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捕らわれた檻のなかで
#1
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あの副社長のお陰で、すったもんだあった四月は、あっという間に過ぎ去ってしまっていた。
五月になったばかりの、爽やかな風がそよぐたびに、枝の葉を揺らす木々や、優しく揺らめく可憐な花々を眺めながら……。
社会人になってまだ間のない私は、慣れない仕事で疲れてしまってた心が洗われるような、そんな清々《すがすが》しさに身を委ね、癒されていたーー
――訳では、決してなかった。
確かに、五月晴《さつきば》れの晴れ渡る真っ青な空の下《もと》、爽やかな風もそよそよと吹いていて、綺麗に手入れされた木々も可憐な花々だってある。
びっしりと敷き詰められた白砂には、見事なまでの曲線まで描かれていて、おまけに、趣《おもむき》のある池まで眺めることができる。
そう聞いて、ここが、まさか、閑静な高級住宅街の一等地にある、立派な和風庭園だなんて、誰も思わないだろう……。
京都やなんかの観光スポットで、よく目にすような、風光明媚な情緒ある和風庭園の風景が、視界いっぱいに広がっている。
テレビや映画なんかで耳にしたことがある、獅子脅しの風流な音色が漂う中、私は、これまた豪華絢爛な欄間《らんま》彫刻がふんだんに施された、だだっ広い和室に通されている。
そして私の隣には、当然のように、これ以上にないってほどの不機嫌な表情をして、胡坐《あぐら》をかいて座っている副社長の姿があるわけなのだが……。
ここに到着してから、しばらく経っているのだけれど、さっきからずっとこうやって沈黙を貫いたままでいる。
シンと静まり返った広い空間で、副社長が醸し出す、この重苦しい空気のお陰で、緊張感に襲われた私は、今にも吐いてしまいそうだ。
……少しは、こっちの身にもなってもらいたい。
朝も早い時間から、オシャレなスタイリストさんに、肩までの茶色がっかた扱いにくい猫っ毛の髪を綺麗にセットされた挙句。
こんな知らない場所に連れてこられて、こんな着慣れない着物まで着せられているっていうのに。
どうして、こんなことになっているのかというと……。
五月になったばかりの、爽やかな風がそよぐたびに、枝の葉を揺らす木々や、優しく揺らめく可憐な花々を眺めながら……。
社会人になってまだ間のない私は、慣れない仕事で疲れてしまってた心が洗われるような、そんな清々《すがすが》しさに身を委ね、癒されていたーー
――訳では、決してなかった。
確かに、五月晴《さつきば》れの晴れ渡る真っ青な空の下《もと》、爽やかな風もそよそよと吹いていて、綺麗に手入れされた木々も可憐な花々だってある。
びっしりと敷き詰められた白砂には、見事なまでの曲線まで描かれていて、おまけに、趣《おもむき》のある池まで眺めることができる。
そう聞いて、ここが、まさか、閑静な高級住宅街の一等地にある、立派な和風庭園だなんて、誰も思わないだろう……。
京都やなんかの観光スポットで、よく目にすような、風光明媚な情緒ある和風庭園の風景が、視界いっぱいに広がっている。
テレビや映画なんかで耳にしたことがある、獅子脅しの風流な音色が漂う中、私は、これまた豪華絢爛な欄間《らんま》彫刻がふんだんに施された、だだっ広い和室に通されている。
そして私の隣には、当然のように、これ以上にないってほどの不機嫌な表情をして、胡坐《あぐら》をかいて座っている副社長の姿があるわけなのだが……。
ここに到着してから、しばらく経っているのだけれど、さっきからずっとこうやって沈黙を貫いたままでいる。
シンと静まり返った広い空間で、副社長が醸し出す、この重苦しい空気のお陰で、緊張感に襲われた私は、今にも吐いてしまいそうだ。
……少しは、こっちの身にもなってもらいたい。
朝も早い時間から、オシャレなスタイリストさんに、肩までの茶色がっかた扱いにくい猫っ毛の髪を綺麗にセットされた挙句。
こんな知らない場所に連れてこられて、こんな着慣れない着物まで着せられているっていうのに。
どうして、こんなことになっているのかというと……。
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