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かりそめの新婚カップル*
③
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もちろん、素敵すぎて指に嵌めるのを憚ってしまいそうなほど高価な結婚指輪まで贈ってもらっている。
職場でも『葛城穂乃香』ではなく、社長である奏の妻であり第二秘書の『竹野内穂乃香』として認識されている。
とはいえ、まだ覚悟もなく奏への想いを打ち明けていないので、実際には〝業務の一環としてのビジネス婚〟であって本物の夫婦ではない。
なので当初の予定では、社長である奏の立場を考慮し、旧姓を名乗るつもりでいた。
お試し期間が開始された三ヶ月前から、既に奏の恋人として認識されてはいるが、第二秘書として仕えている穂乃香は奏をサポートする立場にすぎない。
社長である奏の仕事の妨げになるなど言語道断。
そのはずが、いつもの如く察しの良すぎる柳本により、冷ややかに放たれた含みを持たせた言葉で、穂乃香の意見は一蹴されてしまったのである。
「穂乃香さんには、一日でも早く奏様の妻としての自覚を持ってもらわないといけませんし。もう既に本物の夫婦同然なのですから、問題ありませんよね」
――部屋に盗聴器でも仕掛けて、奏が過労で倒れた、あの夜のアレコレを聞かれていたのでは……。
一瞬、そんな疑念が脳裏を掠めたが、あれ以来奏を妙に意識してしまっている自覚もあるので、すぐに打ち消した。
当然、いつものように奏も穂乃香に加勢してくれた。
「俺は穂乃香の気持ちを尊重したい。それに呼び方なんてどちらでも構わないだろ」
けれど柳本は、あからさまに落胆するようにして肩を落とした。そうして。
「呼び方一つで仕事に支障が出るなんて、秘書失格ですね。秘書として認めていただけに残念でなりません」
悲痛な顔で嘆き悲しむように、秘書として否定されてしまっては、黙ってなどいられるはずもなく……。
「わかりました。今後は、柳本さんの仰るとおり〝竹野内穂乃香〟として業務に当たらせていただきます」
カッとなってしまった穂乃香は、毎度のことながら、まんまと柳本の思惑通りの言葉を返してしまっていた。
そんなわけで、周囲から〝竹野内さん〟と呼ばれるようになったのだが、呼ばれるたびに、胸の奥が甘く疼いてくすぐったく感じてしまう。
好きだと自覚した相手と同じ苗字を名乗るのが、これほど照れくさく、嬉しいものだとは思わなかった。
何より奏の隣は酷く居心地がいいのだ。
柳本の手のひらでコロコロと転がされているのだと思うと癪なのに、どうでも良くなってしまうほどに。
けれども奏の両親が何気なく漏らしたであろう本音が、ふわふわと浮き足立っていた穂乃香の心にストップをかけた。
職場でも『葛城穂乃香』ではなく、社長である奏の妻であり第二秘書の『竹野内穂乃香』として認識されている。
とはいえ、まだ覚悟もなく奏への想いを打ち明けていないので、実際には〝業務の一環としてのビジネス婚〟であって本物の夫婦ではない。
なので当初の予定では、社長である奏の立場を考慮し、旧姓を名乗るつもりでいた。
お試し期間が開始された三ヶ月前から、既に奏の恋人として認識されてはいるが、第二秘書として仕えている穂乃香は奏をサポートする立場にすぎない。
社長である奏の仕事の妨げになるなど言語道断。
そのはずが、いつもの如く察しの良すぎる柳本により、冷ややかに放たれた含みを持たせた言葉で、穂乃香の意見は一蹴されてしまったのである。
「穂乃香さんには、一日でも早く奏様の妻としての自覚を持ってもらわないといけませんし。もう既に本物の夫婦同然なのですから、問題ありませんよね」
――部屋に盗聴器でも仕掛けて、奏が過労で倒れた、あの夜のアレコレを聞かれていたのでは……。
一瞬、そんな疑念が脳裏を掠めたが、あれ以来奏を妙に意識してしまっている自覚もあるので、すぐに打ち消した。
当然、いつものように奏も穂乃香に加勢してくれた。
「俺は穂乃香の気持ちを尊重したい。それに呼び方なんてどちらでも構わないだろ」
けれど柳本は、あからさまに落胆するようにして肩を落とした。そうして。
「呼び方一つで仕事に支障が出るなんて、秘書失格ですね。秘書として認めていただけに残念でなりません」
悲痛な顔で嘆き悲しむように、秘書として否定されてしまっては、黙ってなどいられるはずもなく……。
「わかりました。今後は、柳本さんの仰るとおり〝竹野内穂乃香〟として業務に当たらせていただきます」
カッとなってしまった穂乃香は、毎度のことながら、まんまと柳本の思惑通りの言葉を返してしまっていた。
そんなわけで、周囲から〝竹野内さん〟と呼ばれるようになったのだが、呼ばれるたびに、胸の奥が甘く疼いてくすぐったく感じてしまう。
好きだと自覚した相手と同じ苗字を名乗るのが、これほど照れくさく、嬉しいものだとは思わなかった。
何より奏の隣は酷く居心地がいいのだ。
柳本の手のひらでコロコロと転がされているのだと思うと癪なのに、どうでも良くなってしまうほどに。
けれども奏の両親が何気なく漏らしたであろう本音が、ふわふわと浮き足立っていた穂乃香の心にストップをかけた。
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