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唯一無二の大切な存在

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 奏と結婚してから二ヶ月後の九月中旬。

 穂乃香は奏と共に、季節は秋だというのにまだまだ残暑厳しい日本を離れて、異国の地ロサンゼルスを訪れていた。

 だからって、奏の海外出張に第二秘書として同行しているわけじゃない。

 今回はビジネス抜きの完全なるプライベートである。

 結婚してからも多忙な奏のスケジュールには、まったくといって良いほど空白などなかった。

 なので、少し時間が空いてしまったが新婚旅行だ

 しかも期間は一ヶ月。

 時間的にも余裕があるので、ロサンゼルスの中でもセレブタウンとして名高いビバリーヒルズや、中心部に位置するダウンタウンにあるラグジュアリーホテルを一週間単位で渡り歩くという、何とも贅沢なステイホテルのはしごを楽しんでいる真っ最中である。

 どのホテルも、さすがはセレブたちがこぞって愛用するだけあり、料理のメニューも和洋折衷で豊富だし。日頃の疲れを癒やしてくれるスパもあるし、リーフトップのプールなどなど様々な娯楽施設も完備されている。

 一日中ホテルにこもっていても飽きることはない。

 お邪魔虫の柳本も同行しているのが少々残念ではあったが、何かと気を遣ってくれているようだ。

 お陰で、穂乃香は奏との新婚旅行をめいっぱい楽しむことができている。

 何ならずっとずっと奏とくっついていたいくらいだ。

 もしも叶うなら、奏の左手の薬指で眩いほどの輝きを放っている結婚指輪になりたいくらいである。

 穂乃香のように指輪になりたいとまではいかないまでも、くっついていたいという想いは奏も同じのようだ。

 こちらに来てからというもの、奏は穂乃香の側から片時も離れようとはしない。

 まだまだ新婚のせいか、以前にも増して、穂乃香に甘えてくるようにもなったし、穂乃香のこともとろっとろに甘やかしてもくれる。

 もちろん甘い台詞だって毎日欠かさない。

 この前も、手の大きさを比べるのに、互いの手のひらを重ね合わせていただけだというのに……。

「私の手は指が短くて不格好ですけど、奏さんの手は指が長いし、大きくて男らしですよね。ほら」
「穂乃香は俺を煽るのが上手いな。そんな風に色っぽい上目遣いで可愛いことを言われたら、もう我慢なんてできないよ。今すぐ穂乃香がほしい」

「あっ、ちょ……やんっ、待って」
「待てない」

 こんな風に隙あらば、時折見せる強引さと魅惑の美声で甘い台詞を囁きつつ、情熱的に迫ってくる。

 その都度、穂乃香は高級感漂う広く豪奢なスイートルームのベッドに組み敷かれ、朝も夜もなく、身も心もとろとろに蕩かされ骨抜きにされてしまうのだった。

 こちらに来てもうすぐ二週間になるが、目覚めた際にはお決まりのように、生まれたばかりの子鹿のごとく足腰立たなくされている。

 海外旅行なんて経験のなかった穂乃香としては、奏と一緒に街を散策したりして海外旅行を満喫したいので少し控えてほしいのだが。

 奏があんまり幸せそうにしているものだから、強くは言えないでいる。

 おそらく、これが贅沢な悩みというものなのだろう。

 といっても、別に嫌なわけじゃない。

 心から愛おしい夫である奏に求めてもらえるのだ――嫌なわけがない。

 これまでずっと気になっていたあのルールを気にしなくていいのだから、殊更だ。

 どういうことかというと。

 今を遡ること二週間前。奏の独断で決行された今回のロサンゼルス旅行は、あのルールをなくすための強硬手段として計画されたものだった。

 これまで奏は父・恭一を説得するために何度も実家に足を運んでいたのだが、頑として首を縦に振ろうとしない頑固な恭一の態度に心底呆れ果てていたらしい。

 そこで自分の覚悟がどれほどかを知らしめるために、秘密裏に進めていたロサンゼルスへの移住計画を決行することになったのである。

 といっても、以前奏が言っていたように、あくまでも表向きにであって、本当に移住するつもりだったわけではない。

 元々アメリカの大学に通っていた奏には、そう装うのも造作もないことだったようだ。

 先ずは、親類にそれとなく実家と縁を切るかもしれないとほのめかし、渡米した際には、別荘にちょうどよさげな物件を購入したりして、あたかも移住する段取りを着々と進めているように見せかけていたのだという。

 恭一も大企業の会長を務めているのだ。

 当然、優秀な経営者ではあるが、現在はそのほとんどを奏が引き継いでいる。

 そのため、現状を把握するのにタイムラグがあるようだ。

 そこも考慮し、恭一の第一秘書に根回しし、奏に有利な情報を流してもらっていたらしく、奏が本気で家を出るつもりで動いている、と思い込んでくれたらしいのだ。

 その仕上げに決行したのがロサンゼルス旅行だったというわけである。

 とうとう奏が決行したと誤解した恭一は、大慌てで柳本に連絡を寄越したらしい。

 その際には、柳本が涙ながらに奏が仕事を放り出して穂乃香を連れてロスに旅立ってしまった、とそれはそれは切実に訴えたのだという。
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