上 下
91 / 91
唯一無二の大切な存在

しおりを挟む
 朝晩の気温差のおかげで夜になると薄手の羽織り物が必要にはなるが、日中は日差しが強くまだまだ暑い。

 泳ぐにはもってこいの気候である。

 仕事の合間にジムに通い泳ぎもたしなんでいたという奏には、絶好のプール日和となったようだ。

 奏は煌めく水面を掻き分け優雅にクロールを楽しんでいる。

 一方穂乃香は、泳ぎが不得手な上にビキニ姿が恥ずかしくて泳ぎどころではなく、プールサイドで水に足をつけ涼をとりつつ、奏の泳ぐ様をうっとりと眺めていた。

 普段お目にかかることのない、自然体で休日《オフ》を満喫している奏の姿が新鮮で時間が経つのも忘れていたくらいだ。

 だというのに、奏は穂乃香が退屈しないように時折気を配ってくれていた。

「穂乃香、せっかくなんだから入ったらどうだ?」
「だ、大丈夫です」

 その都度やんわりと断っていたのだが、奏は穂乃香が遠慮していると思ったのかもしれない。

「そんなこと言わずに、俺が教えてやるから、ほら」
「あっ、キャッ!」

 奏は時折見せる強引さで何の予告もなく、いきなり穂乃香の手首を摑んだ。そしてそのまま水の中にザブンと引き入れたのである。

 もちろん、それだけじゃない。

 それだけで終わらせるような奏ではなかった。

 貸し切り状態であるのと、泳ぎが不得手な穂乃香が奏にぎゅっと抱きついているのをいいことに、淫らな戯れを仕掛けてきたのだ。

「穂乃香、そんなにしがみつかれたら動けないだろ」
「だから、言ってるじゃないですか。私のことは気にせず、奏さんだけ泳いでくださいって」

 やけに熱っぽい眼差しで穂乃香を間近で見つめつつ、対面で抱き込んだ穂乃香の両の尻をふにふにと淫らに揉み込みながら意地悪な質問を耳元に囁きかけてくる。

「一人で泳ぐより、穂乃香とくっついている方がいいに決まってるだろ。穂乃香は違うのか?」
「そんなわけ……ありません……けど」
「ん?」

 奏は、羞恥のせいで言い淀む穂乃香にその先の言葉を促しつつなおも淫らな悪戯を仕掛けてくる。

 大きな手で尻を揉みながら、耳朶を柔らかな唇に食んで熱い舌を耳殻に捩じ込んでは、ぴちゃ、クチャッ、濡れた音を響かせる。

「……やっ、んぅ……そこ、だ、ダメぇ」

 この二週間、奏によって昼夜関係なく数えきれぬほど高められ、甘美な愉悦を与えられた身体は、容易く熱を帯びずくずくに蕩けてしまう。

 淫らな悪戯を仕掛けられただけで、双丘の奥の裂け目はみだりがましくヒクつき、トロリとした愛蜜まで滲ませる。

 それらを羞恥に身悶える穂乃香の様子からいち早く察した奏によって、秘裂の溝を後ろから指でなぞりながら指摘されてしまう。

「まだイイところには触れてもいないのに。水の中でもわかるほど、こんなにもヌルヌルさせて、何がダメなんだ? それとも、俺にもっと触ってほしくて、強請ってでもいるのか?」

 もうその意地の悪いバリトンボイスを耳にしただけで、背中にぞわぞわっとした震えが甘い痺れと共に這い上がってくる。

「ち、ちがっ……あ、やんっ」

 即座に否定の言葉を口にしたところで説得力など皆無だ。

 理性を捨てきれない穂乃香の心とは裏腹に、身体はその先の快感を期待して奏に甘い愛撫を乞うように、豊かな胸を奏の胸板に押しつけ、腰までゆらゆらと揺らめかせる。

 もうこうなってしまっては、理性など歯が立たない。

 奏によって与えられる極上の愉悦を五感のすべてで甘受し、欲望の赴くままに乱れに乱れ、頂点に昇り詰めるその瞬間まで、甘い喘ぎを繰り返すほかに術などないのだから。

 奏がもたらす快楽という波の狭間で、されるがままに身を委ねることしかできない穂乃香の理性が完全に霧散してしまった頃には、プールサイドに仰向けになった奏の上で胸をふるんふるんと悩ましく弾ませながら自ら腰を揺らめかせていた。

 いわゆる騎乗位の体勢となった穂乃香は、奏に両の胸を弄ばれている。

 その姿は、普段の生真面目な穂乃香からは想像もできないほどに、酷く淫らで、この世の者とは思えぬほど美しい。

 その姿になおも劣情を煽られてしまった奏が端正な相貌を歪ませ、何かを堪えるように歯噛みし苦しげな声音を余裕なく震わせる。

「っ……く、はぁ……ぁ、穂乃香、出すぞ」

 その様を目の当たりにした穂乃香もまた、切羽詰まった奏の様子に感化され、絶頂感を覚える。

「あっ、か、なっ……た、さ……わた、し……も、もっ、だめぇ……あっ、あ、や、ああぁぁ……!」

 互いの身をガクガクと打ち震わせながらしっかりと抱き合い、互いの唇を重ね、幾度も角度を変えては飽きることなく貪り合った。

 互いの呼吸がようやく落ち着いた頃。

 奏の胸に頬を擦り寄せ微睡みのような幸福感と甘やかな余韻とに酔いしれながら奏の香りを堪能していると、穂乃香をふわりと包み込んだままの奏が甘い台詞を紡いだ。

「俺は穂乃香がこうして側にいてくれるだけで幸せだ。他には何もいらない。月並みだが、世界で一番愛してる」
「……私も。奏さんの側にいられるだけで、幸せですよ。他には何もいりません。世界で一番愛しています」

 奏からの熱い愛の言葉を耳にした穂乃香は感極まってしまう。

 込み上げそうになる涙を堪えつつそう言って返すのがやっとだった。

 奏の言葉に籠められていたのは、奏と心から通じ合ってからこうして幾度も身体を重ねているというのに、一向に妊娠の兆しがないのを気に病んでいた穂乃香を気遣うものだったからだ。

 これまでも気になってはいたものの、口にすることがどうしてもできなかった。

 優しい奏が気遣ってくれるとわかっていたからでもあるし、事実を口にするのが怖かったから。

 あのルールがなくなったとはいえ、大企業を担っていく立場である奏にとって、後継者問題は避けては通れない重要案件だ。

 ――もしもこのまま奏さんとの子どもを授かることができなかったら……

 穂乃香がそこまで思考していたところで、再び奏から美声が届いた。

「妙なことだけは考えないでほしい。再会した時にも言ったと思うが、遺伝子レベルで穂乃香に惹かれている俺にとって、穂乃香は唯一無二の大切な存在だ。穂乃香が側にいてくれないと生きてなどいけない。だから穂乃香には、死ぬまでずっと俺の側にいてもらわないと困る。たとえ何があろうと。いいな?」

 あたかも穂乃香の心の内を見透かしたかのような言葉と共に紡がれた、傲慢ともとれる言葉の数々から、奏の熱い想いと優しさとがひしひしと伝わってくる。

 ――私だって同じだ。奏さんの匂いも声も何もかもひっくるめて全てに惹かれている。奏さんの言うように遺伝子レベルで。一日どころか一秒たりとも離れたくはない。それくらい好きだ。愛している。私にとっても、奏さんが唯一無二の大切な存在だからに違いない。だったら、もう余計なことを考えるのはやめよう。奏さんと幸せになることだけを考えよう。

 愛する夫である奏のおかげでそう思いなおすことができた穂乃香は、今度こそ迷いなくしっかりと答えた。

「はい」

 この日、互いが遺伝子レベルで惹かれ合った、唯一無二の大切な存在であると確信し、改めて愛を誓い合った穂乃香と奏が、この時既に子どもを授かっていたと知るのはもう少し先のことだ。


 ~Fin~
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

スーベジ
2024.06.11 スーベジ

遺伝子レベルで魅かれるという事はあると思います。私も夫の匂いが臭いと感じず、たばこくさい匂いにも、ああ夫だなあとうれしくなります。
体臭が気にならないとは、そういう事と思います。

羽村美海
2024.12.17 羽村美海

スーベジ様
気づくのが大変遅くなり申し訳ございません🙏💦
お読みいただきメッセージまで残していただき、とっても嬉しいです💕
ありがとうございました🙇🏻‍♀️💞
遺伝子レベルで惹かれ合う旦那様と末永くお幸せになさってくださいませね🌸🌷.*

解除

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

隠れ御曹司の手加減なしの独占溺愛

冬野まゆ
恋愛
老舗ホテルのブライダル部門で、チーフとして働く二十七歳の香奈恵。ある日、仕事でピンチに陥った彼女は、一日だけ恋人のフリをするという条件で、有能な年上の部下・雅之に助けてもらう。ところが約束の日、香奈恵の前に現れたのは普段の冴えない彼とは似ても似つかない、甘く色気のある極上イケメン! 突如本性を露わにした彼は、なんと自分の両親の前で香奈恵にプロポーズした挙句、あれよあれよと結婚前提の恋人になってしまい――!? 「誰よりも大事にするから、俺と結婚してくれ」恋に不慣れな不器用OLと身分を隠したハイスペック御曹司の、問答無用な下克上ラブ!

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

溺愛婚〜スパダリな彼との甘い夫婦生活〜

鳴宮鶉子
恋愛
頭脳明晰で才徳兼備な眉目秀麗な彼から告白されスピード結婚します。彼を狙ってた子達から嫌がらせされても助けてくれる彼が好き

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。