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忘れられない夜
①
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「実は、浮気相手に子供がデキたんだ。だから結婚はできない。本当に申し訳ないと思っている。けど、俺を頼ってくれないどころか、甘えてさえくれなかった穂乃香にも責任があると思うんだ。俺は穂乃香に愛されていないんじゃないかって、いつも不安だったし、寂しかった。それが積もりに積もった結果だと思ってる」
開いた口が塞がらない。まさか自分がこんな目に遭うとは思わなかった。
予定では、今夜は二人にとって思い入れのあるイタリアンレストランで美味しい料理を楽しみながら、これからの未来について語らうはずだったのに……。
約束の時間に遅れてきてたった今元婚約者になったクズ男から、浮気相手が妊娠したから結婚はできないと告げられた。
婚約破棄された挙げ句、こうなった責任はお前にもあるんだから式場のキャンセル料の半分ぐらい出すのは当然だろ……と理不尽極まりないことをほざかれている。
ーーなんの罰ゲームよ。ふざけんな、このクズ男!
自分が惨めで仕方ないし、見る目のなかった自分に対して腹が立ってしようがない。
目の前のクズ男がこれ以上聞くに堪えない戯れ言を口にしないよう、ピシャリと言い放つ。
「わかったわ。キャンセル料は全額出すから、私の前から今すぐ消えて!」
そうして言い切ると同時に気づく。男のことを本気で好きではなかったのだとーー
彼は同じ会社に勤める営業部のエースで、穂乃香は秘書課に勤務している。
昨年の暮れ、同僚が主催した飲み会に参加した際、一目惚れしたと言って告白され交際へと発展。彼が三十になったのを機に婚約した。
婚約までしていたというのに、彼に対する感情は一瞬で冷めてしまったようだ。
彼との別れを悲しいとも思わないし未練もまったくない。彼のどこが好きだったのかも思い出せないくらいだ。
穂乃香には、仲睦まじかった両親のように、素敵な相手と巡り会って結婚し幸せな家庭を築くという、幼い頃からの夢があった。
おそらく、彼に告白されたことで、自分には無理だと諦めていた夢をこの人となら叶えることができるかもしれない。そんな幻想でも抱いてしまっていたのだろう。
そうとしか思えない。
ーーだからって、こんなクズ男と一年近くもの時間を費やしてきたなんて、本当に情けない。クズ男の顔なんか二度と見たくない。
そんな思いに駆られていた穂乃香には、冷静な判断能力などなかったのだと思う。
じゃなきゃキャンセル料なんて払うわけがない。
収まりのつかない感情を持て余した穂乃香は、何とか気持ちを落ち着けようと、目についたバーへと誘われるようにして足を踏み入れていた。
開いた口が塞がらない。まさか自分がこんな目に遭うとは思わなかった。
予定では、今夜は二人にとって思い入れのあるイタリアンレストランで美味しい料理を楽しみながら、これからの未来について語らうはずだったのに……。
約束の時間に遅れてきてたった今元婚約者になったクズ男から、浮気相手が妊娠したから結婚はできないと告げられた。
婚約破棄された挙げ句、こうなった責任はお前にもあるんだから式場のキャンセル料の半分ぐらい出すのは当然だろ……と理不尽極まりないことをほざかれている。
ーーなんの罰ゲームよ。ふざけんな、このクズ男!
自分が惨めで仕方ないし、見る目のなかった自分に対して腹が立ってしようがない。
目の前のクズ男がこれ以上聞くに堪えない戯れ言を口にしないよう、ピシャリと言い放つ。
「わかったわ。キャンセル料は全額出すから、私の前から今すぐ消えて!」
そうして言い切ると同時に気づく。男のことを本気で好きではなかったのだとーー
彼は同じ会社に勤める営業部のエースで、穂乃香は秘書課に勤務している。
昨年の暮れ、同僚が主催した飲み会に参加した際、一目惚れしたと言って告白され交際へと発展。彼が三十になったのを機に婚約した。
婚約までしていたというのに、彼に対する感情は一瞬で冷めてしまったようだ。
彼との別れを悲しいとも思わないし未練もまったくない。彼のどこが好きだったのかも思い出せないくらいだ。
穂乃香には、仲睦まじかった両親のように、素敵な相手と巡り会って結婚し幸せな家庭を築くという、幼い頃からの夢があった。
おそらく、彼に告白されたことで、自分には無理だと諦めていた夢をこの人となら叶えることができるかもしれない。そんな幻想でも抱いてしまっていたのだろう。
そうとしか思えない。
ーーだからって、こんなクズ男と一年近くもの時間を費やしてきたなんて、本当に情けない。クズ男の顔なんか二度と見たくない。
そんな思いに駆られていた穂乃香には、冷静な判断能力などなかったのだと思う。
じゃなきゃキャンセル料なんて払うわけがない。
収まりのつかない感情を持て余した穂乃香は、何とか気持ちを落ち着けようと、目についたバーへと誘われるようにして足を踏み入れていた。
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