、痛いところを突かれても、本当のことだから、言い返すこともできない。

でも、今は、そんなことより、インテリ銀縁メガネが、最後の一行の言葉を区切るたびに、耳を引っ張るもんだから、痛くて堪らない。

思わず、「イタッ」っていう声を出してしまった私が、これ以上、怒らせてしまわないためにも、『すみません』そう口にしようと思ったその瞬間だった。
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