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女装男子の裏事情
③
しおりを挟むいつものことだとは言え、文のあんまりな言い草に、秀は思わず悪態をついてしまっていた。
「よくそれで心療内科医が務まるよな」
俺様然とした見かけとは裏腹に元々人見知りで、文に言わせると、どちらかというと堅物と言われる部類に属しているらしい秀には、口が達者すぎる文に太刀打ちできる訳もなく、マシンガンの如く言葉の総攻撃が繰り出されてしまう。
「あら、失礼ね。担当患者には誠心誠意、全力投球で向き合っているわ。それに、接する相手によってそれ相当の対応を心がけているつもりよ」
それは的確かつ確実に、秀の神経を逆撫でしてくる。
こめかみの血管がピクリと反応する。切れるのも時間の問題かもしれない。
ーー駄目だ、堪えろ。ここで怒ったら負けだ。
これまでの経験上、感情に任せたら碌なことにはならない、ということは学習済みである。
秀はぐっと堪えて、極力抑えた声でやんわりと静かに問い返す。
「……で、俺に対しては粗雑に対応するのが妥当だと」
そこにすかさず返された、文からの笑み混じりの揶揄いと。
「あんたを弄ったり揶揄ったりするのが面白いからに決まってんでしょ。おかげで、本業が忙しくて創作できないときのいいストレス発散になってるわ」
酔って気分がよくなってきたときの合図である、背中を力任せにバシバシ叩くという迷惑極まりない行動に出られてしまっては、もう黙ってなどいられなかった。
けれども相手は酔っ払い。
なにより、多忙な上に、過酷な労働環境で日々戦っている医師には、冷静さと忍耐強さが必須だ。
それでなくとも秀は、恋と一夜を共にするというビッグチャンスを前に、酔った恋を自分のものにしてしまうことに躊躇し、悶々とした一夜を明かしたくらいの、鋼の忍耐と理性の持ち主である。
文からすれば、ただのバカだろうが、そういう理性の持ち主である秀には、造作もないことだと思われた。
これしきのことでいちいち目くじらを立てていたのでは、医者など務まらない。
そう心得てはいるのだが、所詮は医者も人の子。
少しぐらい感情を露わにしたって罰は当たるまい。
半ば開き直ってしまった秀は、苛立ちに満ちた反論を試みる。
「黙って聞いてりゃ。お前、俺のことを何だと思ってるんだ」
「だから、ストレス発散の万能アイテムだってば。ついでにネタにもなりそうだし。もうすぐ親戚になる恋ちゃんには黙っといてあげるから、ネタの提供よろしく頼むわよ。俺様鬼畜の変態さん」
「……」
結局は、無残にも返り討ちに遭うことになったのだった。
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